「糸へんで生きるまち」読売新聞【編集手帳】
糸へんは、紡績などの繊維産業を言う。「西の西陣、東の桐生」と、かつてうたわれた群馬県桐生市は、今も糸へんで生きるまちだ。
ノコギリの歯のようなギザギザしたノコギリ屋根の建物が散在する。明治から昭和初期に建てられた織物工場の跡である。屋根の北側には採光用の窓が並ぶ。建物は木造だけでなく、煉瓦(れんが)、大谷石づくりと様々だ。屋根のルーツは英国という。
“糸へん景気”で賑(にぎ)わったのは昔のこと。鋭い牙を思わせるノコギリ屋根も、繊維産業の衰退や再開発には歯が立たなかった。十数年前から100棟が解体されて減少が続く。それでも220が残り、有数の集積を誇る。
映画「SAYURI」で、主演女優のチャン・ツィイーが豪華な桐生帯をしめた。帯メーカーは、ノコギリ屋根で今も織機が活躍する老舗の後藤織物だ。「きりはた」という独自の桐生ブランドを同業の仲間たちと育てたリーダー企業である。
ノコギリ屋根の旧北川織物工場は彫刻、油彩画など芸術家が集まる工房に生まれ変わった。古い工場を再生したパン屋と和菓子屋も近く誕生する。桐生の伝統を守り、活用する意欲の賜物(たまもの)だ。
ノコギリ屋根は経済産業省の「近代化産業遺産群」に選ばれた。糸へんで頑張る現役組と、新たな再生プランが交じり合う。地域の活性化に弾みがつくだろう。
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