外を見れば、金融不安が深刻化し、原油価格は一バレル=一〇〇ドル水準に。内を見れば、ねじれ国会で政策が立ち往生しかねません。景気は雨雲警報が点滅しています。
米国経済の現状は、日本がかつて経験した金融危機の様相と酷似してきました。信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題は金融機関だけにとどまらず「底なし沼」のように、経済全体の足もとをすくい始めたようです。
発端は住宅バブルの崩壊でした。人々はそこそこの収入があれば、ローンで住宅を購入し、住宅が値上がりすると、ローンの借り換えで余裕資金を手にして、消費に回してきました。それで景気も良かった。
大やけどした金融機関
住宅価格が上昇しているうちは、それでお金が回っていたのですが、永久には続きません。二〇〇五年から下落し始めると、借り換えが難しくなる。ローンの多くは三年目から金利が急上昇する仕組みで、返済が滞る家計が続出しました。
銀行はローン債権を組み込んだ金融商品を大量に購入して、資金運用していましたが、多くの家計が借金を返せなくなると、たちまち値崩れしました。買いあさったのが不動産ではなく、住宅ローン債権を基にした商品という違いはあっても、バブル崩壊で銀行や証券会社が大やけどした構図は、日本とまったく同じです。
金融機関が保有する不良債権の総額は時の経過とともに膨れ上がり「最大五千億ドル(約五十七兆円)に上る」という予想もあります。三菱UFJ証券のチーフエコノミスト、水野和夫さんはこんな試算をしています。
家計部門の可処分所得に占める住宅ローンの割合をみると、現在は過去四十年余の平均水準に比べて、三・八兆ドルも過剰である。うち、一・二兆ドルを金融機関が損失処理し、残りの二・六兆ドルは家計が返済しなければならないと仮定すると、返済に九年かかる計算になる。
「失われた9年」の国?
「つまり、米国はこれから『失われた九年』の経済低迷に直面する可能性があります。もはや、住宅値上がりをあてにしたバブル消費に浮かれてもいられない。日本は米国の後を追いかけていると思ったら、実はバブルの発生と崩壊という形で米国を先取りしていたんですね」
米国は世界経済のエンジンでした。米国や欧州、日本の企業は賃金が安い中国やインドに大挙して進出し、製品やソフトを米国に輸出していく。対米輸出は新興国の成長を支えていました。新興国が輸出で稼いだドルもまた、対米証券投資の形で米国に還流しています。
モノもカネも米国中心に循環することで、全体が成長を続けたのです。米国を軸にした世界経済の一体化といっていいでしょう。その米国が傾くと、どうなるのか。
「米国が失速しても、中国やインドなど新興国の躍進が続けば、世界経済は失速しない」という楽観論もあります。しかし、一体化現象で米国が果たしてきた役割を重視すれば、米国の停滞は世界経済に大きな悪影響を及ぼす懸念があります。
そして、日本。
参院で野党が多数を占める「ねじれ国会」は、経済見通しを一段と不透明にしています。財政政策も金融政策も、どう展開するのか予測がつかないからです。
政府は十八日にも始まる通常国会に二〇〇八年度予算案を提出しますが、この予算案が本当に執行できるかどうか、微妙な情勢です。
予算案自体は憲法の規定で衆院の議決が優先しますが、予算関連法案は、そうはいきません。仮に、二十兆円余の赤字国債発行を可能にする特例公債法案や道路特定財源の暫定税率を維持するための関連法案が参院で否決されると、衆院で再議決しない限り、歳入には二十三兆円近い大穴があいてしまいます。歳入全体の四分の一以上です。
与党は衆院で再議決を目指す構えですが、もしかすると、年度内に成立できずに、数カ月の暫定予算という展開もありえます。
家計には消費手控え心理が働くでしょうし、株価をはじめ金融市場も不安定になる。これでは、とても経済にプラスとは言えません。
日銀の金融政策も先行きが読めなくなってきました。サブプライム問題の深刻化で、さすがに利上げ機運は遠のきましたが、日銀総裁が三月に任期満了を迎え、副総裁を含めてトップ交代が待ったなしになっているからです。
日銀総裁空席の事態も
金融政策は総裁と二人の副総裁、六人の審議委員による多数決で決まるとはいえ、総裁ら三人の顔ぶれによって、政策の方向感覚が変化するのは当然でしょう。総裁人事は国会同意人事であるため、与野党が合意しないと「総裁空席」という前代未聞の事態も考えられます。
「ねじれ国会」は展開次第で経済政策ひいては生活を直撃します。与野党を動かすのは結局のところ、国民の目です。実のある議論になるよう、しっかり監視していかねば。
2008年1月6日 中日新聞 社説