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DATE: 2009/04/11(土)   CATEGORY: 社説
15兆円補正―大盤振る舞いが過ぎる
 財政支出15兆円余、事業規模は57兆円。過去に例のない大規模な新経済対策を政府・与党がまとめた。

 米国政府に「国内総生産(GDP)の2%相当の財政刺激」を約束した麻生首相は2%、つまり10兆円規模の財政支出を指示していた。しかし、総選挙を控えた与党の議員から「需要不足が20兆円超とされるのに足りない」といったむき出しの要求が高まり、膨れ上がった。

 この結果、すでに決定ずみの対策も合わせると、今年度の財政出動はGDP比3〜4%程度となる。超大型景気対策をとっている米国や中国とも肩を並べるような水準だ。いくら深刻な経済危機に直面しているとはいえ、先月成立した経済対策の予算執行が始まったばかりの段階で、これだけ大規模な追加対策が必要だったのだろうか。

 「規模ありき」で性急に検討が進んだため、メニューには不要不急の項目がかなり紛れ込んだようだ。

 検討過程で、自動車や不動産などの業界が与党議員に働きかける姿も目立った。このためか業界支援色が濃い。エコカーや省エネ家電への買い替え補助は低炭素社会への転換を大胆に促すほど厳しい基準は設けず、住宅取得目的の生前贈与減税にも踏み切った。

 各省庁も予算拡大に動いた。食糧自給率向上へ向け減反政策の見直しを進めている農林水産省は、その結論も出ていないのに、従来の減反を推し進める対策費の増額を盛り込んだ。

 世界経済危機に直面し、日本経済も大きな痛手を負った。ショックを緩和し、社会不安を防ぐ安全網を整備し、経済活性化策を打ち出すのは政府の役割である。だが、それにしても「大盤振る舞い」が過ぎないか。

 民主党も2年間で21兆円の財政出動をする経済対策をまとめた。与野党あげて選挙目当てで規模を競う様相となっており、歯止め役が不在だ。

 政府案では、今年度の新たな「国の借金」(新規国債発行額)は空前の43兆円超となる。不況による税収の大幅減が見込まれるので、さらに膨らむだろう。新規の国債発行を極力抑え、主要国最悪の財政状態を立て直そうとする財政再建路線は挫折した。「11年度に基礎的財政収支を黒字に」という旗を麻生政権は降ろしてはいないが、実際には葬り去ったも同じだ。

 消費刺激型の景気対策は、将来の需要の「先食い」でもある。そのために政府が借金するのは、子や孫の世代へ「負担のつけ回し」になる。一時的に景気刺激効果があっても、長い目でみればマイナス面が少なくない。

 米オバマ政権は大規模な景気対策を打ちながら、任期4年で財政赤字を半減という目標も掲げた。いばらの道ではあろう。だが、将来世代に対し責任を果たすことも、政治の役割である。

4/10 朝日新聞 社説
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DATE: 2009/04/11(土)   CATEGORY: コラム
寡黙な善行【有明妙】
通勤途中、いつも同じ所で同じ人と出会う。黄色い小旗を持って子どもたちの通学指導をしている70年配の男性である。こっちは車だから、その人の名前はもちろん、どういう人だか知らない。

雨の日も風の日も。いつのころからか自然と目で会釈をするようになった。世の中にはこんな感心な人たちがいるが、先日「これはとても涙なしには読めない本。”八十のじいさんが木を植える”物語だ」と、最近涙もろくなって困ると言う知人が一冊の本を教えてくれた。

『木を植えた人』(こぐま社)。ジャン・ジオノというフランスの作家が50年も前に書いた短編。フランスの山岳地帯にただ一人で木を植え続け、荒れてやせた地を森に蘇(よみがえ)らせた男の話。この原作で『木を植えた男』(あすなろ書房)というフレデリック・バッグの絵本もあった。

妻と子どもに先立たれた孤独な羊飼い。愛犬と一緒に静かに暮らしていたが、ある日「死ぬ前に何か一つぐらい世の中のためになることをやって死んでいきたい」と、考えに考えたあげく「そうだ、木を植えよう」。ドングリの実を拾い、それを選び、穴を掘って植えていく。

木の成長は遅々としたもの。自分が生きている間にその緑を見ることはないかもしれない。知人は「それでも黙々と植えていく羊飼いの姿に涙を流さずにはおれなかった」と自身も齢(よわい)80を超えた境遇を重ねたのだ。種はやがて芽を出し、枝を伸ばし、木になり、林になり、緑したたる森になった。

何の見返りも求めず、ひたすら一つ事を成し遂げようとする人がいる。この世の中を変えるのはそんな無私無欲の行為かもしれない。登校指導であれ、植樹であれ、寡黙な善行には敬意を抱かずにはいられない。
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DATE: 2009/04/11(土)   CATEGORY: コラム
マリアージュ【中日春秋】
賢妻なら「山内一豊の妻」。その逆に、悪妻と言えば「ソクラテスの妻」ということに、世間ではなっている

妻クサンチッペに関(かか)わるソクラテスの逸話はいくつかあるが、これも有名な一つ。ある時、夫に怒鳴り散らしたクサンチッペはまだ収まらず水を浴びせかけた。が、さすができた夫、いや哲人。少しも騒がず言ったとか。「雷には大雨がつきものだ」

ソクラテスはこうも語ったという。「若者は結婚すべし。相手が良い人なら幸福になれる。もし、そうでなくても哲学者になれる」。苦労はあったにしても、どうも、悪くない取り合わせの夫婦だった気がしてならない

フランス人は時に、料理やチーズとワインの相性を「マリアージュ」と呼んで結婚にたとえるようだが、蓋(けだ)し巧みな表現である。1+1が3にも、4にも。それぞれの味が、相俟(あいま)って一層引き立つ。それこそが結婚の妙味であろう

きのう、天皇、皇后両陛下が結婚五十年を迎えられた。全国から同じく今年、金婚式の夫婦を宮殿に招き、懇談されたようだ。それぞれの夫妻がいかなる「マリアージュ」であったかは問うまでもない。ともに歩んだ時間、半世紀という歳月が、その十分な答えである

無論、快晴続きとはいかない。雷や雨の日もあっただろう。だが、確かなことは一つ。結局、誰も「哲学者」にはなれなかったということである。【中日春秋】
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DATE: 2009/04/11(土)   CATEGORY: 社説
追加経済対策 効果の検証が欠かせない
 政府・与党が追加経済対策を決定した。事業規模で56兆円超、財政支出で15・4兆円だ。その財源措置を盛り込む今年度補正予算案は経済対策として過去最大で、月内にも国会提出する。

 今回の対策で目立ったのは、何といっても15・4兆円という財政出動規模である。これまでの対策を合わせると、その規模は28兆円近くに上り、米国が各国に求める国内総生産(GDP)比2%の2倍以上に達する。

 経済財政諮問会議で民間議員が示した必要な財政出動規模の試算でも10兆円だったから、いかに膨らんだかがわかる。特別会計積立金や建設国債では足りずに、8兆円程度の赤字国債も増発する。

 先進国で突出して財政が悪化している国が、最大の財政出動を行うわけだ。そうである以上、対策効果も最大でなければならないが、それがはっきりしない。

 例えば住宅購入などが条件の贈与税軽減は、株式市場対策と合わせて資産デフレ防止に一定の効果があろう。だが、金持ち優遇との批判を恐れて子ども手当まで拡充した。一過性の効果しかない地方向け公共事業も拡大された。

 成長分野である環境対応に目を向けたのはいいが、エコカーへの買い替え支援にしろ、参考にしたドイツとは買い替えサイクルが違う。省エネ家電の購入支援では、量販店のポイント制度を考慮しないと混乱するだけだろう。

 麻生太郎首相が言うように景気の底割れは防がねばならないが、その財源は国民の借金である。対策でどれだけ需要と雇用が創出され、将来の成長にどう貢献するのか。その目標と効果が不透明では説明責任が果たせまい。

 首相はそれを一定期間ごとに検証し、国民の前に示すべきだ。もちろん、裏付けがないと指摘される首相肝いりである今後10年間の「成長戦略」も対象になる。

 もう一つ大事なのは、先進各国が景気対策と同時に練っている回復後の「出口戦略」、つまり財政健全化策だ。対策に盛り込まれた税制中期プログラムの改定だけでは具体性に欠ける。

 財政悪化は将来の成長を阻害しかねない。消費税への対応や基礎的財政収支黒字化の目標などをどうするのか。今年の骨太の方針に向け明確にせねばならない。

 過去最大のばらまき対策だったと批判されないよう、首相には重大な覚悟が求められる。

2009.4.11 産経新聞 社説
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DATE: 2009/04/11(土)   CATEGORY: コラム
金総書記の様変わり【余録】
旧ソ連のスターリン時代の独裁と物資の欠乏は多くのアネクドート(風刺小話)という“文化遺産”を残した。次のコルホーズ(集団農場)の会議の話もその傑作の一つである。

−−コルホーズの集会で議長が言った。「今日の議題は二つあります。第一は納屋の修繕で、もう一つは共産主義の建設についてです。しかし板がないので、早速、第二の問題に移りましょう」(川崎浹(とおる)著「ロシアのユーモア」講談社)。

そのスターリン型独裁を旧ソ連から受け継ぎ、今日なおその命脈を保つ北朝鮮である。先のアネクドートも「コルホーズ」を「協同農場」に、「共産主義」を「強盛大国」に変えればどうだろう。いや、伝えられる地方の生活の窮乏と荒廃はもう小話どころではないのかもしれない。

その疲弊する独裁体制の主である金正日(キムジョンイル)総書記が、病後のやつれた姿であえてカメラの前に現れた。病状につき憶測が乱れ飛んだ総書記だが、国防委員長に3選されての最高人民会議への登場だ。健康をかえりみずに働く姿を示し、国民を鼓舞する狙いだと解説する向きもある。

