市場戦略の常識に挑戦【春秋】
「入場者、予想の3分の1」。1983年春、東京ディズニーランド開業日の様子を翌日の新聞がそんな見出しで伝えている。開園前の行列が想定を下回ったという内容だ。別の新聞には「黒字化に時間」という記事もあり、お手並み拝見という空気が漂う。
「ハイテク時代に童話の世界は時代遅れ」「熱しやすく冷めやすい日本人にはどうか」という評もあったと記憶する。そのディズニーランドとお隣のディズニーシーの昨年度の入園者が過去最高記録を更新したという。26年間の入園者数は締めて4億6000万人超。「夢と魔法」が日本人の遊び方を大きく変えた。
ディズニーランドが開業した年に任天堂のゲーム機ファミリーコンピュータ、通称ファミコンも誕生した。こちらも発売前後に目立った報道はなく、しばらくたち「やっと売れ出す」という記事が掲載されている。その任天堂も今では、この経済環境の中で好調を維持する企業の代表格だ。
目先の好不調にうろたえない。長い目で見て、必要な投資はきちんとする。共通点はいろいろあろうが、最も大きいのは「家族」で一緒に、安心して楽しめる機会を提供してきたということだろうか。これからは個の時代であり、狙うのは個人客。そんな市場戦略の常識に挑戦しはねのけた四半世紀だったと言える。【春秋】
「ハイテク時代に童話の世界は時代遅れ」「熱しやすく冷めやすい日本人にはどうか」という評もあったと記憶する。そのディズニーランドとお隣のディズニーシーの昨年度の入園者が過去最高記録を更新したという。26年間の入園者数は締めて4億6000万人超。「夢と魔法」が日本人の遊び方を大きく変えた。
ディズニーランドが開業した年に任天堂のゲーム機ファミリーコンピュータ、通称ファミコンも誕生した。こちらも発売前後に目立った報道はなく、しばらくたち「やっと売れ出す」という記事が掲載されている。その任天堂も今では、この経済環境の中で好調を維持する企業の代表格だ。
目先の好不調にうろたえない。長い目で見て、必要な投資はきちんとする。共通点はいろいろあろうが、最も大きいのは「家族」で一緒に、安心して楽しめる機会を提供してきたということだろうか。これからは個の時代であり、狙うのは個人客。そんな市場戦略の常識に挑戦しはねのけた四半世紀だったと言える。【春秋】
危機脱却へ決意を示した金融サミット
ロンドンで開いた日米欧と新興国の20カ国・地域(G20)による第2回首脳会合(金融サミット)は、2010年末に2%成長の復帰を目指して各国が政策手段を尽くすことを確認した。国際通貨基金(IMF)の支援規模を大幅に拡大し、金融規制も強化して危機脱却に全力を挙げる決意を示した。
世界経済は戦後初のマイナス成長が確実となり、大恐慌以来の難局に直面している。世界経済の9割を握るG20が危機後もにらんだ共通の合意に達したのは歴史的な意味がある。次に必要なのは各国による着実で迅速な行動である。
IMFの強化で前進
会合の課題は3つあった。危機克服と景気回復に向けた政策面の協調と、信用バブル崩壊で抜け穴が露呈した金融監督と規制の見直し、そして世界貿易を停滞させる保護主義の阻止という点である。
第1の景気刺激策では大規模な財政出動で需要不足を埋めようとする米国や中国、日本に対し、財政規律を崩したくないドイツ、フランスなど欧州が慎重姿勢を示し、意見の隔たりがあった。
首脳宣言は来年末までに財政刺激が全世界で国内総生産(GDP)の4%にあたる5兆ドル(約500兆円)に達すると明記した。全体として相当な財政刺激をしていることを強調し、立場の違いを目立たせない狙いもあっただろう。
機敏な対応が引き続き重要だ。深刻な景気悪化なら欧州勢も迅速な財政出動に動く必要がある。日本は今年度補正予算案に効果的な刺激策を盛り込み、主要国最大の景気悪化から抜け出す努力を尽くすべきだ。
サミットで大きく前進したのは国際金融機関による支援体制の強化だ。首脳宣言はIMFが日欧や中国の追加拠出と、金の売却やSDR(特別引き出し権)の配分による基盤強化を実施し、世界銀行なども貿易金融支援で2500億ドルを追加する。合計の追加支援が1兆1000億ドルに上ると明記した。
経済の血流を左右する金融システムの安定も引き続き重要だ。米では官民ファンドによる不良資産の買い取りが始まるが、公的資金の追加注入も必要となろう。欧州でも中・東欧の混乱が域内銀行に打撃を与えかねないなど火種が残る。
金融政策の重要さも増す。欧州中央銀行(ECB)は2カ月連続で政策金利を下げたが、幅は0.25%と市場の予想を下回った。各国の中銀は国債や社債の買い取りなど、市場に資金を効果的に供給する金融緩和策の知恵が問われる。
金融に対する規制では「いま決めなければ向こう5年は決められない」(メルケル独首相)と独仏が結束して強硬に進展を求めた。米国はヘッジファンドの登録制やデリバティブの監視強化で歩み寄ったが、市場の自由度や効率を阻害するような規制強化には依然として及び腰だ。
