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DATE: 2007/07/28(土)   CATEGORY: コラム
「銘々一己の存じ寄り」毎日新聞【余禄】

「こめやま久右衛門様御長人(としより)ニたのミ上ケ申候」。寛文11(1671)年の甲府での長人(後の名主)の入札(いれふだ)、つまり選挙で投じられた票の文面だ。米山久右衛門という人への投票だが、漢字、かたかな、ひらがなのまぜ書きに、札に託したひたむきな思いがにじむ。

 

紙の大きさや書き方はまちまちで「三右衛門殿」と名だけの票、「久右衛門殿か三右衛門殿」と2人への投票、また6人の輪番を提案した票もある。近世史家の川鍋定男さんは、この入札には個々の意思がみごとに表れていると指摘した(「争点日本の歴史5」新人物往来社)。

 

江戸時代には入札で村役人を決める地域も多かったが、甲府の例は現在残る入札で最も古いという。同じころ、上州のある村では名主入札を前に神前で一同による次のような誓約が行われた。「親子兄弟を知らず、邪心を捨て、贔屓荷担(ひいきかたん)仕(つかまつ)らず、正直速(すみやか)に名主入札仕るべく……」。

 

すなわち私情や相談によらぬ正直−−公正な投票をすると神に誓っているのである。川鍋さんの論文によれば、入札は「銘々一己の存じ寄り」、つまり個々の存念の通りに投票するのが建前だったという。神に誓うといった形を取りながらも、かなり近代的な考え方のようにも思える。

 

年金、格差社会、政治とカネ、教育、憲法などが争点となった参院選も、いよいよ明日投票となった。世論調査によれば、史上まれにみる与党への大逆風が吹きすさぶ中での選挙である。ただそれがどうであれ、投票日に吹く風の向きと強さは有権者一人一人がこれから決めることだ。

 

問われるのが「銘々一己の存じ寄り」であることは、昔も今も変わりはない。ただ江戸時代の入札とちがって投票は規定通り書かないと無効になるのでご注意を。

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