だがカリスマとは神が与えた超人的能力をいう。指導者が独裁的カリスマを装う政治体制にとって、独裁者その人の衰弱は誰の目にも分かる最大の危機だ。困窮の深まる中、独裁者の様変わりを見た国民は体制の先行きに何を感じたろうか。

誰も観測できない人工衛星でも国民にその存在を「祝賀」させる北朝鮮だ。だがさすがに目の前にない食糧をあるとは言い張れない。そういえばアネクドートにこんなのもあった。−−「卵とニワトリと、どちらが先に存在したのか?」「以前は両方ともあった!」【余録】
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DATE: 2009/04/10(金)   CATEGORY: コラム
GM再生なるか【春秋】
宮沢賢治の未発表の詩が生家で発見された。「傾配つきの90度近いカーブも切り」「径一尺の赤い巨礫(れき)の道路も飛ぶ」――。詩人が描いたのは乗り合いバスの雄姿である。停車場では気だるげなバスの巨体が、想像の林を駆け抜ける。

大正の終わりから昭和の初めにかけて花巻農学校で教えたころに書いた草稿らしい。自然をこよなく愛した感性に、人間が生み出した最新鋭の機械はどう映っただろう。「すさまじい自働車」。そう賢治が表現したバスは国産だったか、輸入車だったか。ちょうど米国で自動車産業が力をつけ始めた時期に重なる。

陸上交通の変革の中心にいたのが、ゼネラル・モーターズ(GM)である。まずバス製造会社を傘下に収め、さらに石油メジャーと手を組んで全米の路面電車や電鉄会社を片っ端から買収した。やがて鉄道はバス輸送に置き換わり、高速道路も張りめぐらされていく。すさまじいばかりの自動車大国の誕生だった。

GMが世界企業に台頭してから約80年。いまオバマ大統領は特命チームを送り込み、経営陣を叱咤(しった)している。再生の手段として破産法の申請も視野に入れたという報道に、世界中が身構える。GMは傾斜した直角の曲がり角を越えられるか。もし倒れたら、そのすさまじさは、詩人の想像力を超えるに違いない。【春秋】
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DATE: 2009/04/10(金)   CATEGORY: コラム
緊急避難的論理【中日春秋】
英語に「救命ボートの倫理」という恐ろしい言葉がある。辞書によれば、人が多すぎてボートが沈む場合には、誰かを海に放り込んでも致し方ない、という考え方から「緊急避難的倫理」を意味する。

政府・与党が合意した追加経済対策も、あるいは、日本経済の救命ボートたらんとするものか。内容で一等目を引くのは自動車の買い替え助成制度だ。一定基準を満たせば、乗用車で二十五万円の助成が受けられるらしい。

販売不振に苦しむ自動車業界の懇願に応えた形だ。他国にも先例はあるようだが、恩恵のない他産業や車を買う必要がない人は不満だろう。税金の使い方としてはやはり不公平感は否めない。

大体、十五兆円という空前の規模の追加経済対策自体、十兆円は国債の発行で賄う。“後払い”の大盤振る舞いで、また借金がどんと増えるのである。それもこれも、ふだんなら考えられないことだが、危急の時は原則にはこだわっていられない、という論理。

危機の深さも対策の必要性も分かる。どこかの諺(ことわざ)が言うように、<濡(ぬ)れるのを恐れる者は鱒(ます)が捕れない>のも確かだろう。無論、実際にやるとなれば、一定の効果はあろうし、そう願いもする。

しかし、こうした原則無視の、いわば「緊急避難的論理」によって、何か大事なものが海に放り込まれることになりはしないか…。そんな心配も抱くのである。【中日春秋】
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DATE: 2009/04/10(金)   CATEGORY: コラム
両陛下ご結婚50年【余録】
「私は今でも、昭和34(1959)年のご成婚の日のお馬車の列で、沿道の人々から受けた温かい祝福を、感謝とともに思い返すことがよくあります」。皇后陛下が5年前に述べた言葉だ。それは「あの日……」と続く。

「民間から私を受け入れた皇室と、その長い歴史に傷をつけてはならないという重い責任感とともに、あの同じ日に、私の新しい旅立ちを祝福して見送ってくださった大勢の方々の期待を無にし、私もそこに生を得た庶民の歴史に傷を残してはならないという思いもまた、その後の歳月、私の中に常にあったと思います」。

この日、お二人のパレードは、普及し始めたテレビの中継で1500万以上の人々が見つめた。日本社会がまだ見ぬ明日へむけ経済成長の坂道を一気に駆け上がろうとした時代だ。「時代の幸福」−−そんな言葉も浮かぶパレードの記憶だ。

この数年前、当時20代の皇太子だった天皇陛下は東宮参与の小泉信三に結婚相手について語ったという。「自分は生まれや環境から世間の事情にうとく、人に対する思いやりの足りない心配がある。どうしても人情に通じて、深い思いやりのある人に助けてもらわねばならない」。

その陛下は婚約内定の時、こんなお歌を詠んだ。「語らひを重ねゆきつつ気がつきぬわれのこころに開きたる窓」。お二人の語らいが開いた窓からは、やがて親子が家族のぬくもりを共にし、国民と心通いあう新しい皇室の形が生まれた。

その後の戦没者慰霊や被災地訪問などで国民と苦楽を共にし、その幸福や平和への祈りを絶やさない両陛下の50年はご存じの通りだ。かぐわしい風の通う窓は人々の心にも開かれた。【余録】
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DATE: 2009/04/10(金)   CATEGORY: 社説
15兆円対策 大盤振る舞いの結末は
 政府は10日、景気の急激な悪化を食い止め、新たな成長への転換を目指した追加経済対策を決定する。09年度当初予算が成立して間もない異例の時期の策定に加えて、規模も財政支出(国費)15兆4000億円、事業費56兆8000億円と史上空前の水準に達する。

 追加対策は景気底割れ回避の緊急施策に加え、中長期を展望した低炭素社会づくりや21世紀型インフラ整備などの施策、国民の安心や安全を実現する子育て対策などが盛り込まれる。この筋立ては理路整然としており、無駄を排除しているようにもみえるが、実態は全く異なる。旧態依然とした対策の策定過程といい、与党の選挙向けとも受け取られる要求に最大限の配慮をしたことといい、与党の言い分には疑問を持たざるを得ない。

 最大の問題は、規模を膨らますことが先行し、それに基づき与党内や経済界などの要求や要望を盛り込むことになった点だ。政府が月末にも提出する補正予算の基礎になる財政支出額は当初予算の一般歳出51兆7000億円の約3割にも相当する。

 この時期に、15兆円もの予算を組むとなれば、党利党略と受け取られかねない施策や、企業優遇、富裕者優遇の施策も少なからず入ってくる。大衆迎合的な施策も入りやすい。景気に効果のある施策を積み上げることで規模を確定するという本来の対策策定プロセスが逆転したことのマイナスはあまりに大きい。

 幾つか例を挙げよう。贈与税優遇措置は住宅購入時に限定されたが10年末までの時限措置として実施される。4月から税制優遇措置が始まっているエコカーのさらなる購入促進策も講じられる。地上波デジタル化のためのテレビ購入補助も入った。

 環境にやさしい自動車の普及は悪いことではないが、低炭素社会を視野に入れるのであれば、マイカーに頼らなくてもいいまちづくりや地域づくりに力を入れるべきなのだ。

 さらに、08年度の第2次補正予算で第2子以降に導入済みの子育て支援策を、第1子についても1年限りの措置として拡大する。ちなみに、民主党は中学卒業まですべての子どもに1人月額2万6000円の子ども手当を掲げている。

 こうした大盤振る舞いは大半を国債の増発で手当てしなければならない。これだけでも09年度の国債の新規発行は40兆円台半ばに達する。夏以降、さらなる追加対策が講じられれば50兆円に迫る。本当に「100年に1度」の危機であっても、将来に禍根を残す財政運営は許されるはずはない。財政を壊した時、そのツケはとてつもなく大きい。それを忘れてはならない。

4/10 毎日新聞 社説
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DATE: 2009/04/09(木)   CATEGORY: コラム
合理的な疑い【春秋】
「合理的な疑い」って何のこと? 高崎経済大学教授の大河原眞美さんが著書で、この言い回しを奇妙な裁判用語の筆頭に挙げている。たしかに「犯人とするには合理的な疑いが残る」などという判決文は、分かったようで分からない。

平たく言えばこんなところだろう。「彼が犯人だなんて、常識的に考えても疑問が消えない」。有罪にするだけのきちんとした証拠はあるのか。自供は本物か。そういう問いかけが「合理的な疑い」なのだ。おととい容疑者の男が逮捕された京都府舞鶴市の女子高生殺害事件は、そこが核心のミステリーではある。

遺留品もない。直接証拠もない。自供もなければ動機や経緯も不明。それでも警察は状況証拠の積み重ねで男の逮捕に踏み切った。さて裁判員制度が始まるから市民の判断は、と思いきや、今月末までに起訴する運びだから対象外だという。逮捕がもう少し遅ければ、大いに注目の裁判員裁判になるところだった。

首をかしげる人もいるだろう。市民参加の法廷から逃れるために逮捕を早めたのでは、という声だ。評議の場で裁判員が一斉に異を唱えだしたら困る。そんな気持ちがなかったかどうか。警察や検察が新しい制度を避けて通るようなことはしないと信じたい。けれども「合理的」かどうかは別にして、疑いは残る。
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DATE: 2009/04/09(木)   CATEGORY: コラム
簡保不払いの品行【余録】
生命保険に入ると寿命が延びると誤解する人もいた明治時代、保険はなんと学問を発展させると力説したのは福沢諭吉だった。彼は近年、学問的な大著が生まれず、若者もじっくりと学問に取り組まないのを嘆き、保険が低迷打開の切り札になると説いた