首脳宣言は投機マネーの温床とされるタックスヘイブン(租税回避地)への締め付けや金融機関の報酬体系の見直しを打ち出した。しかし、重要なのはやみくもに規制強化に動くのでなく、専門家の英知を結集して「賢い規制」を探ることだろう。金融当局で構成する金融安定化フォーラムの改組による機能強化は時宜にかなう。
サミットでは不況下で各国が一斉に自国優先に走る保護主義の阻止をうたった。多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の再始動や、通貨切り下げ競争の抑止も強調した。G20は昨年11月のサミット初会合で「1年間は新たな貿易障壁を設けない」と公約したが、今回はその期限を10年末まで延長した。
実際には輸入関税の引き上げ、自国製品の優先購入など保護主義を疑わせる措置が相次ぎ打ち出されている。保護主義を阻止するもっと強力な枠組みが必要ではないか。
世界秩序の変化を象徴
金融危機を通じて、中国を筆頭に新興国の存在感が一段と拡大している。中国人民銀行総裁が最近の論文で「主権国家とつながっていない基軸通貨」が国際金融改革の理想だと指摘した。米国債の最大の保有国である中国が基軸通貨ドルの存在に一石を投じた格好である。
金融サミットでも中国はIMFでの発言権拡大を声高に求めるなど、世界の新たな秩序をにらんだ積極的な動きが目立つ。G20体制が定着するなかで、インドやブラジルなどの地位も高まってきている。
日本はIMFへの資金支援をいち早く打ち出すなどの貢献をしたものの、内政の混乱で景気刺激策の対応が後手に回り、存在感が一段と薄れている。金融サミットはその現実を冷徹に映した。
日本は内需回復を急ぎ、危機克服のアイデアも積極的に提案して、世界の力学の変化に取り残されないようにしてほしい。
4/3 日経新聞 社説
世界経済は戦後初のマイナス成長が確実となり、大恐慌以来の難局に直面している。世界経済の9割を握るG20が危機後もにらんだ共通の合意に達したのは歴史的な意味がある。次に必要なのは各国による着実で迅速な行動である。
IMFの強化で前進
会合の課題は3つあった。危機克服と景気回復に向けた政策面の協調と、信用バブル崩壊で抜け穴が露呈した金融監督と規制の見直し、そして世界貿易を停滞させる保護主義の阻止という点である。
第1の景気刺激策では大規模な財政出動で需要不足を埋めようとする米国や中国、日本に対し、財政規律を崩したくないドイツ、フランスなど欧州が慎重姿勢を示し、意見の隔たりがあった。
首脳宣言は来年末までに財政刺激が全世界で国内総生産(GDP)の4%にあたる5兆ドル(約500兆円)に達すると明記した。全体として相当な財政刺激をしていることを強調し、立場の違いを目立たせない狙いもあっただろう。
機敏な対応が引き続き重要だ。深刻な景気悪化なら欧州勢も迅速な財政出動に動く必要がある。日本は今年度補正予算案に効果的な刺激策を盛り込み、主要国最大の景気悪化から抜け出す努力を尽くすべきだ。
サミットで大きく前進したのは国際金融機関による支援体制の強化だ。首脳宣言はIMFが日欧や中国の追加拠出と、金の売却やSDR(特別引き出し権)の配分による基盤強化を実施し、世界銀行なども貿易金融支援で2500億ドルを追加する。合計の追加支援が1兆1000億ドルに上ると明記した。
経済の血流を左右する金融システムの安定も引き続き重要だ。米では官民ファンドによる不良資産の買い取りが始まるが、公的資金の追加注入も必要となろう。欧州でも中・東欧の混乱が域内銀行に打撃を与えかねないなど火種が残る。
金融政策の重要さも増す。欧州中央銀行(ECB)は2カ月連続で政策金利を下げたが、幅は0.25%と市場の予想を下回った。各国の中銀は国債や社債の買い取りなど、市場に資金を効果的に供給する金融緩和策の知恵が問われる。
金融に対する規制では「いま決めなければ向こう5年は決められない」(メルケル独首相)と独仏が結束して強硬に進展を求めた。米国はヘッジファンドの登録制やデリバティブの監視強化で歩み寄ったが、市場の自由度や効率を阻害するような規制強化には依然として及び腰だ。
首脳宣言は投機マネーの温床とされるタックスヘイブン(租税回避地)への締め付けや金融機関の報酬体系の見直しを打ち出した。しかし、重要なのはやみくもに規制強化に動くのでなく、専門家の英知を結集して「賢い規制」を探ることだろう。金融当局で構成する金融安定化フォーラムの改組による機能強化は時宜にかなう。
サミットでは不況下で各国が一斉に自国優先に走る保護主義の阻止をうたった。多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の再始動や、通貨切り下げ競争の抑止も強調した。G20は昨年11月のサミット初会合で「1年間は新たな貿易障壁を設けない」と公約したが、今回はその期限を10年末まで延長した。
実際には輸入関税の引き上げ、自国製品の優先購入など保護主義を疑わせる措置が相次ぎ打ち出されている。保護主義を阻止するもっと強力な枠組みが必要ではないか。
世界秩序の変化を象徴
