田原総一朗の政財界「ここだけの話」 2008年7月3日
洞爺湖サミット 3つの課題を日本はどこまで仕切れるか?
7月7日から「北海道洞爺湖サミット」が開催される。
今回のサミットのテーマは、かねてから二酸化炭素(CO2)の削減、つまり地球環境問題だといわれていた。
ところが、結論から言えば、地球環境問題よりも大きなテーマが出てきて、そちらが主となる可能性が高くなってきている。
それは、物価高騰問題だ。
CO2削減も、物価高騰もどちらも非常に難しいテーマだといわれている。つまり、両方の問題に、出席者たちの意見が一致しないことが予測される。
指揮を執る福田首相は非常に難しい立場に置かれるだろう。
これ以上絞れない「ぞうきん」のような日本
まず、CO2削減の問題から見ていく。
昨年ドイツ・ハイリゲンダムサミットが開催された。このサミットのテーマは完全にCO2の削減、つまり、地球環境問題だった。
日本からは当時の首相だった安倍晋三さんが出席した。
昨年のサミットでは、一つ大きな変化があった。それはブッシュ大統領の態度が180度転換したことだ。
CO2問題では、必ず97年の京都議定書が出てくる。97年に行われた地球温暖化防止京都会議で、90年を基準にして、2012年までにCO2をEUは8パーセント、アメリカは7パーセント、日本は6パーセント減らすと決めた。
実はこのとき国内では、日本の6パーセント削減に反対する声が少なからずあった。
なぜなら、「90年が基準」ということが、日本にとっては非常に不利なのだ。
というのも、90年当時、日本はすでに環境問題対策に力を入れていた。73年の第一次オイルショック、79年に第二次オイルショックを経験し、石油の値段がガンガンと上がったので、省エネ技術を積極的に開発していた。90年の段階で、日本の省エネ技術は世界のトップであり、ぞうきんに例えると、ほとんど絞りきってすでに“カラカラ”の状態だったのである。
一方、EUの国々は90年を基準にすると非常に有利だった。
なぜなら、90年に、ドイツでは東西が統一され、それまで共産圏だった東欧の国々がEUに入ってきた。どういうことかというと、東ドイツや、東欧の国々は、共産圏時代の古い考え方のままで、それまで排気ガスも出しまくっていたし、ガソリンもどんどん使って、省エネなんて考えたこともなかった。CO2も多量に吐き出していた。
それが90年以後、EUとして一つになり、西ヨーロッパの高い技術が東ヨーロッパに広がっていった。90年が基準であれば、EUとしては特別なことをしなくても、京都議定書の8パーセントの削減は簡単なことだった。
90年の段階で、日本は“ぞうきんカラカラ”、EUは“ぞうきんビチャビチャ”の状態だったのだ。
そういう意味では、京都議定書は日本に非常に不利な内容だったのだが、アメリカもEUにおける東欧のような現象がないにも関わらず7パーセント削減にOKしてしまったので、日本もやむなく6パーセント削減をOKした。
京都議定書に調印したのはゴア副大統領(当時)だった。彼は映画『不都合な真実』でも有名なように、環境問題に強い関心がある人。もちろん京都議定書にもサインをしたわけだ。
ところが、当時アメリカの上院は共和党が多数を占めていて、ゴアが調印した京都議定書が国内では承認されず、結局批准されなかった。それで、アメリカでは7パーセント削減の話は消えて、京都議定書の蚊帳の外に出てしまった。
EUと日本だけ残ってしまい、日本は「しまった!」と思っているのである。
前回、独サミットは安倍さんが仕切った
そういう問題がある中で行われたのが、昨年のハイリゲンダムサミットだった。
ここで、今度はEUのうまい戦略にひっかからないように安倍首相(当時)と塩崎恭久官房長官(当時)が努力をした。
ハイリゲンダムサミットではまずドイツのメルケル首相が「2020年までにCO2を20パーセント削減」という目標を打ち出した。これは、前述の理由で90年の段階で“ぞうきんビチャビチャ”だったEUにはわけない数字なのだ。しかし、アメリカ、日本はできっこない。