え、今は保険があるけれど、そんなに学問が発展したか?−−とちゃかしてはいけない。諭吉は「恒(つね)の産なき者は恒の心なし」と述べ、保険により将来の不安がなくなれば、学者は安んじて学問に打ち込めるというのだ(民間経済録二編)。


素人が投機に走る愚行をなくし、官吏が私利にとらわれず勇気をもって進退できるようにするのも保険制度という。「されば保険の法は人の品行廉恥にも与(あずか)りて力ある」−−つまり保険は人の品性を高める制度だというのが諭吉の主張だ。

だが、保険制度も肝心の保険会社の品行だけは高めそこなったのか。そんないやみもいいたくなった保険金不払い問題では、生命保険だけで135万件、973億円の不払いが判明した。ところがここに来て新たに注目されるのは、旧郵政公社時代の簡易保険の不払いの実情である。

かんぽ生命社長は不払いが最大80万件にのぼる可能性を踏まえて調査中という。加入者の請求がないのをいいことに本契約以外の特約分を支払わないパターンは民間と同様だ。契約失効の際の払戻金不払いも最大60万件という可能性がある。

信頼していた「郵便局」が、いざ保険金支払いの段には口をぬぐって知らんぷりでは何を信じていいか分からないと嘆く加入者も多かろう。「経済の上に最も緊要なるは約束を違(たが)えぬ事なり」。いうまでもなく諭吉の言葉だ。【余録】
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DATE: 2009/04/09(木)   CATEGORY: コラム
ヤミ専従【編集手帳】
役所に局長を訪ねると、不在だった。「午前中は働かないのですか?」と訪問者が秘書に聞いた。秘書が答えた。「午前中は出勤しません。働かないのは午後です」。欧米の小咄(こばなし)にある。

同じ働かないのでも、姑息(こそく)な隠し立てをしないだけまだいい。本来の仕事を許可なく離れ、業務時間を組合活動にあてる。いわゆる「ヤミ専従」を隠しに隠した農水省に比べて、である。

秘書課の調査で142人の労働組合幹部にヤミ専従の疑いがあると知りながら、鉛筆をなめるに事欠いて「0人」と偽った隠蔽(いんぺい)体質だけで呆(あき)れるに足るが、隠し事はそれにとどまらない。

調査をしたのは昨年4月が初めて――という従来の説明は嘘(うそ)で、実際にはそれ以前の調査で疑惑の一部を把握していたという。ヤミ専従、ヤミ調査と続くヤミ愛好癖を見れば、反省したそぶりの下で“ヤミあっかんべー”をされたとしても驚かない。

何年か前、「サラリーマン川柳」の入選作にあった。〈さあやるか昼からやるかもう五時か〉。この朗らかさはどうだろう。嘘で固めた勤務実態を見ていると、並の怠惰がいとおしく思えるから不思議である。【編集手帳】
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DATE: 2009/04/09(木)   CATEGORY: コラム
今日に全力を注ぐ【天声人語】
信州戸隠山(とがくしやま)を訪れた平維茂(たいらのこれもち)の一行は、紅葉を楽しむ更科姫らと出会い、酒を酌み交わす。美しい姫はそのうち鬼の正体をあらわし、酔いつぶれた維茂に襲いかかる。歌舞伎「紅葉狩(もみじがり)」だ。

この演目を収めた6分の映像が、現存最古の日本映画とされる。1899(明治32)年晩秋の撮影で、東京国立近代美術館フィルムセンターが所蔵する。その一巻が、映画フィルムとしては初めて、国の重要文化財に指定されるという。

歳月が引っかいたモノクロの鬼女を見て、この絵の10年後に生まれた淀川長治(よどがわ・ながはる)さんを思った。〈女は怖い〉。神戸の芸者置屋の坊(ぼん)だった淀川さんは、幼心にそう刻んだらしい。映画を生涯の伴侶とした理由の一つといわれる。作品が重文なら、評論の人間国宝だろう。お元気であれば明日で100歳だった。

98年に亡くなるまでの11年間は、都心のホテルの34階に居を構えた。親しかった岡田喜一郎さんの『淀川長治の映画人生』(中公新書ラクレ)によると、部屋代は10日ごと、現金で払っていたようだ。

その部屋から出かけての講演で、よく「私、明日死にますからね」と笑わせた。そう思って今日に全力を注ぐ。精いっぱい生き抜くための「おまじない」だったと、岡田さんはみる。

試写会でお見かけしたが、淀川先生がいるというだけで、暗やみの空気が張り詰めた。過去を振り返らず、いつも「今が一番楽しいなあ」と語っていたそうだ。「おくりびと」のアカデミー賞受賞など、日本映画の昨今のがんばりを、あの名調子で語り尽くしてほしかった。【天声人語】
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DATE: 2009/04/08(水)   CATEGORY: 上杉 隆
世襲制度を断ち切る妙案は無いのか
日本の政治を蝕む世襲制度を断ち切る妙案は無いのか

 昨日(3月31日)、自民党の勉強会に呼ばれた。会合は、衆議院本会議直前、自民党本部で開かれた。内容は、世襲制度の禁止について、筆者に話をしてくれというもの。二世政治家が少なくない自民党でのこうした動きは、これまでにはなかったと記憶している。

 主催は「自民党を刷新する第三世代の会(仮称)」。柴山昌彦氏、早川忠孝氏、松浪健太氏らが中心の勉強会の設立準備会である。会議冒頭、代表世話人のひとりである松浪氏がこう語った。

「現在のままでいれば、自民党の明日はない。私たちは先鋭的に提言するのではなく、実行していく。そうした党の刷新のためにはタブーを恐れず、なんでも話し合っていきたい。こうした会合への上からの圧力には決して屈せず、横からの誘惑にも負けず、内からの流血も厭わない。そうした決意でやっていくつもりです」

 講演とはいうものの、後半は、フリーディスカッションに近く、スピーカーの筆者にとっても有意義なものになった。

■自民党の半数が二世では党の活力も減退する
 まず「地盤・看板・かばん」の三バンに触れていく中で、二世議員の占める割合の多さについて改めて驚きを共有した。自民党内には三親等までを「世襲」と呼ぶ、という暗黙のルールがあるようだが、個別ケースによってそれはまったく違うようだ。

 たとえば、呼びかけ人のひとり、松浪健太氏自身も、松浪健四郎氏の甥である。後藤田正純氏や野田聖子氏も完全な世襲とはいいづらいのかもしれない。なにしろ親が地方政治家や首長は、世襲政治家にカウントされていない。そうした二世を含めれば、永田町の「二世政治家」は今よりももっと多いはずだ。

 それはともかく、会合でも、世襲が確実に日本の政治を蝕んでいるという筆者の認識に対して異論はわずかだった。それは、自民党という政党の活力の減退ともまったく無関係とは思えない。

 いまや自民党の実に半数近くが世襲か二世議員である。勉強会の出席者にも世襲議員がいる。代議制民主主義において、国民の利益や意見の表出は、代議士や議員を通じて行なわれる。そのための選挙であり、国会なのである。その立法府の3割以上が世襲で占められ、最大与党の約半数が「二世」であるというのは、さすがに党の活力を殺いでしまうという不安も無理なきことだろう。

 しかも、日本では、世襲の首相が2代連続で政権を投げ出している。こうした危機感が、今回の勉強会の開催を後押ししたといっていいだろう。会合に出席した上野賢一郎氏もこう語っている。

「最近、政界全体の『底力』のようなものが欠如してきた印象があります。首相が1年ごとに交代したり、不用意な発言を繰り返すのも目立ちます。重要閣僚が醜態を晒してしまったこともありました。かつて、『三角大福中』の時代には、その評価は別にしても、この国を背負う『気概』と『覚悟』を持ったリーダーがいました。世襲議員の増加は、政治衰弱化の原因のひとつだと考えます」

 会合では、世襲議員増加の解消方法として、党の候補者選定プロセスの見直しこそが重要だと強調された。換言すれば、世襲以外の人材が政界に入りやすくするための「参入障壁」を取り除く、もしくは低くしようという方策を考えようというものだ。

 まずは「公募」である。党の候補者選定において、恣意的な要因が入り込む余地を減らすために公募を義務付けするというものだ。

 さらに、その上で、「予備選」を行なう。英国の政党で行なわれている候補者選定がまさしくそうした方法による。

 世襲の割合を法律で強制的に下げていくよりも、各党が「公募」と「予備選」でもって、自主的に努力を行なうのがまずは先決だという考えに基づく。これは確かに効果的ではないだろうか。

 だが、この考えに対しても疑義が呈された。末松信介財務大臣政務官はこう語った。

「予備選は難しいんです。選挙区ごとに後援会組織が党員を集めてしまい、それが組織票となる。結局、世襲議員が選ばれるという結果になります」

 なるほど、確かにそうかもしれない。だが、選挙区以外の党員投票までも含めば、と喉元まででかかったが、それでは本番の選挙での選挙区から逸脱し、意味がないということに気づいて言葉を呑んだ。

「公開討論」などで候補者を決するという意見もあった。だが、この選考過程もつねに現職に有利に働くという難しさが伴う。

 逆に、世襲候補の取り扱いを定めるという提案もなされた。

 明確な世襲候補については、親と同一選挙区からの立候補を禁ずるというものだ。

 だが、これもどこまでを「世襲候補」と認定するかで議論が分かれる。常識と化している「三親等」というのも、じつは合理的な基準を元に決めたものではなく、説得力に欠けるきらいがある。

■親子で政治資金管理団体を“無税相続”できるうま味
 また、なにより、世襲における最大の問題点は、親子同士で、政治資金管理団体を事実上、無税で相続してきたということだ。この問題の根は深い。市井の人々が、資金繰りに悩む中小零細企業の経営者が、代々継がれてきた自営業の店主が、相続税に頭を悩ませ、苦しんできたのに、政治家だけが「特権」的にその苦しみから逃れてきたのだ。