金融危機を通じて、中国を筆頭に新興国の存在感が一段と拡大している。中国人民銀行総裁が最近の論文で「主権国家とつながっていない基軸通貨」が国際金融改革の理想だと指摘した。米国債の最大の保有国である中国が基軸通貨ドルの存在に一石を投じた格好である。
金融サミットでも中国はIMFでの発言権拡大を声高に求めるなど、世界の新たな秩序をにらんだ積極的な動きが目立つ。G20体制が定着するなかで、インドやブラジルなどの地位も高まってきている。
日本はIMFへの資金支援をいち早く打ち出すなどの貢献をしたものの、内政の混乱で景気刺激策の対応が後手に回り、存在感が一段と薄れている。金融サミットはその現実を冷徹に映した。
日本は内需回復を急ぎ、危機克服のアイデアも積極的に提案して、世界の力学の変化に取り残されないようにしてほしい。
4/3 日経新聞 社説
甲子園初優勝の夢【産経妙】
「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 清峰ニモマケヌ」。きのう行われたセンバツ高校野球の決勝戦で、花巻東の応援席にあったプラカードに書いてあった。岩手県花巻市は、宮沢賢治が生まれ、亡くなった町だ。多くの作品の舞台にもなっている。郷土の偉人の“応援”もむなしく、花巻東は、1点差で涙をのんだ。
賢治の母校、旧制盛岡中学も、野球の強豪校だった。賢治と寮で同室になり、親友だった藤原健次郎は、4番打者として活躍した。賢治は、在学中にチフスで亡くなった健次郎をモデルにした作品も残している。
賢治自身は、野球を含めたあらゆるスポーツが苦手だった。とりわけボールを投げる格好は「女の子そっくりだった」と同級生が証言している。そんな賢治にひとつだけ、野球を題材にした「芝生」という詩がある。
「風とひのきのひるすぎに/小田中はのびあがり/あらんかぎり手をのばし/灰いろのゴムのまり 光の標本を/受けかねてぽろつとおとす」。農学校の教師時代に、「小田中」という名前の生徒が、キャッチボールをしている情景を描いたものだ。
大会屈指の好投手だった清峰の今村投手と互角に投げ合った花巻東の菊池投手は、盛岡市の出身だ。「岩手県のために勝ちたい」と語っていたという。賢治は大正13(1924)年、童話集『注文の多い料理店』を発刊した時の自筆広告文にこう書いた。
「イーハトヴは一つの地名である。強て、その地点を求むるならばそれは…この様な状景をもつて実在した、ドリームランドとしての日本岩手県である」。そこでは、あらゆる夢が実現するはずだったが、岩手県勢、あるいは東北勢による甲子園初優勝の夢だけは、次の機会に持ち越された。【産経妙】
賢治の母校、旧制盛岡中学も、野球の強豪校だった。賢治と寮で同室になり、親友だった藤原健次郎は、4番打者として活躍した。賢治は、在学中にチフスで亡くなった健次郎をモデルにした作品も残している。
賢治自身は、野球を含めたあらゆるスポーツが苦手だった。とりわけボールを投げる格好は「女の子そっくりだった」と同級生が証言している。そんな賢治にひとつだけ、野球を題材にした「芝生」という詩がある。
「風とひのきのひるすぎに/小田中はのびあがり/あらんかぎり手をのばし/灰いろのゴムのまり 光の標本を/受けかねてぽろつとおとす」。農学校の教師時代に、「小田中」という名前の生徒が、キャッチボールをしている情景を描いたものだ。
大会屈指の好投手だった清峰の今村投手と互角に投げ合った花巻東の菊池投手は、盛岡市の出身だ。「岩手県のために勝ちたい」と語っていたという。賢治は大正13(1924)年、童話集『注文の多い料理店』を発刊した時の自筆広告文にこう書いた。
「イーハトヴは一つの地名である。強て、その地点を求むるならばそれは…この様な状景をもつて実在した、ドリームランドとしての日本岩手県である」。そこでは、あらゆる夢が実現するはずだったが、岩手県勢、あるいは東北勢による甲子園初優勝の夢だけは、次の機会に持ち越された。【産経妙】
花見の「幸福」【余録】
芭蕉が上野の花見に行った。大勢が幕を張りめぐらし、さまざまな音曲や小唄がにぎやかである。かたわらの松の陰にようやく場所を見つけて−−「四つごきのそろはぬ花見心哉(ごころかな)」。四御器(よつごき)という旅僧の用いる粗末な食器すらそろわない貧しい花見をしたという。
周囲の騒ぎをよそに、つつましい芭蕉一行の花見が思い浮かぶ。だが同行した一人は、その様子を「瓢箪(ひょうたん)の底をたたき……毛氈(もうせん)の上の腹鞁(はらづつみ)も狸(たぬき)まけぬ酔心、翁(おう)の野々宮、熊坂も出る程の大繁昌(はんじょう)にて、少々は紅裏も見へ」と書いている。
ヒョウタンをたたいて大騒ぎの酔態で、芭蕉も謡曲を歌うか舞うかの大盛り上がりだった。この逸話を紹介している白幡洋三郎さんの「花見と桜」(PHP新書)は、「紅裏も見へ」とあるのを見ると女性も座に呼んだのだろうと推測する。
いやはや貧窮の芭蕉もどんちゃん騒ぎした日本人の花見だ。庭園史家の白幡さんは、花見とは「群桜」「飲食」「群集」から成る世界に類のない民衆文化で、身分や貧富を超えた群集の「共同の幸福」の場だと説く。なるほど俳聖も巻き込む大はしゃぎこそ花見の本領なのらしい。
