経営者の志【編集手帳】
トヨタ自動車名誉会長の豊田章一郎さんから、カマボコづくりの修業をした思い出をうかがったことがある。終戦直後、まだ大学に通うころ、北海道稚内市で海辺の小屋に住み込んだというから本式である。
戦争が終わり、トラックの需要が激減した。乗用車の時代はまだ来ない。従業員を食べさせるには自動車のほかにも事業を広げねばならず、「食いはぐれのないのは飲食関係」という思案の末がカマボコだったという。
のちに朝鮮戦争特需でトラックの業績が盛り返し、トヨタ印のカマボコは幻に終わったが、トヨタの歴史で一番つらいころである。
と、1年前ならば書けた。「一番つらいころ」はもしかするとこれからかも知れない。販売不振と円高で、来年3月期の連結決算は営業利益が1500億円の赤字に転落するという。終戦直後にもなかったことである。雇用にも深刻な影響が及ぼう。
現在の巨大トヨタにカマボコ談議が無益であることは承知している。学業途中の創業家御曹司に不慣れな修業をさせてまで従業員を守り抜こうとした、当時の経営者の志だけは忘れずにいてほしいと、切に願う。【編集手帳】
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