 それは、放置されてきたというよりも、あまりのうま味に、知っていて知らないフリをしてきたという方が正しいだろう。

 もとより、政治資金規正法では、そうした相続や蓄財は想定されていなかった。政治活動にかかる資金の透明性を図るという目的で設置された法律だからだ。

 解決方法としては、政治資金規正法の改正なのだが、なぜか、国会は、法案提出どころか、法案策定作業にすら着手できないでいる。

 それは自民党のみならず、この問題を昨年来、話し合ってきた民主党でも同様だ。

 参入障壁は下がりそうもない。その間にも、日本の政治の体力はどんどんと失われていくような気がしてならない。

 わずかな救いは、こうした危機感が国会議員、とりわけ自民党の中にも確実に広がってきたことだ。

2009年04月02日 上杉隆(ジャーナリスト
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DATE: 2009/04/08(水)   CATEGORY: 社説
自動車産業支援 内外無差別を曲げるな
 経済危機で打撃を受けている産業の代表が自動車だ。中でも米国の自動車メーカーの行方が注目されているが、米政府が示したのは期限付きの対処策だった。

 当面のつなぎ資金は供給するものの、抜本的な経営改善策が整わない場合は、連邦破産法の適用もやむなしという内容だ。先月末に設定された猶予期限はGM(ゼネラル・モーターズ)が60日、クライスラーが30日だ。

 両社にはすでに巨額の公的資金が注がれている。しかし、3月末を期限として示された再建計画は、不十分なものだった。そんな状態でさらなる資金支援を政府が行えば、納税者はますます不満を募らせるだろう。人気にかげりが出てきたオバマ大統領としても、毅然(きぜん)たる態度を示さざるを得なかったというわけだ。

 オバマ大統領自身が破綻(はたん)処理もありうることを強調し、さらにGMのワゴナー会長に退任を求めたのは、そうした政権の強い決意を示そうということだろう。

 GMの場合は、債権者と労組の双方が、再生に必要な痛みをどのように分かち合うかで合意が得られておらず、この行方が焦点だ。クライスラーの場合は、イタリアのフィアットとの提携がどうなるかだ。

 自動車産業は、部品供給や販売網を含め巨大な雇用を抱えている。GMやクライスラーが法的処理となればイメージダウンは避けられない。しかし、車種を大幅削減してリストラを進め、さらに省エネ車へとシフトすることは、自主再建、法的処理による再生のいずれをたどっても不可欠だ。

 それには巨額の資金が必要で、これは米国に限った話ではない。

 省エネ車への買い替え補助も含め、温室効果ガスの排出抑制を理由に、各国政府が自動車産業への支援を打ち出しているのはそのためだ。しかし、こうした支援策は保護主義の拡大と裏腹の関係にある。

 たとえば、政府が自動車の購入費を補助するにしても、自国のメーカーの車だけに適用するというのは、高関税を設定して外国車を自国市場から排除するのと同じことになる。

 自動車産業に政府が支援を行うとしても、自由貿易の前提である自由無差別の原則は厳守すべきだ。購入費補助だけでなく、自動車メーカーへの政府の資金支援についても、この視点は欠かせない。

 省エネ車の開発を名目に政府が資金を支出したとしても、車両を安値で輸出するための補助金となるケースもありうる。

 各国がとる自動車産業への支援策が、保護主義につながらないよう、改めて注意を喚起しておきたい。

4/8 毎日新聞 社説
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DATE: 2009/04/08(水)   CATEGORY: コラム
地震予知【産経妙】
ノーベル賞級の発見か、いい加減な憶測がたまたま当たっただけなのか。現地紙によると、多数の死傷者を出し、3世紀の古代遺跡「カラカラ浴場」も損傷を受けたイタリア中部で起きた地震を予知した物理学者がいるという。

ジャンパウロ・ジュリアーニという学者は、地下の岩盤から放出されるラドンガスの量で地震予知ができると主張。約1週間前に地震を予知し、今回、大きな被害を受けたラクイラ市に住民を避難させるよう求め、自らのホームページでも研究結果を公表したとか。

当然のごとく、市内は「地震がやってくる」と大騒ぎになった。ウワサの発信源となったジュリアーニ氏は警察の取り調べを受け、当局は彼の研究をネット上から削除させたそうだ。

結果論からいえば、当局が一学者の言うことを聞いて住民を避難させていれば、被害はもっと小さくて済んだかもしれない。といってラドンと地震の関係は、科学的に因果関係が解明されているわけではなく、空振りに終わっていれば非難囂々(ごうごう)だったろう。

地震大国・日本も人ごとではない。国家的プロジェクトの一環として鳴り物入りで発足した地震予知連絡会がまもなく40周年を迎えるが、阪神大震災をはじめ一度も予知に成功していない。その反動もあってか地震雲や動物の異常行動で地震を予知した、といったたぐいの話が週刊誌やネットをにぎわせている。

今や緊急地震速報システムが整備され、うまくいけば直前に揺れがくるのがわかるようにはなった。それでも効果はしれている。地震も北朝鮮のミサイル発射のように、なんらかの兆候はあるはずだ。40年で予知は進歩したのか、しなかったのか。在野の研究者も交えて総括する時期がきたのではないか。【産経妙】
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DATE: 2009/04/08(水)   CATEGORY: コラム
ユズリハの営み【天声人語】
ユズリハという木をご存じだろうか。若葉が出そろったのを見届けて古い葉が落ちることから、この名がついた。生命力を譲る、勢いを絶やさない縁起物として、祝い飾りにも使われる。

全日本ろうあ連盟が、創立60周年の記念映画「ゆずり葉」を作った。世代を超えて引き継がれる、ろう者差別との闘いを、切ない恋や親子の愛を通して描いている。6月から各地で上映会がある。

主演の庄崎(崎は山へんに竒)隆志さんらろう者と、今井絵理子さんら健聴者の役者が、手話のセリフを使って演じた。聞こえず、話せない世界がどんなものか、健聴者の一見をお勧めしたい。早瀬憲太郎監督は「聞こえても聞こえなくても楽しめる、新しい映像文化の可能性を探った」という。自身もろう者だ。

海外のテレビで「刑事コロンボ」を見た人が、言葉を解せぬもどかしさをぼやいていた。「犯人は分かるのに動機がちんぷんかんぷんだ」と。字幕のない日本映画やテレビ番組も、ろう者には味気ないものだろう。

外見で分かりにくい聴覚障害は、不便も実感しづらい。救急車を呼ぶのもメールかファクス、それも知人を介してと聞き、ようやく深刻のほどに思いが至る。ろう者の権利や福祉を広げる運動は、文字通り命がけだった。

今では、聞こえなくても車を運転でき、資格の壁も崩れてきた。薬剤師の先駆けとなったのは早瀬監督の妻久美さんだ。聴覚に限らず、ハンディを負う人が生きやすい社会は高齢者にも優しい。日本語の字幕を追いながら、ユズリハの営みを一人でも多くに伝えたいと思った。【天声人語】
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DATE: 2009/04/08(水)   CATEGORY: コラム
イタリア中部地震【余録】
英国の歴史家ギボンの書いた「ローマ帝国衰亡史」は西暦365年にローマ世界を襲った大震災に触れている。東地中海沿岸の人々は地震の後に海の干上がる様に驚き、海底の地形を眺めて楽しんだが、すぐにやってきた巨大な津波にのみこまれたという。

ギボンはヨーロッパと北アフリカ沿岸各地を壊滅させたこの地震が、ローマ人に帝国衰亡の予感を与えたと書いている。実際、帝国を滅ぼした北方の民族大移動がこのころに始まり、ギボンはその叙述を地震と津波の話から起こしている。

この時の地震は海底を震源とするマグニチュード8以上の規模といわれる。地震が少ないと思われているヨーロッパだが、ギリシャやイタリアは古代から何度も地震の被害を受けてきた。中には歴史の変わり目を象徴する震災もあったのだ。

6日未明に地震に襲われたイタリア中部のラクイラは、1915年にも近くのアベッツァーノを中心に3万人以上の犠牲を出した震災の被害を受けている。今度も死者・行方不明者多数を出し、なおがれきの下で助けを待つ人も多いはずだ。

どこの国であれ震災のたびに一刻も早く何とかできないかともどかしい思いにとらわれる捜索と救助のニュースだ。日ごろは失言騒動の目立つベルルスコーニ首相だが、ここは非常事態宣言を発令し「誰一人として見捨てはしない」と救援に強い決意を示したのが頼もしく見える。

ロマネスク様式の聖堂などのあったラクイラとあって、何百年の時を耐えた歴史的建築の深刻な被害も伝えられる。当面の救援はもちろん、復興や地震対策などでもできることがあれば協力を惜しみたくない地震国同士である。【余録】
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DATE: 2009/04/07(火)   CATEGORY: コラム
創業家出身の新社長【春秋】
上場会社で最近、創業家出身の新社長が目立つ。例えば建材大手のトステムでは、創業者の長男潮田洋一郎会長が1日付で社長を兼務した。とりわけトヨタ自動車の豊田章男副社長の社長内定は話題になった。

創業家は企業にとって特別な存在である。その後光に輝く社長を押し立てて、求心力を高めて今の難局を乗り切る狙いではないのか。そんな見方が専らである。だが創業者と2代目、3代目では社内の受け止め方が違う。最初からカリスマ性があるわけではないので、お手並み拝見である。

へたをすると追い出されかねない。東急電鉄グループの総帥として君臨した故五島昇氏は、先代の慶太氏から継承した当初、グループ内の実力経営者を抑え込むのに手を焼いた。ダイエーの創業者故中内功氏の期待を背負った長男潤氏は、経営不振の中、トップの座に立てぬままグループを去った。個人の才覚と度胸でのし上がった初代とは同じようにいかない。