アメリカにとっては「数値目標なんて急に言われても困る。冗談じゃない!」ということで、サミット開始早々、ドイツのメルケル首相とアメリカのブッシュ大統領で議論になった。さらにフランスのサルコジ大統領も、当然ドイツ側につき、三者入り乱れて混乱してしまった。そこでイギリスのブレア首相(当時)が仲裁に入り、「ともかくここは一旦休憩に入ろう」と言って、休憩になった。
安倍さんは僕に「田原さん、サミットというのは、話し合いの場だと思っていたら、いきなりケンカの場だった。私の英語ではとてもケンカはできない」と言っていた。
休憩を挟んだところで安倍さんが、かねてから、日本、アメリカ、そして中国の温家宝首相、胡錦濤主席と約束していた「2050年までに50パーセントCO2削減」ということを切り出した。結局、これを目標にすることをEUもアメリカも、中国も受け入れた。
だから、実は昨年のハイリゲンダムサミットを仕切ったのは日本の安倍さんなのだ。
しかし、このことを日本の新聞はほとんど書かなかった。当時、日本国内では、社会保険庁の問題や、3人の大臣の「政治とカネ」の問題があり、“安倍叩き”が流行していたからだ。
CO2削減では先進国と新興国とが対立
日本の新聞はこの功績を書かないわけだが、とにかく安倍さんが仕切って「2050年までに50パーセント削減」という目標ができたわけだ。
そうなると、当然今度は、2050年に至るプロセスを固めなければならない。
当初は「2020年までにCO2を14パーセント削減する」という案がEUから出されていて、福田康夫首相も一時はこれに乗った。
そういう目標をきちんと福田さんが提示すれば、洞爺湖サミットも開催国の首相である福田さんが仕切ることができると思われた。
ところが、実はこれに経団連が「そんなことをしたら日本の産業力が衰えてしまう」と大反対した。経団連の中でも、特に大企業2社が大反対した。
そして、経団連にめっぽう弱い経済産業省もこの数値目標に反対した。
本当は環境問題には環境省が取り組まなければならないのだが、環境省は評論家の集まりのようなところで、全く力がない。いろいろ文句は言っていたのだが、結局日本の中で数値目標は消えてしまった。
さらに、あまり報道されていないことなのだが、CO2の削減を巡り、EU、アメリカ、中国で意見が分かれてしまっている。
EUは「きちんと数値目標を出そう」と言っている。それに対して、アメリカは「EUとアメリカ、あるいは日本だけが数値目標を出しても意味がない。インドや中国、ブラジルといった国々を巻き込まなければ、先進国だけ数値目標を決めても地球上のCO2は減らない」と主張している。ところが、中国やインドは「冗談じゃない。先進国は今までCO2を出しっぱなしにしてきた。自分たちの国はやっと工業化が始まったばかりだ。同じような条件で先進国並みに規制されたらたまらない。先進国と、これから工業化する国を同じ土俵に載せるな」と言っている。
結局、EU、アメリカ、そして中国、インドなどの新興国が対立したまま現在に至っている。
この対立をどうすればよいのか困っている、というのが、現在の日本の立場だ。
このままでは「2050年までに50パーセントCO2削減」の道筋は立たないだろう。
そういうわけで、福田さんが困りきっていたところに、今度は石油の値段がどんと上がった。
跳ね上がる原油価格そして穀物価格も…
石油なんていうものは、石油を掘り出して、精製し、商品にするまでに、だいたい1バレル4ドルから5ドルしかかからない。30?40ドルで売れば十分もうかるのだ。
ところが、何と今やテキサスのWTI(West Texas Intermediate)(※)で、1バレル142ドルにまで高騰している。正常価格の3倍以上に膨れ上がってしまった。
これは投機だ。
アメリカでサブプライムローンが破綻した。金は世界中で余っている。ところが投資する先がない。石油というのは将来なくなることが固い、というわけで、今や原油が格好の投機先になっている。それで値段が跳ね上がっている。
