国家犯罪の闇の深さ【春秋】
ピンク・レディーの「モンスター」がはやっていた。18歳の少女作家が書いた「海を感じる時」が話題だった。甲子園ではPL学園が劇的な逆転優勝を果たした。どれも30年前の夏の出来事だ。サミットは旧西独のボンで開かれた。
そんなころ、じつは北朝鮮の工作員が日本人を集中的に拉致していた。1978年6月に田口八重子さんら2人、7月に蓮池薫さん・祐木子さん夫妻ら4人、8月には曽我ひとみさんら4人。政府認定の被害者17人のうち10人がこの夏に人生を引き裂かれている。8月の事件は、新潟と鹿児島で同じ日に起きた。
78年の悲劇が世に知れ渡るのは、ずっと後になってからだ。それ以前にも当時13歳の横田めぐみさんらが拉致され、80年代には欧州滞在の留学生らが被害に遭っている。あらためて資料に目を通すと国家犯罪の闇の深さに慄然(りつぜん)とする。その無法に対する怒りを、私たちは変わらずに抱き続けているだろうか。
いまも行方が知れない人は多い。やがて米国がテロ支援国家の指定を解いたとしても、拉致の現実は歴然と残り、この国が実行犯をかくまっている事実も消えはしない。78年のサミットはハイジャック防止の声明のなかで「テロ活動と闘う」とうたった。その陰でその夏、これだけの非道が繰り広げられていた。
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