中内功氏を側近は「有視界飛行をしていたようなもの」と評していた。自分の勘に頼るワンマン経営である。子や孫はだいたい普通の人だ。誰であろうと明快な方針を立て、目標に向けて力を結集する、当たり前の経営ができるかどうかが鍵だ。創業家にも有能の士がいるが、有為の人材はほかにもいるはずだ。【春秋】
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DATE: 2009/04/07(火)   CATEGORY: コラム
オバマ大統領の「核廃絶」【余録】
昨年暮れに亡くなった国際政治学者の永井陽之助さんは、核兵器は占師の水晶玉のようなものだという冷戦時代の戦略家の見方を紹介した。この水晶玉は核大国の指導者が全面戦争を招くような決断をした場合の未来を、誤断の余地なく映し出すからだ。

そこに浮かび上がるのは広島と長崎で見られた地獄図である。およそ責任ある指導者なら、自らの危険な決断の惨たんたる未来をあらかじめそこに見いだし、おそれおののいたろう。水晶玉効果とは核兵器の戦争抑止力の一面を示していた。

米ソ熱戦が避けられたのは、「核があったから」か、「核があったのに」か、論議は今も分かれる。だが核拡散や核テロの懸念が高まり、北朝鮮のような国が核をもてあそぶ今日、もはや水晶玉効果の戦争抑止も底が抜けてしまったようだ。

冷戦期の核抑止を担ったキッシンジャー氏ら米外交・国防の長老が核廃絶を主張するのもそのためだ。相互抑止による戦略的安定どころか、一寸先も読めなくする核兵器の拡散である。そんななか行われたオバマ大統領の核廃絶演説だった。

「核のない世界」をめざすと訴えた大統領は、核保有国の軍縮、核拡散と核テロ防止に向けた国際的新制度を主導すると表明した。目を引いたのは「核を使用した唯一の保有国の道義的責任」という言葉で広島・長崎への原爆投下に触れて、核廃絶への米国の責任を強調したことだ。

唯一の被爆国・日本と唯一の核使用国・米国が、核なき国際社会へ向けたスクラムを組んで歴史の裂け目を埋める日が胸をよぎる。人類の未来は破局を映す水晶玉によってではなく、恒久平和をめざす英知と意志で切り開きたい。【余録】
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DATE: 2009/04/07(火)   CATEGORY: コラム
旅人の荷を軽くする【天声人語】
東京で読んだ投稿欄「ひととき」に「あっぱれな旅立ち」という話があった。103歳の母親を妹と看取(みと)った女性(78)からだ。母は最後に、弱く手を握り返してきたという。何かの合図だったかと、あとで母の日記を開いてみたら一枚の紙が出てきた。

感謝の言葉に続き、こうあった。「あの世で長いこと私を待っている、大事な人に電報を打ってあります。待ちかねて迎えに出ていることでしょう。喜びも半分、不慣れで心細さもありますが、待つ人に会える楽しみもあります」。

たくさんの別れ、老いに病。風雪を抜けてたどり着いた透明な境地であろう。うらやましい去り際である。誰もが鮮やかに旅立てるわけではないが、終わりの日々をどう満たすかは万人の関心事だ。

禅宗の高僧から発起し、医師免許を取った対本宗訓(つしもと・そうくん)さん(54)が、このほど東京下町の内科クリニックで働き始めた。一線で腕を磨いて、いずれは終末期の在宅患者を見舞うような役割を描いている。

研修中、死期を控えた80代の女性患者に接した。面会もなく、テレビも見ず、終日ベッドにいた。「若い時のことを一つひとつ思い出して、なにも退屈じゃありません」。それを聞き、対本さんは察したという。次の世界に移る大切な心の作業なんだと。

「医者の目を持つ宗教者として、心を乱さず吹き抜ける風のように、患者さんに接したい」。それぞれの人生を背負った終末に模範解答はない。心と体を併せ診る「僧医」の腕の見せどころである。温かく見送る人たちに囲まれて、旅人の荷は軽くなる。【天声人語】
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DATE: 2009/04/07(火)   CATEGORY: コラム
机から足を下ろしなさい【産経妙】
幕末明治の日本を訪れた各国の外交官のなかでも、イギリス公使パークスの傲慢(ごうまん)は際立っていた。人と話すときも、机に足をのせ、靴底を相手に向けたままだった。あるとき、西郷隆盛が、パークスに対して同じ態度を示した。

パークスが憤然として無礼をなじると、西郷がこう切り返したという。「無礼なことはお互いにやめましょう。私はこれが貴国の礼儀かと思っていた」。詩人の堀口大學の父親で、外交官だった九萬一(くまいち)が、書き残した逸話である。

拉致問題で誠意ある行動を取ろうとしない北朝鮮の金正日総書記は、相変わらず日本に対して、靴底を向けたままだ。日本上空を通過した北朝鮮のいうロケットは、長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の改良型とみられる。他人の家に土足で上がり込む無礼と同じだ。おまけに落下物に備えて、麻生首相が「破壊命令」を出すと、「断固たる報復攻撃を加える」と脅しまでかけてきた。

識者のなかには、今回のミサイル発射について、米国や韓国に比べて日本は、騒ぎすぎるという人がいる。しかし、北朝鮮はすでに、テポドンとは別に、日本を射程に収めた中距離弾道ミサイル「ノドン」を実戦配備している。日本人が敏感になるのは当然ではないか。

案の定、読売新聞が、先週末に実施した世論調査によると、「日本政府は北朝鮮への制裁を強めるべきだ」と思う人が8割近くに達していた。ミサイルの打ち上げの費用と推定される約3億ドル(約300億円)でコメを買えば、1年間の食糧難を解消できたはずだという。

飢えに苦しむ人たちに、救いの手をさしのべることに異存はない。ただ北朝鮮よ、交渉のテーブルにつくまえに、机から足を下ろしなさい、といっているのだ。【産経妙】
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DATE: 2009/04/07(火)   CATEGORY: コラム
一千億分の一【編集手帳】
普段、知ったかぶりをしてあれこれ書き散らしている身から出た錆(さび)で、読者の方からときにむずかしい質問をいただいて頭を悩ます。何日か前のお便りで、「過去から現在に至る人類の総数」を聞かれた。

存じません、では愛想がないので書棚を引っかき回し、アーサー・クラーク著「2001年宇宙の旅」の一節をコピーして返信に添えた。〈時のあけぼの以来、およそ一千億の人間が地球上に足跡を印した…〉とある。数字の当否は見当もつかない。

はがきをくださったのは、埼玉県内の若いお母さんである。じきに1歳を迎えるお子さんの寝顔を眺めていて、ふと、「この子の母親になれたのは人類で私ひとり…」と気づいたことで兆した問いという。

「一千億人のなかで一番」の幸せをかみしめるのか、育児の疲れを「一千億分の一」という奇跡のような縁(えにし)の糸で癒やすのか、数字の使い道は分からない。

青い鳥の住処(すみか)はチルチルとミチルの物語で知っている。知っていながらついつい忘れ、いつも不機嫌な顔ばかりしている。思い出させてくださって、ありがとう――返信に書き落とした1行をここに書く。【編集手帳】
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DATE: 2009/04/06(月)   CATEGORY: コラム
アポロ13号の教訓【中日春秋】
絶体絶命の危機という言葉がぴたりとくる。地球から三十三万キロも離れた宇宙空間で、酸素タンクが爆発。宇宙飛行士三人が酸素や水、電力の深刻な不足に直面した。全米が、いや世界中が無事に帰還できるか、息を詰めて見守ったという。

三十九年前の四月、月面着陸を目指していた米国の宇宙船アポロ13号に起きた事故である。トム・ハンクス主演の映画で追体験した人もいよう。想定外の事態に、飛行士と地上の管制センターのスタッフが一つ一つ、解決策を見いだしていく。

生還を果たした飛行は、後世に「輝かしい失敗」と語り継がれているとあって、映画も危機管理の要諦(ようてい)を教えてくれる。例えばスタッフが慌てている場面になると、管制センターの責任者が言う。「冷静になるんだ」と。

北朝鮮がついにミサイルを発射した。日本列島上空を通過している。想定内の事態とはいえ、暴挙に変わりはない。業腹ではあるが、ここは同じく冷静でいる必要がある。

一昨日の発射の誤報に関し、浜田靖一防衛相が「早く国民に伝えようと前のめりになった」と釈明していた。何事も冷静さを欠くと失敗する証左になる。

さて、今後はミサイル開発に歯止めをかけ、核開発を放棄させるための外交の出番となる。困難が予想される道だが、あきらめなければ解決策は必ず見つかる。これもアポロ13号の教訓である。【中日春秋】
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DATE: 2009/04/06(月)   CATEGORY: コラム
北朝鮮ミサイル―国際結束で脅威を抑えよ
 北朝鮮が発射した「飛翔体(ひしょうたい)」は日本のはるか上空を越え、太平洋上に飛び去った。

 政府によると、1段目の推進装置と見られる部分が日本海の公海上に落下し、残りの部分はさらに飛行を続けたという。政府は万一の場合に備えて迎撃ミサイルやイージス艦を配備したが、幸い被害はなかったようだ。

 北朝鮮は、人工衛星を搭載したロケットの打ち上げであり、成功したと主張している。だが、米国は軌道には何も乗らなかったと見ている。


■国連安保理を動かせ
 いずれにせよ、この発射はとうてい容認できない。強く自制を求めた日本をはじめとする国際社会の声を逆なでした暴挙に、深い憤りを覚える。

 衛星を打ち上げる技術は、核弾頭などを積める長距離弾道ミサイルと変わらない。いくら宇宙開発、国威発揚と言ったところで、真の狙いが「テポドン2」の改良型とされるミサイルの実験にあったのは間違いあるまい。

 「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」の停止を北朝鮮に求めた06年の国連安全保障理事会決議に背くことは明白だ。日米韓などの政府が抗議したのは当然だ。

