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DATE: 2008/12/31(水)   CATEGORY: コラム
朝の来ない夜はない【天声人語】

影法師のことをシルエットと呼ぶのは、18世紀フランスの財務大臣の名にちなんでいるらしい。財政難のとき、彼は厳しい倹約策を進めた。豪華な肖像画をやめて質素に白黒で描くよう唱えたため、後世に名を残した。そんな説が伝わっている。

 

この歳末はシルエットばりの倹約が目立つようだ。札幌の印刷業の人が本紙声欄に、白黒の年賀状注文が増えていると寄稿していた。100枚で900円安くなるというから、切実な生活防衛だ。明ければ届く挨拶(あいさつ)にも不況の影は伸びている。

 

こよい紅白歌合戦で、森進一さんは封印されていた「おふくろさん」を歌うそうだ。♪雨の降る日は傘になり お前もいつかは世の中の 傘になれよと…。なじみの歌詞に、土砂降り景気に傘なき人が重なり合う。

 

「天気の良い時に傘を貸し、雨が降れば返せと迫る」と、銀行を皮肉って言う。しかし銀行ばかりではない。名だたる企業も算盤(そろばん)ずくで人を雇い、景気次第で使い捨てる。働く者の尊厳も守れぬ荒涼が、寒空の下で大手を振る。

 

黙々と汗する者の姿に、「年寄りを養ったり、女房子供をいとおしんでいたり、みんながそれぞれの生活を持っているのだと思うと、見ているだけで涙が出てくる」と心を寄せたのは作家の吉川英治だった。自らも貧困の中で辛酸をなめた人だ。

 

経営者や政治家に吉川の思いありや。米国型錬金術の崩壊は、冷や水の一方で、迷い込んだ道から引き返す道しるべでもあろう。「朝の来ない夜はない」。作家が座右に置いた言葉を信じつつ、新たな暦をめくる。【天声人語】

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