先月21日にソメイヨシノの開花宣言が出た後、ほころんだつぼみが思わぬ冷え込みで固まっていた東京地方である。花見を待つ向きにはまだるっこい2週間となってしまったが、気温も上向いてようやく「群桜」が楽しめそうなこの週末だ。
あとは「飲食」と「群集」があれば花見となる。景気や雇用をめぐるつらい話ばかり耳に入る4月だが、仮に松の陰の粗末な宴だったとしても集う者みなが同じ幸福で心を満たす花見である。喜びの春を分かち合おう。【余録】
周囲の騒ぎをよそに、つつましい芭蕉一行の花見が思い浮かぶ。だが同行した一人は、その様子を「瓢箪(ひょうたん)の底をたたき……毛氈(もうせん)の上の腹鞁(はらづつみ)も狸(たぬき)まけぬ酔心、翁(おう)の野々宮、熊坂も出る程の大繁昌(はんじょう)にて、少々は紅裏も見へ」と書いている。
ヒョウタンをたたいて大騒ぎの酔態で、芭蕉も謡曲を歌うか舞うかの大盛り上がりだった。この逸話を紹介している白幡洋三郎さんの「花見と桜」(PHP新書)は、「紅裏も見へ」とあるのを見ると女性も座に呼んだのだろうと推測する。
いやはや貧窮の芭蕉もどんちゃん騒ぎした日本人の花見だ。庭園史家の白幡さんは、花見とは「群桜」「飲食」「群集」から成る世界に類のない民衆文化で、身分や貧富を超えた群集の「共同の幸福」の場だと説く。なるほど俳聖も巻き込む大はしゃぎこそ花見の本領なのらしい。
先月21日にソメイヨシノの開花宣言が出た後、ほころんだつぼみが思わぬ冷え込みで固まっていた東京地方である。花見を待つ向きにはまだるっこい2週間となってしまったが、気温も上向いてようやく「群桜」が楽しめそうなこの週末だ。
あとは「飲食」と「群集」があれば花見となる。景気や雇用をめぐるつらい話ばかり耳に入る4月だが、仮に松の陰の粗末な宴だったとしても集う者みなが同じ幸福で心を満たす花見である。喜びの春を分かち合おう。【余録】
前向きに考える【天声人語】
入社式のあいさつの中で、荻田伍(ひとし)アサヒビール社長の言葉が印象に残った。「大変な時期に入社したと考えるか、変革期こそチャンスと考えるかで、皆さんの行動や成長は違ってくる。前向きに考えれば、知恵と工夫が生まれる」。
門出の景気づけにしても、元気を分けてもらった。経済がこの惨状だからこそ、個人も会社も、そして国も、知恵の絞り時、工夫のしどころだ。ロンドンのG20サミットに集った首脳は、エゴを抑え、一緒に知恵と金を絞り出そうと話し合った。
それにしても、次から次に浮かない数字が出てくる。先の日銀短観では、大手製造業の景況感が過去最悪になった。輸出が振るわないうえ、内需は賃下げや失業で湿るこれからが冬本番との見方さえある。
過日の小紙で、同志社大学教授の浜矩子(のりこ)さんが「海外で跳びはねているジャパンマネーを呼び戻せ」と説いていた。この辛口エコノミストによると、戻すべきものがもう一つある。ふるい落とされた人を、政策の力で経済活動の輪に戻すことだ。
浜さんは、怪しげな金融工学が経済の営みから人間を消したと嘆く。「グローバル化の時代、仕組みだけ整えても運営はできない。精神論ですが、心意気、魂、人間らしさが出てこないと輝きは増しません」。
幸い、米ロの間に再び雪解けの兆しが見える。同時不況の渦の中、どの国も好き勝手をする余裕はない。中国とて大国の責任を感じていよう。浜さんの言う「地球村」的な発想を促すなら、この危機は結構なチャンスかもしれない。要は心意気である。【天声人語】
門出の景気づけにしても、元気を分けてもらった。経済がこの惨状だからこそ、個人も会社も、そして国も、知恵の絞り時、工夫のしどころだ。ロンドンのG20サミットに集った首脳は、エゴを抑え、一緒に知恵と金を絞り出そうと話し合った。
それにしても、次から次に浮かない数字が出てくる。先の日銀短観では、大手製造業の景況感が過去最悪になった。輸出が振るわないうえ、内需は賃下げや失業で湿るこれからが冬本番との見方さえある。
過日の小紙で、同志社大学教授の浜矩子(のりこ)さんが「海外で跳びはねているジャパンマネーを呼び戻せ」と説いていた。この辛口エコノミストによると、戻すべきものがもう一つある。ふるい落とされた人を、政策の力で経済活動の輪に戻すことだ。
浜さんは、怪しげな金融工学が経済の営みから人間を消したと嘆く。「グローバル化の時代、仕組みだけ整えても運営はできない。精神論ですが、心意気、魂、人間らしさが出てこないと輝きは増しません」。
幸い、米ロの間に再び雪解けの兆しが見える。同時不況の渦の中、どの国も好き勝手をする余裕はない。中国とて大国の責任を感じていよう。浜さんの言う「地球村」的な発想を促すなら、この危機は結構なチャンスかもしれない。要は心意気である。【天声人語】
瀬戸際外交【有明妙】
日本で最後の内戦となった西南戦争(1877年)。官軍と西郷隆盛率いる薩摩軍が戦い、双方合わせて1万人の戦死者を出した。最大の激戦となったのが田原坂(熊本県植木町)の攻防である。