 安保理がさっそく対応を協議する。日本政府は米国などと協力し、国際社会としての明確なメッセージを北朝鮮に送るべく外交努力を強めるべきだ。

 最低限、まず06年の核実験を受けて安保理が出した北朝鮮への制裁決議の再確認をしなければならない。

 この決議には中ロも賛成し、全会一致で採択された。北朝鮮に対して核やミサイル開発の停止を要求し、加盟国には、関連技術・資金の移転や、ぜいたく品の輸出などを禁じている。

 問題は、まともに決議を実行している加盟国が少なく、実効があがっていないことだ。安保理は決議の着実な実行を加盟国に促す必要がある。


■加速する世界の危険
 それにしても今回の発射で、核兵器やそれを運ぶミサイルの拡散によって世界がますます危険になってきたことを思わざるを得ない。

 北朝鮮はすでに短距離弾道ミサイル「スカッド」と、中距離の「ノドン」を実戦配備している。韓国や日本はとうに射程内に入っている。3年前には核実験を強行した。今回、さらに長距離ミサイルの技術を見せつけた。

 イランは2カ月前に衛星打ち上げに成功した。こちらも安保理決議を無視し、核開発につながるウラン濃縮を続けている。そのミサイル開発には北朝鮮が協力しているとも言われる。

 一昨年、シリアの砂漠にある建物をイスラエル軍がいきなり空爆した。北朝鮮が支援していた原子炉関連施設だった、と米国が発表した。

 インドとパキスタンが核武装してにらみ合い、北朝鮮はパキスタンの「核の闇ルート」とつながりがあった。

 核やミサイルに絡む技術、資材が世界を行き来する。そんな現実の一極に北朝鮮がいる。

 この事態に一日も早く終止符を打たねばならない。だが、どう対応すればいいのか。ふたつのことを冷静に粘り強く追求していくことだ。第一に、北朝鮮に国際ルールを守らせるための硬軟両様のダイナミックな外交であり、第二に「核のない世界」をつくるための軍縮、不拡散の努力だ。

 金正日総書記が何より目指しているのは、自らの体制の継続に違いない。そのための最大の交渉相手は米国、と思い定めている。

 むろん、大量破壊兵器に手を染め、日本人拉致や数々のテロを起こした体制は容認できない。しかし、無法な行動を抑え込む現実的な手段は外交しかない。そのための舞台は米朝交渉であり、6者協議である。

 核施設を使えなくする無能力化の段階で、6者協議は膠着(こうちゃく)している。非核化プロセスを再起動し、日朝や米朝の関係正常化の交渉も広げていきたい。制裁の「ムチ」を絡めながら、さまざまな分野で北朝鮮を交渉のテーブルにつけることだ。


■オバマ政権と連携密に
 米国の役割と責任は重い。早く対北交渉の陣立てを固めて動き出してもらいたい。クリントン国務長官が、今回の発射と6者協議を切り離し、6者合意の実行を追求すると語っているのは正しい。

 ミサイル問題も、まず米朝間で打開策を探るのが現実的ではないか。いずれは6者協議で取り上げるべきだ。核に限らず地域の平和と安定にかかわる課題を扱う枠組みでもあるからだ。

 おととい、政府が誤って飛翔体発射を発表し、5分後に取り消す失態があった。危機管理上、ゆるがせにできない問題だ。原因を追及し、十全の対策を講じなければならない。

 もっとも、国民がいたずらに不安を抱かないよう、政府が積極的に情報開示したのはよかった。あたかも日本が攻撃されるかのような浮足だった議論もあったが、国民は冷静だった。

 政府は、3年前から北朝鮮に科している独自制裁を1年延長する方針だが、さらに中身を強化すべきだという声も聞かれる。だが、日本単独のカードの効果は限定的だ。

 むしろ国際社会の結束を優先し、安保理の非常任理事国として率先して動く。オバマ米政権との連携を強める。まず、そちらを真剣に追求すべきだ。

4/6 朝日新聞 社説
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DATE: 2009/04/06(月)   CATEGORY: コラム
防衛意識を高める【産経妙】
ほとんどの勝負事では、先手が有利で、後手は不利となる。最終的に領地(単位を目(もく)で表す)の広さを競う囲碁は、そのはなはだしい例といえる。

先手(黒)と後手(白)の条件を同じにするために、プロの対局ではコミと呼ばれるハンディが取り入れられる。現在のコミは6目半、つまり先手は後手より7目以上多く領地を確保しないと負けになるというわけだ。

北朝鮮の金正日総書記もまた、先手の優越感をかみしめていることだろう。きのう、人工衛星と称する長距離弾道ミサイルを打ち上げた。土曜日の朝、「まもなく」と発表してから、さんざん待ちぼうけを食わせたあげくの発射だ。後手に回らざるを得ない日本政府に、誤報というダメージを与えることもできた。

幸い、日本列島に残骸(ざんがい)が落ちてくることはなかった。一方で、発射が成功したとすれば、北朝鮮によるミサイル攻撃の危険性が強まったことを意味する。北朝鮮は、米本土の一部に到達するミサイルの脅威を利用して、米国との交渉でも先手を取る構えのようだ。

しかし、国際政治は、勝負事のようにはいかない。今回の発射を監視してきた、日米韓の連携が乱れることはなかった。日本人の防衛意識をさらに高める“効果”もあった。それは、北朝鮮の打つ手の幅を狭めることにつながる。実は、「先手必勝」の鉄則は、勝負事の世界でも、崩れつつある。

囲碁ほどではないにしろ、先手が有利とされてきた将棋だが、平成20年度のプロの公式戦では、初めて後手の勝率が、先手を上回った。トッププロの分析によれば、苦しい分、後手が工夫を重ねて、対策を立てるようになったためらしい。この点は、日本の外交、防衛の当局者たちも大いに見習ってほしい。【産経妙】
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DATE: 2009/04/06(月)   CATEGORY: コラム
太陽電池【余録】
ともに「日本の太陽男」と自称する2人の太陽電池研究者を取材したことがある。1人は大学教授、1人は大手電機メーカーの幹部だった。産官学の開発体制が整い始めた80年代で、自分こそ第一人者とプライドが高い両人だったが、「いずれ太陽光エネルギーの時代がやってくる」と力説する点は共通していた。

あれから20年余り、コスト面などがネックとなって、なかなか彼らの予測通りにはならなかった。だが、このところ地球温暖化対策として脚光を浴び、世界中で使用が広がり、需要は伸び続けている。

太陽電池は伝統的に日本の得意分野だ。07年は全生産量の4分の1を占め、トップシェアを維持した。企業別でも、首位はドイツのメーカーに譲ったものの、シャープ、京セラ、三洋電機などが上位に並ぶ。

ただ、国内の太陽光発電の普及は、政府が05年に補助金を打ち切ったことでペースが鈍った。政府は今年になって補助金を復活させ、来年からは家庭で発電した余剰電力を現在の2倍の価格で買い取る制度も導入して後押しする。

こうした流れをにらみ、シャープが堺市に新工場の建設を進めるなど、各社の生産増強計画が目白押しだ。日本が今、攻勢をかけられるのも、長年の技術の蓄積があるからこそだろう。その陰には、何人もの「太陽男」「太陽女」たちの努力の積み重ねがある。

IT産業で存在感を増すアジア勢も手をこまぬいているわけではない。中国が力をつけ、韓国や台湾、インドも本格的に参入してきた。低価格路線のアジア勢が加われば、コスト競争は激しさを増すだろうが、環境に優しい社会の実現に貢献するなら、それも悪くない。【余録】
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DATE: 2009/04/05(日)   CATEGORY: 社説
オバマとチャーチル 週のはじめに考える
 歴史的危機の度に時代は卓越した指導者を生み出してきました。初めての海外諸国歴訪を続けるオバマ米大統領もその仲間入りを果たすのでしょうか。

 ブラウン英首相がG20金融サミット主宰に先立ち訪米した先月、英メディアが不快感を隠さず伝えたエピソードがあります。米大統領執務室に置かれていたチャーチル首相の胸像が、オバマ氏就任とともに撤去されたというのです。

 胸像は、米中枢同時テロの年にブレア英首相がブッシュ大統領に貸与したものでした。ホワイトハウスの説明が「通常の模様替え」とそっけないものだったこともあって一部に「英国軽視の表れか」と深読みする声もあがりました。

 大恐慌の混乱体験

 たかが胸像、されど胸像です。撤去の原因だったのではないかという話題も報じられました。オバマ大統領の父の国ケニアが第二次チャーチル政権下の英植民地だったころ、大統領の祖父が反英活動に絡んで投獄され非人道的な扱いを受けていた、というのです。相性が良いとは言えそうもない二人ですが、複雑な英米史を反映して何かと深い縁があります。

 一九二九年十二月の大恐慌の最中、チャーチルはニューヨークにいて大混乱の街を目の当たりにしました。その年の英総選挙で保守党が敗退したため蔵相の任を解かれ一議員に戻り、空前の景気に沸く米国を訪問していたのです。

 「目の前で男性が十五階から飛び降り粉々になった」。チャーチルは英紙に書き送っています。「タクシーの運転手からホテルのメードまで、広大な国の端々から誰もが株に手を染めている」「モンテカルロを含むいかなる賭場もこの絢爛(けんらん)たるカジノの規模の前には霞(かす)んでしまうだろう」

 凋落の後を託されて

 チャーチルは投機熱に浮かれた米国の破綻(はたん)の惨状を描写しながら、一方でハドソン川やイースト川に出入りし続ける多数の船舶を見て「活力に満ちた米国にとってはこの悪夢も一過性の出来事にすぎないのかもしれない」と潜在的な復元力を感じてもいます。自身、母親が米国人で、その父親がニューヨークの投機家だった縁も影響していたかもしれません。

