新たな秩序へ 急激な膨張に潜む内外の危機 中国の「光」と「影」
◆尽きない社会不安の種◆
超大国へとひた走る中国にとって、2008年は様々な面で「光」と「影」が交錯する年となるだろう。
8月には北京五輪が開催される。市場経済化を進める改革・開放政策の導入から30年。北京五輪は、この間の国力伸長を内外に誇示する絶好の舞台となる。
世界一の外貨準備高の多角運用を目的に、中国は昨年秋、政府系ファンドを設立し、国際金融界の耳目を集めた。「世界の工場」から投資大国へ――。「中国マネー」が本格始動すれば、世界経済における中国パワーは、ますます強大になる。
一方で、急激な膨張は、中国内外に深刻な問題をもたらしている。国内では格差拡大や汚職のまん延、底なしの環境汚染など、社会不安の種は尽きない。
環境汚染は、国内から日本など周辺国へと広がり、「越境汚染」の様相を呈している。人権問題など意に介さない露骨な資源外交も非難の的だ。「中国は国力に見合った責任を果たしているのか」との国際社会の不信は募る一方だ。
「影」を直視し、内外に潜む危機に適切に対応できるか否か。中国は、困難な課題に直面している。
今、国際社会で強まっているのは、中国経済の過熱への懸念だ。
背景にあるのが「カネ余り」現象である。上海市場の株価は2年間で6倍に急騰した。昨年の固定資産投資は前年比25%超の大幅増となる見込みだ。
全体の物価水準も、危険水域に迫っている。昨年の物価上昇率は、8月以降6%台から下がらず、11年ぶりの物価高となった。中でも食品価格は18%を超え、低所得者層の生活を圧迫している。インフレは社会不安に直結する。
胡錦濤政権は昨年末、過熱経済の制御とインフレ抑止を今年の最優先課題とする方針を決めた。当然の措置だが、問題はその方針を徹底できるかどうかだ。
胡政権は、着々と権力基盤を固めてきた。だが、地方政府は地元利益を最優先し、中央政府の指示を無視する傾向が強い。今回の引き締め策も地方政府の面従腹背で空回りに終わる可能性がある。
過熱経済の元凶である「カネ余り」を根本から解決するには、やはり大胆な人民元の切り上げが不可欠だ。
◆人民元の改革を急げ◆
昨年1年間で人民元は対ドルで7%弱上昇した。だが、貿易黒字、外貨準備高とも急ピッチで積み上がった。より速いペースの切り上げが必要な証しだ。元高は物価抑制策としても有効なはずだ。
北京五輪開催や成長を優先するあまりに、引き締め策や人民元改革が後手に回れば、バブル崩壊といった深刻な事態もあり得よう。
米国、日本に次ぐ世界第3位の規模の中国経済が混乱すれば、国際経済にも大きな影響を及ぼす。日本は米欧と歩調を合わせながら、中国に適切な経済運営を求めていく必要がある。
経済と並び、軍事、外交の両面でも、中国パワーが国際政治の構図を変えようとしている。
軍事費は、公表分だけでも19年連続2けたの伸びで増え続け、近年、装備増強が急速に進んだ。米国防総省の年次報告は、「中国と台湾の軍事バランスは、中国優位に傾いている」と指摘する。
◆急速な軍拡が招く不信◆
胡政権は昨年の軍首脳人事で、対台湾作戦関連ポストを経験した将軍を大挙、登用した。装備の増強や人事の主眼は、独立志向を強める台湾けん制にあるとされてきた。
海軍は、外洋展開力の充実に努めている。軍内では空母保有論が公然と語られ始めた。ミサイルの増強や空軍力の強化も著しい。米国を中心に、「中国の軍拡の規模は対台湾作戦の想定を超える」として、軍事力強化の意図に対する警戒論が渦巻いている。
上海協力機構を構成するロシアや中央アジア各国との軍事演習は、年々、米国けん制の色彩を強めている。パキスタンやミャンマーの港湾を軍事拠点化する動きもある。中国には、中東・アフリカから原油を輸送するシーレーンを確保する狙いがある。
長期的には、政治・安全保障面でも、超大国・米国に拮抗(きっこう)する一極であろうとしているのだろう。
中国は近年、アフリカ、南米などで資源確保のため、大規模な援助外交も展開し始めた。問題は、ダルフール紛争を抱えるスーダンへの援助のように、中国の外交姿勢が紛争解決に逆行し、時に国際秩序の安定を損なっていることだ。
軍の透明度も低いままだ。
中国は昨年1月、ミサイルによる衛星破壊実験を行い、国際批判を浴びた。11月には空母キティホークを含む米軍艦船の香港寄港を唐突に3回にわたって拒否し、米国との関係が揺らいだ。
ゲーツ米国防長官は、「いずれも軍部の決定で、政府には伝えられていなかったようだ」と指摘した。2004年11月の中国原潜による日本領海侵犯事件でも、同様の見方がされた。こうした事例が、国際社会に不安を抱かせている。
経済、政治、軍事など、あらゆる分野での中国の膨張が、地域や国際社会の大きな不安定要因となっている。「中国問題」は、ますます国際社会全体の中心的な課題となっていくだろう。
2008年1月6日 読売新聞 社説