「雨は降る降る 人馬は濡(ぬ)れる」の民謡で知られる。17日間の苛烈(かれつ)な戦いが続き、1日で使われた弾丸は32万発。双方の弾と弾が空中で衝突してできた「かち合い弾」が同町の田原坂資料館に展示されており、遺物を見た司馬遼太郎も『街道をゆく』の中で「ちょっと凄味(すごみ)を感じた」と書き残している。
戦争で弾丸同士が当たるのは偶然だが、狙って衝突させるのは至難の技だ。北朝鮮が「人工衛星」として弾道ミサイルを発射した時の迎撃について、政府筋が「ピストルの弾をピストルで撃ち落とせるはずがない」と発言して物議を醸した。
確かに分かりやすい表現だったが、中曽根外相も「難しいのは事実」と、政府自らがミサイル防衛システム(MD)による迎撃が口で言うほどたやすくないことを吐露してしまった。日米の発射実験の成功率は八割程度というが、本番ではどうだろうか。
ロケットが日本上空を通過するならMDの出番はない。ただ、本体や部品の一部が日本領域に落下する可能性もゼロではない以上、安全対策に万全を期すのは当然である。それにしても人騒がせな話だ。振り回されたくはないが、何しろ瀬戸際外交が得意の国である。弾道ミサイルではなく人工衛星の可能性もあるものの、正体が分からぬでは身構えてしまう。
北朝鮮は「迎撃は戦争を意味する」と反発し、報復を警告している。国と国との「かち合い」などだれも望んでいない。ここは発射阻止に向けてギリギリまで外交努力をしてほしい。【有明妙】
「雨は降る降る 人馬は濡(ぬ)れる」の民謡で知られる。17日間の苛烈(かれつ)な戦いが続き、1日で使われた弾丸は32万発。双方の弾と弾が空中で衝突してできた「かち合い弾」が同町の田原坂資料館に展示されており、遺物を見た司馬遼太郎も『街道をゆく』の中で「ちょっと凄味(すごみ)を感じた」と書き残している。
戦争で弾丸同士が当たるのは偶然だが、狙って衝突させるのは至難の技だ。北朝鮮が「人工衛星」として弾道ミサイルを発射した時の迎撃について、政府筋が「ピストルの弾をピストルで撃ち落とせるはずがない」と発言して物議を醸した。
確かに分かりやすい表現だったが、中曽根外相も「難しいのは事実」と、政府自らがミサイル防衛システム(MD)による迎撃が口で言うほどたやすくないことを吐露してしまった。日米の発射実験の成功率は八割程度というが、本番ではどうだろうか。
ロケットが日本上空を通過するならMDの出番はない。ただ、本体や部品の一部が日本領域に落下する可能性もゼロではない以上、安全対策に万全を期すのは当然である。それにしても人騒がせな話だ。振り回されたくはないが、何しろ瀬戸際外交が得意の国である。弾道ミサイルではなく人工衛星の可能性もあるものの、正体が分からぬでは身構えてしまう。
北朝鮮は「迎撃は戦争を意味する」と反発し、報復を警告している。国と国との「かち合い」などだれも望んでいない。ここは発射阻止に向けてギリギリまで外交努力をしてほしい。【有明妙】
割り勘負け【中日春秋】
広辞苑には載っていないが、世に「割り勘負け」という言葉がある。例の高速道路料金値下げで、ふと頭に浮かんだ。
値下げが始まった先週末は渋滞が起きたところもあったようだ。やはり春の行楽気分をいや増すのだろう。利用者には好評のようだが、気になったのは「ありがたい」という感想。念のため、これは別に高速道路会社が大盤振る舞いしてくれたわけではない。値下げ分は国民の税金で補てんされる。
一般に、税金は社会全体の問題解決に使われるので、個人レベルで、負担と受益の比率をどうこうはできない。が、この値下げの場合は、割り勘で飲むようなものだ。飲めば飲むほど、いや走れば走るほど受益の比率を上げられる。
「土日休日上限千円」と「平日昼間三割引き」を二年間実施するために使う税金は五千億円という。つまり、単純に人口で割れば一人頭、割引額がざっと四千円分強になるまでは走らないと「割り勘負け」する勘定になる。
そうはしたくないのが人情だが、だからって無理して飲む、いや走るというのも…。まして、CO2を減らそうという時代だ。そも、車やETCのない人には受益ゼロでは、一滴も飲めない友に割り勘を強要しているようなものだろう。
何にせよ、定額給付金に続き、集めた税金をばらまき「まず楽しもう」の施策ではある。何となく後の“支払い”が心配だ。【中日春秋】
値下げが始まった先週末は渋滞が起きたところもあったようだ。やはり春の行楽気分をいや増すのだろう。利用者には好評のようだが、気になったのは「ありがたい」という感想。念のため、これは別に高速道路会社が大盤振る舞いしてくれたわけではない。値下げ分は国民の税金で補てんされる。
一般に、税金は社会全体の問題解決に使われるので、個人レベルで、負担と受益の比率をどうこうはできない。が、この値下げの場合は、割り勘で飲むようなものだ。飲めば飲むほど、いや走れば走るほど受益の比率を上げられる。
「土日休日上限千円」と「平日昼間三割引き」を二年間実施するために使う税金は五千億円という。つまり、単純に人口で割れば一人頭、割引額がざっと四千円分強になるまでは走らないと「割り勘負け」する勘定になる。