 チャーチルとオバマ大統領は、それぞれ凋落(ちょうらく)する帝国、衰退する超大国の後を託された指導者として歴史に登場したといえます。

 英国は長い大英帝国の繁栄の末、第一次大戦後の世界不況、第二次大戦の疲弊を通じて凋落の度を深め、指導的地位を米国に譲らざるを得ませんでした。オバマ大統領は米中枢同時テロ後、宗教国家の再来とも見まごう単独主義に邁進(まいしん)し破綻したブッシュ政権下の超大国の後を託されています。

 衰退ぶりが端的に表れているのが通貨です。第二次大戦まで英国が辛うじて保っていた基軸通貨ポンドは戦後その役割を米ドルに譲り渡さざるを得ませんでした。

 その米国は今、自ら招いた未曾有の金融危機に苦しみ、基軸通貨国たる地位に挑戦を受けています。統合を背景に成長するユーロの存在は大きく、中国からは新基軸通貨導入の議論を公然と突きつけられています。

 ロンドン金融サミットでは、一部意見の違いが表面化したものの、米欧中心の現体制の強化で合意しました。しかし、アジア、ロシア、中南米、中東、アフリカ各地域の連携なしに実効性ある対応はとれない現実があらためて鮮明になりました。

 新しい国際秩序の枠組みは一回や二回の会談では簡単に浮上しそうにはありません。しかし、オバマ大統領の一連の演説には新しい方向性の芽も見えます。仏ストラスブールでは「傲慢(ごうまん)で他を無視する傾向があった」と率直にこれまでの米国の非を認めつつ「米国は再びリードする用意がある」と決意を明らかにしました。

 「不戦の誓い」をもとに、地域統合の実験を続ける欧州連合(EU)議長国チェコのプラハで、核廃絶に関する重要演説を行うのもその一つです。歴訪の帰路、トルコに寄ることにも「イスラムとの対話」にかける大きな決意が読み取れます。「講義をしに来たのではなく、話を聞きにきた」。オバマ大統領の対話の基本姿勢は変わっていません。

 欧米だけでは動かせぬ

 オバマ大統領、チャーチル首相ともスタイルこそ違え文才、弁舌の才に恵まれた表現者です。危機に際して時代を語る的確な言葉を持つ指導者に恵まれる国はまだ幸運です。

 金融サミットの米英会談は成功裏に終わりました。胸像のわだかまりが解けたか否か定かではありませんが、欧米合意だけで国際社会が動く時代でないことだけは忘れてはならないでしょう。

2009年4月5日 中日新聞 社説
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DATE: 2009/04/05(日)   CATEGORY: コラム
信頼資本主義【中日春秋】
米国の大手証券会社が十一年前、国内の主要紙に「世界は十歳」と題した全面広告を出した。ベルリンの壁崩壊とともに誕生したグローバル経済を指している。

まだ子どもの年齢であることを意識し、広告文は<頼りなく見えるとしても>と前置きし、世界は<豊かな可能性を持ち続けていると、わたしたちは思うのです>と未来を展望している。

二十代の大人になり、未曾有の窮地に陥るとは全く予想していなかったろう。大手銀行に吸収合併されたメリルリンチの話だ。ただし一部の幹部に限り、赤字に転落した年でも年収一千万ドル以上と、確かに豊かになった。強欲資本主義のなせる業である。

グローバル経済であり、米国内だけでなく世界中であおりを受ける人が出てくる。隣の韓国では「88万ウォン世代」と呼ばれる二十代の若者がいる。数字は大卒の非正規労働者の平均月収を意味し、最近のレートでは六万円余。日本と同様かそれ以上のワーキングプアになる。

命名者で同名の本がベストセラーの経済学者の禹●熏(ウソックン)さんに過日、話を聞いた時、言われてしまった。かつての日本は強欲と正反対の信頼に基づく資本主義の国で、何よりも雇用の安定がうらやましかった。モデルにしたかったのに残念だと。

世界がゼロ歳からやり直すというなら、今度は信頼をキーワードにしたい。信頼資本主義。何と心地よい響きか。

●は析のしたに日【中日春秋】
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DATE: 2009/04/05(日)   CATEGORY: コラム
米国に脅威を突きつける【天声人語】
人類が核戦争のボタンに指をかけた、とされるキューバ危機は1962年に起きた。米ソ間に生じた一触即発の緊張は、ソ連が、米国に近いキューバにミサイルの基地を造ったのが原因だった。

かくもミサイルは恐怖を増幅させ、神経を逆なでする。その語源はラテン語の「投げる」に由来するそうだ。石でも矢でも、古くは飛び道具全般を指していた。「人殺し技術」の進歩で、いつしか弾頭を積んで飛ばす兵器を言うようになった。

北朝鮮が飛ばそうとするのが人工衛星にせよ、ミサイルにせよ、米国に脅威を突きつけるという狙いに変わりはない。成功すれば米本土の一部を射程にとらえる。脅威を様々な交渉の道具とし、カードにも使うのは、あの国の得意技である。

きのうの朝、北朝鮮は打ち上げを「間もなく」と発表した。だが動きはなかった。それがまた憶測を生む。国際世論を受けて自制したわけではあるまい。頭上を飛び越されるわが国は緊張が続く。愚挙を憤りつつ、万一に備えるしかない。

戦争体験世代には空襲警報を思い出す向きもおられよう。そこへオオカミ少年でもあるまいが、「発射」の誤報を政府が流して混乱が起きた。時と場合によってはパニックを招きかねず、原因を明らかにする必要がある。

日本に落下の可能性はほぼないとはいえ、北朝鮮の技術のほどは分からない。下手なサーカスに頭上で空中ブランコをされるような不安は消せない。その背景に、民衆を飢えさせながら兵器開発に入れ揚げる独裁国家の、寒々とした現実が透けている。【天声人語】
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DATE: 2009/04/05(日)   CATEGORY: 社説
分権改革―首相の「決断」はどこへ
 地方分権にかける麻生政権の意気込みに大いに期待したのに、結果は全く逆である。政府の出先機関を統廃合する道筋を示す「工程表」のことだ。

 政府が先月決めた工程表は、2012年までの分権改革のスケジュールを示したものだ。昨年12月、地方分権改革推進委員会(委員長、丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長)が出した2次勧告を踏まえてつくるはずだったが、肝心の2次勧告の骨格部分がすっぽり抜け落ちてしまった。

 勧告を読んでみる。8府省が持つ出先のうち15機関について、116項目の事務や権限を廃止、もしくは自治体に移す。これにより9万6千人の国家公務員のうち3万5千人を削る。国土交通省の地方整備局や農林水産省の地方農政局など6機関を、ブロックごとに「地方振興局」と「地方工務局」に統合する。

 ところが工程表には、こうした人員削減の数的目標や「振興局」といった具体案はあとかたもない。あるのは「勧告の方向性に沿って検討を進め」とか「要員規模について精査を進める」といった抽象的な言葉だけだ。

 年内に決める改革大綱に、結論を盛り込むのだという。要するに、秋までにある衆院選が終わるまでは、何も決めないでやり過ごそうということだ。

 こんな絵に描いたような骨抜きになったのは、自民党の地方分権改革推進特命委員会などを舞台に、役所の意を受けた族議員たちが猛烈に巻き返しを図ったからだ。

 これから景気対策が大事なのに、3万5千人も削減すると言っては公共事業を担う出先機関の士気が落ちる。雇用情勢が厳しくなる中、国のハローワークは地方に移すべきではない――。これらが族議員たちの言い分だ。

 一見もっともらしいが、本音は別のところにありそうだ。巨額の公共事業などの予算を実際に差配するのは出先機関であり、族議員たちはそこへの影響力を競っている。出先機関の縮小や自治体への権限移譲は、自らの権力の縮小につながりかねない、という思惑が透けて見える。

 麻生首相は、そんな抵抗があっても「私が決断する」と、丹羽委員会に大胆な勧告づくりを促したのではなかったか。それがこんな骨抜きを容認するようでは、ほとんど裏切りに等しい。選挙を考えれば、自民党が得意とする利益配分の伝統手法を変えるのは得策でないと踏んだのだろうか。

 委員の間に、近く予定される次の勧告を見送ろうという反発の声がくすぶるのも無理はない。

 歴代自民党政権の分権への取り組みは、威勢のいい掛け声と骨抜き、先送りの連続だった。このままでは、だから政権を代えなければという民主党の主張にいよいよ説得力が増す。

4/5 朝日新聞 社説
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DATE: 2009/04/05(日)   CATEGORY: コラム
ロケットの心理的価格【余録】
「ロケットの赤い光、空中で破裂する爆弾、それらを夜通し耐え抜いてわれらの旗はそこにあった」−−米国の国歌「星条旗」にはロケットが登場する。1814年の米英戦争で英艦によるボルティモア港へのロケット攻撃を見た詩人が詞を書いたのだ。

法律家だった詩人フランシス・スコット・キーは抑留された英艦でその様を見て、夜明けの砦(とりで)に翻る星条旗に感激したという。花火のようなロケットの派手な攻撃は一種の心理戦だろうし、それを耐えた側の記憶は国歌にまで残された。

ミサイルと宇宙開発の時代である今日も、力や威信のシンボルとしての心理的オーラを帯びるロケットだ。だが食糧や燃料を他国の援助に頼り、国民に極貧を強いながら、自らが依存する国際社会を打ち上げで脅迫する国は北朝鮮しかない。

その北朝鮮は4日、「人工衛星」打ち上げ間近と発表した。これに厳戒態勢をとる日本では昼過ぎ「北朝鮮から飛翔(ひしょう)体が発射された模様」との政府発表があり、国民がかたずをのんでテレビを見守る一幕があった。だが5分後に「誤探知」との訂正があったのはご存じの通りだ。

午前には秋田県の一部市町村でミサイル発射の誤情報が防災無線で流れる騒ぎも起こっている。それぞれ事情はあろうが、もしロケット発射の心理的効果を胸算用する北の独裁者の目に日本国内が浮足立っているように映るとすれば業腹だ。

