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DATE: 2009/01/14(水)   CATEGORY: コラム
「アリの一穴」の攻防【余禄】
斉の国王が絵を描く食客にたずねた。「絵で何が一番描きにくいか」。すると絵描きが答えた。「犬や馬が最も難しい」。「では何が簡単か」と斉王が重ねて聞くと、絵描きは「化け物が一番やさしい」という。

驚く斉王に絵描きは説明した。「犬馬はみんながよく形を知っているから描くのが難しい。化け物は見えないからどう描こうと良く、簡単だ」。中国の戦国時代の書物「韓非子」にある話だ。法と賞罰による支配を唱えた韓非は人間性への冷ややかなリアリズムの持ち主のようだ。

その「韓非子」には「千丈の堤は螻蟻(ろうぎ)の穴をもって潰(つい)え、百尺の室は突隙(とつげき)の烟(けむり)をもって焚(や)く」との言葉もある。巨大な堤防もケラやアリの穴から崩れ、豪壮な家も煙突のひびにより焼失するとの意だ。いわゆる「アリの一穴」論の出典だ。

さて自民党崩壊のアリの一穴になるかとの声も飛び出た渡辺喜美元行政改革担当相の離党届提出だ。自らの提言を拒んだ麻生政権に「国民と断絶した官僚主導政治」との非難を浴びせての離党劇である。今後は党派を超えた国民運動を呼びかけ、新たな政治勢力の結集を図るという。

むろんアリの穴をふさぎたい自民党は「黙殺」の構えだが、党内の動揺もなくはない。当然、一挙に穴の拡大に期待する野党は歓呼の声を送っている。そのご当人の脳裏には与野党間の堤が崩れた後の政界再編の絵も浮かび上がっていよう。

「政治家の義命」を掲げた渡辺氏だが、まだ誰も見たことのない政界の絵だけなら国民の人気目当てにどうにでも描けよう。ただ今政治の袋小路を破るのに必要なのは犬馬の絵のような、具体的で分かりやすいビジョンに違いない。【余禄】
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