そうはしたくないのが人情だが、だからって無理して飲む、いや走るというのも…。まして、CO2を減らそうという時代だ。そも、車やETCのない人には受益ゼロでは、一滴も飲めない友に割り勘を強要しているようなものだろう。
何にせよ、定額給付金に続き、集めた税金をばらまき「まず楽しもう」の施策ではある。何となく後の“支払い”が心配だ。【中日春秋】
G20サミット―結束し暴風に立ち向かえ
現下の経済危機は文字通り世界を一変させた。激震が続く中、20を超える国や欧州連合の首脳らがロンドンに集まった。新しい時代に合わせた「G20サミット」という新しい枠組みによって、危機の克服に取り組む。
21世紀に入って、世界経済のグローバル化は一段と加速した。これを推し進めたのが米国の金融力と、世界中からモノやサービスを買い込む借金体質だった。米国への輸出で世界各国が稼ぐ。輸出でためた資金が米国へ流れ込み、再び世界中へ投資される。盤石に見えたこの体制は「金融帝国」とすら呼ばれた。だが、米国を震源とする金融危機ですべてが暗転した。
昨年9月のリーマン・ショックから半年。世界中が信用収縮でカネ詰まりになった。自動車ローンなど消費者金融も冷え込み、米国が借金をテコに世界から輸入する循環が逆回転を始めた。世界中が深刻な需要不足に陥り、各国の輸出産業は深手を負った。日本の輸出はほぼ半減してしまった。
国際通貨基金(IMF)の予想では、09年は第2次大戦後初めて世界規模でマイナス成長になる。世界貿易機関(WTO)の推計では、ここ30年間にわたり拡大を続けてきた世界の貿易が、09年は9%も落ち込む。これも戦後最大の減少である。
■存在感高めた新興国
国際労働機関(ILO)は、09年の世界の失業者数が最悪の場合、2億3千万人に達する可能性があると見る。2億人の大台を突破すれば初めてのことだ。まさに1930年代の大恐慌以来の異常事態である。
米国中心の枠組みが崩壊していくショックを最小限に食い止め、世界経済をどう立て直すのか。この課題に取り組むには、先進国クラブによる「G8サミット」では力不足だ。危機で「炎上」しているのは、何より先進国だからだ。一方、中国やインドなどの新興国は急成長し、21世紀に入ってその存在感を大いに増している。
昨年11月にワシントンで急きょ開かれた初のG20サミットは、まさに時代の要請だった。
では、不況の暴風が吹き荒れるなかで開かれるロンドン会議は、危機にどこまで立ち向かえるだろうか。
金融システムの崩壊を防ぎ、財政出動で不況の深刻化を食い止める。これらの最優先課題に、各国はすでに取り組みを進めている。だが、不協和音も聞こえてくる。
財政出動について、国内総生産(GDP)の2%という規模を米国が各国に求めている。日本が同調し、中国も歩調を合わせている。逆に欧州は、将来の財政負担への懸念などから追加策には慎重だ。G20では数値目標の提示は見送り、対立を表面化させない方向だが、火種は残るだろう。
■道は長く険しいが
いちばん難しいのは、保護主義を阻止することである。昨秋のG20では、世界各国による貿易交渉(ドーハ・ラウンド)を昨年内に合意させることと、向こう1年間に各国は保護主義的な措置をとらない、という点で合意した。それなのに、この両方ともがすでに反故(ほご)になってしまった。
関税引き上げのほか、環境や安全を名目に輸入を制限する動きが相次いでいる。景気てこ入れに当たっては、自国の産業や雇用の維持を優先せよとの要求が強くなってきた。失業などで社会不安が高まれば、どこの政府も「自国優先」の圧力に抗し難くなる。
恐慌から保護主義が世界へ広がり、ついには第2次世界大戦を起こしてしまった歴史を忘れてはならない。
社会不安を防ぐために、各国とも弱者に配慮する必要がある。そのうえで、機会があるごとにG20の結束を確認して、保護主義的な措置をとることのないよう、互いに自制し牽制(けんせい)していくことが大切だ。
金融の規制・監督体制を再構築する問題でも、規制を強調する欧州と慎重派の米国との距離は大きい。
G20が結束して危機克服にあたろう。そう唱えてはいるものの、現実には難事業だ。それでも、新しいG20の枠組みを生かして各国のエゴを抑え込み、協調を引き出して、課題を一つずつ解決していく以外に道はない。
G20の結束をもっと強める必要がある。そのためには、利害が一致しにくい先進国と新興国、途上国との間に、求心力が生じるような方策を考えたい。IMFの改革を、その契機にできないだろうか。
■IMF改革が試金石
いま中欧・東欧諸国が資金不足に陥り、金融危機を再燃させかねないと懸念されている。資金を補うのがIMFの役割だが、こうした事態が続発すればIMF自身の資金が不足する恐れがあり、G20でも資金力の強化がテーマのひとつだ。そこで、中国など新興国はIMFへの資金拠出を拡大し、発言力を高めたいと願っている。
渡りに船のはずだが、最大の出資国である米国は、影響力が低下するのを嫌い消極的だ。G20初登場のオバマ米大統領には、多極化した世界にふさわしい指導力を発揮してもらいたい。IMF改革が試金石となるだろう。
