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DATE: 2009/01/12(月)   CATEGORY: コラム
「1つの」のあとは何でもいい【春秋】
「道具は物でない。自分の心の尖端(せんたん)である」という言葉をある職人が残している。板前や大工なら道具はまず刃物だろう。刃物はすぐなまくらになる。だから腕が立つほどに、道具を大事にするため砥石にもこだわるようになるという。

「女房を質に入れてもいい砥石を買え」とは職人の世界の物言い。そこまでの心意気なんだ、と理解するとして、さて、人間にも砥石が必要だというのが、作家の井上ひさしさんだ。必ず切れなくなるときが来るのに、おればかりは研がずとも大丈夫とうそぶいて振り回すようではいけない、という話をしている。

職人が刃物を研ぎ続けるのと、人が心の尖端を研ぎ続けるのと。何の違いもないだろう。平成という時代とともに育って成人の日を迎えた若者にも、これから砥石を探し求め、研いで、の長い日々が続く。職人の砥石はそれぞれの研ぎ癖がつくので、他人に貸したがらないという。心の研ぎ癖も人それぞれである。

こんな一節があった。「つまるところ人生とは1冊の本、1人の女性、1人の親友、1本の酒、1つの言葉(詩)を求める旅だったな」。昭和史研究家でことし70歳になる保阪正康さんが、近著のあとがきで紹介する同年代の友人の言葉だ。「1つの」のあとは何でもいい。どこかに研ぎ癖を刻めれば、と思う。【春秋】
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