岳道の時事放談ですよ~ん
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【余録】太平洋戦争での日米両軍でよく比較されたのは…
2017.06/27 (Tue)
太平洋戦争での日米両軍でよく比較されたのは日本の軍艦や飛行機の防御面の弱さだった。とくに被弾した場合の損害をできるだけ小さくする「ダメージコントロール」の考え方の乏しさが指摘されてきた。背景には技術や資源の制約、軍人の攻撃優先や人命軽視の思想があったが、損害の想定自体を嫌う心理もうかがえた。さすがに戦後の日本人はこの失敗に学び、不測の事態には被害を最小限に封じる策を身につけた……はずであった。
今の形の車のエアバッグを考案したのは日本の技術者・小堀保三郎(こぼりやすざぶろう)という。ただその特許は世界的な普及の直前に切れた。自動車事故のダメージコントロールをめざす小堀の着想は最近注目の歩行者保護のエアバッグにも及んでいた。
いわばその志を継ぎエアバッグ生産で世界シェアの2割を占めたタカタが民事再生法適用を申請した。負債総額1兆円超、製造業で戦後最大の倒産をもたらしたのは、1億台以上がリコール対象となったエアバッグの異常破裂だった。
すでに十数年前に異常破裂を知りながら対応が後手後手に回って死者も続出、米当局や議会から「責任逃れ」と集中砲火を浴びたタカタだった。不測の事態に手をこまねいて被害を広げた典型的なダメージコントロールの失敗である。
今後、中国企業傘下の米社の支援によって再建を進めるというが、日本の製造業への信頼まで大きく損ねたタカタの危機管理のお粗末だった。シートベルトも、エアバッグもなかった企業の迷走の結末である。
毎日新聞 2017年6月27日