ロンドン会議で目ざましい合意や対策が決まると考えるのは、楽観が過ぎよう。だが、ここから始まる長い過程が未来を左右する。日本経済の本格的な回復も、そこにかかっている。
4/2 朝日新聞 社説
21世紀に入って、世界経済のグローバル化は一段と加速した。これを推し進めたのが米国の金融力と、世界中からモノやサービスを買い込む借金体質だった。米国への輸出で世界各国が稼ぐ。輸出でためた資金が米国へ流れ込み、再び世界中へ投資される。盤石に見えたこの体制は「金融帝国」とすら呼ばれた。だが、米国を震源とする金融危機ですべてが暗転した。
昨年9月のリーマン・ショックから半年。世界中が信用収縮でカネ詰まりになった。自動車ローンなど消費者金融も冷え込み、米国が借金をテコに世界から輸入する循環が逆回転を始めた。世界中が深刻な需要不足に陥り、各国の輸出産業は深手を負った。日本の輸出はほぼ半減してしまった。
国際通貨基金(IMF)の予想では、09年は第2次大戦後初めて世界規模でマイナス成長になる。世界貿易機関(WTO)の推計では、ここ30年間にわたり拡大を続けてきた世界の貿易が、09年は9%も落ち込む。これも戦後最大の減少である。
■存在感高めた新興国
国際労働機関(ILO)は、09年の世界の失業者数が最悪の場合、2億3千万人に達する可能性があると見る。2億人の大台を突破すれば初めてのことだ。まさに1930年代の大恐慌以来の異常事態である。
米国中心の枠組みが崩壊していくショックを最小限に食い止め、世界経済をどう立て直すのか。この課題に取り組むには、先進国クラブによる「G8サミット」では力不足だ。危機で「炎上」しているのは、何より先進国だからだ。一方、中国やインドなどの新興国は急成長し、21世紀に入ってその存在感を大いに増している。
昨年11月にワシントンで急きょ開かれた初のG20サミットは、まさに時代の要請だった。
では、不況の暴風が吹き荒れるなかで開かれるロンドン会議は、危機にどこまで立ち向かえるだろうか。
金融システムの崩壊を防ぎ、財政出動で不況の深刻化を食い止める。これらの最優先課題に、各国はすでに取り組みを進めている。だが、不協和音も聞こえてくる。
財政出動について、国内総生産(GDP)の2%という規模を米国が各国に求めている。日本が同調し、中国も歩調を合わせている。逆に欧州は、将来の財政負担への懸念などから追加策には慎重だ。G20では数値目標の提示は見送り、対立を表面化させない方向だが、火種は残るだろう。
■道は長く険しいが
いちばん難しいのは、保護主義を阻止することである。昨秋のG20では、世界各国による貿易交渉(ドーハ・ラウンド)を昨年内に合意させることと、向こう1年間に各国は保護主義的な措置をとらない、という点で合意した。それなのに、この両方ともがすでに反故(ほご)になってしまった。
関税引き上げのほか、環境や安全を名目に輸入を制限する動きが相次いでいる。景気てこ入れに当たっては、自国の産業や雇用の維持を優先せよとの要求が強くなってきた。失業などで社会不安が高まれば、どこの政府も「自国優先」の圧力に抗し難くなる。
恐慌から保護主義が世界へ広がり、ついには第2次世界大戦を起こしてしまった歴史を忘れてはならない。
社会不安を防ぐために、各国とも弱者に配慮する必要がある。そのうえで、機会があるごとにG20の結束を確認して、保護主義的な措置をとることのないよう、互いに自制し牽制(けんせい)していくことが大切だ。
金融の規制・監督体制を再構築する問題でも、規制を強調する欧州と慎重派の米国との距離は大きい。
G20が結束して危機克服にあたろう。そう唱えてはいるものの、現実には難事業だ。それでも、新しいG20の枠組みを生かして各国のエゴを抑え込み、協調を引き出して、課題を一つずつ解決していく以外に道はない。
G20の結束をもっと強める必要がある。そのためには、利害が一致しにくい先進国と新興国、途上国との間に、求心力が生じるような方策を考えたい。IMFの改革を、その契機にできないだろうか。
■IMF改革が試金石
いま中欧・東欧諸国が資金不足に陥り、金融危機を再燃させかねないと懸念されている。資金を補うのがIMFの役割だが、こうした事態が続発すればIMF自身の資金が不足する恐れがあり、G20でも資金力の強化がテーマのひとつだ。そこで、中国など新興国はIMFへの資金拠出を拡大し、発言力を高めたいと願っている。
渡りに船のはずだが、最大の出資国である米国は、影響力が低下するのを嫌い消極的だ。G20初登場のオバマ米大統領には、多極化した世界にふさわしい指導力を発揮してもらいたい。IMF改革が試金石となるだろう。
ロンドン会議で目ざましい合意や対策が決まると考えるのは、楽観が過ぎよう。だが、ここから始まる長い過程が未来を左右する。日本経済の本格的な回復も、そこにかかっている。
4/2 朝日新聞 社説
戻ってきたトキ【余録】
これからの季節、地面に落ちている鳥のヒナを見つけることもあるだろう。だが、多くの場合それは巣立ちの途中で、人がふれてはいけないのだという。かわいそうと保護したりすれば、近くにいる親鳥から引き離すことになり、巣立ちが不可能になるそうだ。