※米国テキサス州を中心に産出される原油のことで、原油価格の代表的な指標になっている。
原油が跳ね上がったので、今度は穀物、金、そういうものが全部跳ね上がった。
穀物というのは、地球上の皆が食わなければならない。これから地球の人口が増え、食物が足りなくなるだろうということで、これもうまい商売だということになる。それで穀物が上がった。
原油、穀物、金の値段がすべて上がってしまい、世界中が困っているわけだ。
これは僕の個人的な体験だが、昨夜近所の寿司屋さんに食べに行ったら、ネタの値段が全て上がっていて驚いた。玉子まで上がっていた。「これは大変だ」と思った。コンビニもスーパーも大変だろう。
CO2削減と物価高騰これらにどうケリをつけるか
物価高騰の問題をめぐっては、6月中旬に大阪でG8財務相会合が行われた。
8つの国の財務大臣が集まって、この物価高騰、インフレをどうするか、ということが話し合われたのだが、ここでもEUとアメリカが激突した。
アメリカは「石油や穀物が高騰しているのは、ブラジルやインドといった国がどんどん工業化し、豊かになっていて、どんどん石油を使い、贅沢になって食べ物をたくさん食べるようになっているからだ」と主張している。
それに対してEUは「冗談じゃない。高騰の原因はアメリカにある。アメリカが全部投機に利用しているからだ。原油が1日に10ドル近く上がったことがあった。こんなものは投機以外の何ものでもない」と主張した。
EUは「アメリカの投機のせいだ」と言い、アメリカは「そんなことはない」と言い、このケンカも決着がつかなかった。
結局「インフレを見守る」などという中途半端なところでG8財務相会合は終わってしまった。
CO2削減の問題も物価高騰の問題も、何のケリもつかず結論も出ない。もめたままの状態で7日から始まる洞爺湖サミットに入ることになる。
さあ、これを日本の福田首相が、どのようにさばくことができるのか。非常に難しい問題だと思う。
福田さんがサミットまでに腹を固める必要がある。少なくともCO2については、国内は大反対だろうが、何らかの数値目標を出すべきだ。これをどうするか。
物価高騰については、どうしようもないのだが、アメリカの無茶苦茶な投機に対しては規制などということを打ち出せるかどうか。
こういうことがテーマになってきた。
排出権取引もいずれ投機の対象になる?
さらにもう一つ大きな問題がある。
今、ヨーロッパではキャップ・アンド・トレード(排出権取引)が話題になっている。
キャップ・アンド・トレードとは、各国や各企業ごとに温室効果ガスの排出枠を定め、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えて排出してしまった国や企業との間で取引する制度だ。例えば100をレベルとしたときに、CO2の排出量を80に抑えられたところは、120出してしまったところに20を売ることができる、といった仕組みだ。
ヨーロッパではこの排出権取引をすでに実行し、アメリカもこれをやろうとしている。
そこで日本でも「この排出権取引に早く参加すべきだ。早く参加しなければ“乗り遅れてしまう”」といった意見が強い。
しかし、僕は排出権取引に対しては慎重論だ。
排出権取引は、下手をすれば、いや、下手をしなくてもアメリカの投機の対象になる。
次にアメリカは地球環境まで投機の対象にするのではないか。
サブプライムローンでさえ、「家」という担保があった。今度の投機の対象は「空気」だ。空気を担保にして始まる投機なんて、考えただけで恐ろしい。
僕は、これで一番損をするのは日本だと思っている。
排出権取引を始めてしまうと、どうも日本の不慣れな投機に巻き込まれて、日本が結局割りを食うという気がしてならない。
だから、僕は排出権取引にはあまり賛成ではない。
こういったものより、むしろ「炭素税」を設けるべきだと考えている。
これは、すでにドイツなんかは始めている税制度。どういうものかというと、省エネをするための技術開発や、CO2を出さないためのメンテナンス、設備投資に使うための税金だ。まずこれを作るべきだと思う。