きょうにも予想される発射だが、ここは合理的、冷静に構え、北朝鮮の愚行には米韓はじめ国際社会と連携して対処したい。テポドン2号の心理的価格をつり上げたい北の思惑に乗ぜられる騒動は、どんな詩人でも詞にならない。【余録】
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DATE: 2009/04/04(土)   CATEGORY: コラム
理念かすむ公務員制度改革
 内閣人事局の創設などを盛り込んだ国家公務員法改正案は、器づくりの議論が先行し、中央省庁の幹部人事の一元化などの改革の理念がかすんでいる。政府・自民党内の調整が二転三転したため、今後の国会審議で詰めるべき論点は数多い。

 公務員制度改革は与野党共同で取り組むのにふさわしいテーマだ。昨年の国家公務員制度改革基本法の審議では、与野党の修正協議を経て内閣人事局の新設などが決まった。民主党も責任を負っており、与野党協議で制度を練り直す必要がある。

 政府・自民党内で最後までもめたのは内閣人事局長ポストのあり方だった。麻生太郎首相の強いこだわりで、3人いる官房副長官の1人が兼ねることで決着した。首相は事務の官房副長官に兼務させる意向だ。

 しかし自民党内では兼職ではなく、官房副長官級の新ポストにするよう求める声が強かった。足元の国家公務員制度改革推進本部顧問会議でも「事務の官房副長官に権限が集中し、官僚内閣制の強化につながる」などの批判が噴き出した。

 時の政権の判断によっては、政治家の官房副長官が兼務することもできる。その場合は政治主導の色彩が強まり、名前は同じ人事局長でも性格は全く違ってくる。人事局長にどのような役割を担わせるかの議論が不足しており、員数合わせに終始した感がある。

 総務省の行政管理局の業務は全面的に人事局に移す予定だったが、組織が肥大化するとの批判が出て、機構・定員管理などに限って移管することになった。これに伴い内閣人事・行政管理局に改めることにしていた名称は、基本法と同じ内閣人事局に戻すというドタバタぶりだ。

 各省の給与ランク別の定数を決める級別定数の管理機能は、人事院から内閣人事局に移す。人事院は反対姿勢を崩しておらず、見切り発車の形である。

 民主党は改正案への対応を決めておらず、今国会で成立するかどうかは不透明だ。首相を補佐して重要政策の企画、立案を担う国家戦略スタッフの新設のように、民主党も理解を示している内容も盛り込まれている。民主党は具体的な対案を示して、審議に臨んでもらいたい。

4/4 日経新聞 社説
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DATE: 2009/04/04(土)   CATEGORY: コラム
姫の名は「景気」【中日春秋】
男たちが一瞬にして心を奪われてしまうような美しい姫の存在は、古典的物語には欠かせない要素の一つ。

たいていは、求婚者が殺到する決まりだが、色よい返事をもらうのは容易ではない。時には文字通り命懸けで、姫の出す謎を解かされる。例えば、氷のように冷たい心を持つ姫が登場するプッチーニの歌劇『トゥーランドット』も、そのパターン。

こうした物語の求婚者と重なるのが、ロンドンでの金融サミットに集まったG20の首脳たちだ(女性もいたが)。彼らが歓心を得ようと懸命な姫の名は「景気」。昨今の世界的冷え込みの厳しさから察するに、こっちの姫も「氷の心」をお持ちらしい。

しかも、この姫の謎掛けは難解至極。首脳らは何とか、二〇一〇年までに各国が総額で五兆ドル(約五百兆円)の景気刺激策を行い、世界全体の成長率4%押し上げを目指す−などなどの答えを出すには出した。

姫もほんの少しは頬(ほお)を緩めたのだろう。日米欧の株価はいくらか上がった。が、これらの対応が正解だったかどうかは、なおしばし、気難しい姫の最終判定を待たねばならない。

歌劇では、十人以上の求婚者が謎解きできず、哀れ斬首(ざんしゅ)となった後、カラフ王子が挑戦。三つの謎を次々解いて、最終的にトゥーランドット姫の愛を勝ち得る。われらが求婚者たちも、うまく、姫の「氷の心」を解かせればよいのだが。【中日春秋】
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DATE: 2009/04/04(土)   CATEGORY: 社説
G20合意―これは出発点に過ぎぬ
 ロンドンで開かれたG20金融サミットで首脳たちは、2010年末までに全体で5兆ドル(約500兆円)規模の財政出動を行い、世界の経済を4%分底上げすることなどを宣言した。まずは、小異を捨てて、大同につこうとした意思が結実した。

 事前には、さまざまな不協和音が伝えられていた。財政では、各国が国内総生産(GDP)の2%規模の出動を行うべきだとした米国に対し、ドイツなど欧州は追加的な措置に慎重だった。金融規制では、ヘッジファンドやタックスヘイブン(租税回避地)に対する厳格な監視と規制を求めたフランスやドイツに対し、米英は緩やかな措置にとどめようとした。

 国際通貨基金(IMF)の改革では、資金拠出の見返りに発言権を高めたい中国と、従来の主導権を守りたい米欧、という構図だった。

 しかし本番の会合では、対立の芽は極力抑えられた。財政出動では、国別の数値目標は見送られ、代わってG20全体の目標を掲げる形にした。金融規制も、米英がある程度の規制強化を容認して妥協が図られた。IMF改革は事前のスケジュールを2年間前倒しして、11年初めまでに出資比率問題などを解決したうえで、新興国の力を取り込む方向になった。

 首脳宣言は「各論反対」になりかねない各国の個別事情には踏み込まず、「総論賛成」を演出した色彩が強い。それだけに課題も多い。

 財政出動の5兆ドルという規模は、G20各国がこれまでに打ち出した対策を積み上げた数字であり、G20で新たに付け加えられたものはなかった。それで世界経済を4%底上げできるのか、しっかり検討されてはいない。思うように効果を発揮しなければ、追加策の議論に追い込まれるだろう。

 また、各国政府がその財源をどう調達するのかもハードルが高い。日本などはすでに巨額の財政赤字が累積している。米国は国債の買い手として海外の資金に頼っているため、ドルへの信頼が低下すれば、財源を賄えなくなる悪循環に陥る危険がある。

 保護主義阻止では、とりわけ各国の覚悟が問われる。前回のG20で「今後1年間に保護主義的な措置をとらない」と合意したのに、約束違反が相次いでいる。今回は、同様の決意を10年末まで1年延長した。各国首脳は今度こそ約束を実行しなければならない。

 このように、G20宣言には不十分な点や不安な面が多い。しかし、いま必要なことは議論をさらに積み重ねることではない。まずは、各国が合意を全力で実行に移してみることだ。

 G20が結束力を保ちながら、スピード感をもって対策を打っていく。その効果を見つつ、新たな事態に応じて対策を追加していく柔軟さが大切だ。

4/4 朝日新聞 社説
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DATE: 2009/04/04(土)   CATEGORY: コラム
大恐慌の教訓【余録】
世界恐慌を招いた株価崩壊を描く米国の経済学者ガルブレイスの「大暴落1929」(日経BPクラシックス)は55年に初版が出た。その後ロングセラーとして読み継がれたことについて、ガルブレイスは好著という以外の理由があると記している。

「増刷され本屋の店頭に並ぶたびに、バブルや株安など何事かが起きるのだ。すると、この本への関心が高まる。そう遠くない昔に好景気が一転して深刻な恐慌につながったときのことを、多くの人が知りたいと考えるからだ」(97年版)。

何も自分が予言者だというのではない。バブルとその崩壊、そして景気後退をこりずに繰り返してきた市場が、この本の新しい読者を次々に作り出してきたというのだ。3年前に亡くなったガルブレイスは、今日またまた同著が版を重ねるさまを天国でどうながめているだろうか。

とはいえ人間も決して何も学んでいないわけではない。かつての世界恐慌が各国をブロック経済に走らせ、果ては世界大戦の破局までもたらしたことはさすがに忘れられていない。あらためて自由貿易堅持をうたった主要20カ国・地域(G20)による第2回金融サミットであった。

ただかつての恐慌の教訓も、今般の金融危機の反省も、利害の異なる国々ごとに一様ではない。財政出動による景気刺激策、金融規制の強化をめぐる日米欧、新興国それぞれの温度差は、時にとげとげしい言葉となって表れる場面もあった。

こりずにバブルを繰り返す人間の性(さが)は変わらない。だが、それが文明の破局をもたらさぬようにする知恵は少しは学んだはずだ。対立を残しながらも保たれたG20の協調はその証しと思いたい。【余録】
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DATE: 2009/04/04(土)   CATEGORY: コラム
発射期間を迎えた【編集手帳】
歌人の河野裕子さんに、子をもつ親ならば誰しもうなずくだろう珠玉の一首がある。〈しつかりと飯を食はせて陽(ひ)にあてしふとんにくるみて寝かす仕合(しあわ)せ〉。

「仕合せ」に感じているのは誰か――という問いには十人が十人、「親」と答えるだろう。それが正答には違いないが、「為政者」もあながち誤答と言えまい。自国の民の胃袋を満たし、すこやかな眠りを与えることは国政を預かる者の使命である。

人工衛星だか弾道ミサイルだか、飛ぶのが何かは知らないが、国民を飢えさせ、医薬品を行き渡らせることもできない国家指導者がかりそめにも夢みることではない。北朝鮮の予告した「発射期間」(4日〜8日)を迎えた。

頭上を脅かされる日本人にとっては憤って憤りすぎることのない暴挙だが、それが“成功”すれば腹をすかせた身で、あるいは満足な医療も受けられない病床で、独裁者を称賛しなくてはならない人たちも哀(あわ)れである。

発射には天候も影響する。しっかりと飯を食うことも、陽にあてし布団にくるまることも許されない人々の悲しみよ。その日、その時刻、その場所で涙雨となって降れ。【編集手帳】
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