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DATE: 2008/10/16(木)   CATEGORY: コラム
“劇物汚し”という邪悪な献立【編集手帳】

作家の山田風太郎さんが終戦の翌々年、1947年(昭和22年)の日記に食の窮乏を書き留めている。「米食わざること既に一週、常食はいんげんなり」と(小学館「戦中派闇市日記」)。

 

インゲン攻めに「十歩あゆめば足重く、想をかまえんと欲するも頭脳まとまらず」という日記の脱力症状ならばまだしも、強烈な異臭を放ち、味見で舌がしびれるとは沙汰(さた)の限りである。

 

中国産の冷凍インゲンから基準値の3万倍を超える濃度の殺虫剤「ジクロルボス」が検出された。調理中の女性が一時入院した。製造過程か、流通過程か、混入の経路はまだ分からない。

 

残留農薬ではそれだけの高濃度にならないという。人為の疑いが濃い。インゲンを用いた人気メニューの一つにゴマあえ、別名「ゴマ汚(よご)し」があるが、“劇物汚し”という邪悪な献立を、誰が、どこでたくらんだのか。

 

戦中戦後の食糧難を支え、いまも食卓を彩る大事な友であるインゲンを、中国から日本にもたらしたのは明の渡来僧、隠元(いんげん)と伝えられる。国境をまたぐ食材に安心を取り戻せなければ、「グローバルの禅僧」と称(たた)えられたその人が泣く。【編集手帳】

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