人の善意もかえって自然な生存を危うくするのが、野生動物保護の難しいところだ。とくに動物をわが身に引きつけて考えがちな人間だが、動物には動物の都合もあるだろう。相手が人ならばありがた迷惑でも、動物には迷惑なだけである。
そんな動物だから、いったん絶滅したトキを野生復帰させる試みが多くのジレンマを抱え込むのも仕方ない。しかし新潟県佐渡市で昨秋放鳥されたトキのうち生き残っている雌4羽すべてが本州に渡ったと聞いた時にはさすがに天を仰いだ。
なぜか雄が佐渡に残ったのもすべては「トキの都合」だが、おかげで繁殖への期待はしぼんだ。佐渡の地元ではかねて本州に渡ったトキを島に連れ戻すよう要望し、一方で鳥の専門家は捕獲に反対して観察続行を求めていたいきさつもある。
そこに飛び込んできたのが、雌の1羽が佐渡に戻り、以前一緒にいた雄と行動を共にしているという朗報である。思わず「家出妻帰る」などと人情話にしたくなるが、「トキの都合」を人事にひきつけてはまた見通しを誤ろう。ただ繁殖の可能性が復活したのをすなおに喜びたい。
海を軽々と渡る飛翔(ひしょう)力をはじめ人の想像の枠に収まらないのが「野生」である。なのに自分の都合で自然を作り替え、多くの生物を絶滅に追い込んできた人間だ。ここしばらくは心静かに「トキの都合」に耳を傾けたい。【余録】
人の善意もかえって自然な生存を危うくするのが、野生動物保護の難しいところだ。とくに動物をわが身に引きつけて考えがちな人間だが、動物には動物の都合もあるだろう。相手が人ならばありがた迷惑でも、動物には迷惑なだけである。
そんな動物だから、いったん絶滅したトキを野生復帰させる試みが多くのジレンマを抱え込むのも仕方ない。しかし新潟県佐渡市で昨秋放鳥されたトキのうち生き残っている雌4羽すべてが本州に渡ったと聞いた時にはさすがに天を仰いだ。
なぜか雄が佐渡に残ったのもすべては「トキの都合」だが、おかげで繁殖への期待はしぼんだ。佐渡の地元ではかねて本州に渡ったトキを島に連れ戻すよう要望し、一方で鳥の専門家は捕獲に反対して観察続行を求めていたいきさつもある。
そこに飛び込んできたのが、雌の1羽が佐渡に戻り、以前一緒にいた雄と行動を共にしているという朗報である。思わず「家出妻帰る」などと人情話にしたくなるが、「トキの都合」を人事にひきつけてはまた見通しを誤ろう。ただ繁殖の可能性が復活したのをすなおに喜びたい。
海を軽々と渡る飛翔(ひしょう)力をはじめ人の想像の枠に収まらないのが「野生」である。なのに自分の都合で自然を作り替え、多くの生物を絶滅に追い込んできた人間だ。ここしばらくは心静かに「トキの都合」に耳を傾けたい。【余録】
釣り人の我慢が試される【天声人語】
作家の開高健は60年代、ドイツの釣り具屋でセピア色の写真に血をたぎらせた。ドナウ川で釣り上げた魚を大男が後ろ向きに担いでいる。担がれてなお、尾を地面に引きずる巨体である。
「ワシの脳のヒダに強烈に焼きついて離れない」というそれは、日本でいうイトウの仲間だった。この魚への憧(あこが)れは断ちがたい。釧路湿原で竿(さお)にかけた70センチ級を「このクラスは中学生や。いや幼稚園か」と自嘲(じちょう)した作家は後年、モンゴルで1.18メートルを仕留め、宿願を遂げた。
国内でも2メートル超の記録が残る最大級の淡水魚は、自然破壊と保護の遅れから絶滅の危機にある。座視できないということだろう。有数の繁殖地を抱える北海道南富良野町できのう、イトウを守る条例が施行された。
釣ったら放し、春の産卵期は捕らぬよう促す内容だ。イトウ保護連絡協議会の江戸謙顕(かねあき)さんは「一魚種のための条例は全国初でしょう。強制力がないのが残念だが、行政の姿勢を明確にしたのは前進」と話す。
56年前、北の巨魚はすでに伝説だった。西園寺(さいおんじ)公一(きんかず)の随筆「西別川のイトウ」から引く。「はっと思って立ち上(あが)ると、置き竿はいまにも水中へ引っ張り込まれそうに頭を振り、腰を曲げ、リールが悲鳴をあげて、ナイロンの糸を吐き出しはじめる」。激闘47分。震える手で三尺八寸五分(1.17メートル)を抱いた。
開高や西園寺を魅了した「メーター超え」の夢を、どうにかして次代につなぎたい。数千の卵を抱えたメス、紅の婚姻色に染まったオスが雪解けの川を上るこれから、釣り人の我慢が試される。【天声人語】
「ワシの脳のヒダに強烈に焼きついて離れない」というそれは、日本でいうイトウの仲間だった。この魚への憧(あこが)れは断ちがたい。釧路湿原で竿(さお)にかけた70センチ級を「このクラスは中学生や。いや幼稚園か」と自嘲(じちょう)した作家は後年、モンゴルで1.18メートルを仕留め、宿願を遂げた。
国内でも2メートル超の記録が残る最大級の淡水魚は、自然破壊と保護の遅れから絶滅の危機にある。座視できないということだろう。有数の繁殖地を抱える北海道南富良野町できのう、イトウを守る条例が施行された。
釣ったら放し、春の産卵期は捕らぬよう促す内容だ。イトウ保護連絡協議会の江戸謙顕(かねあき)さんは「一魚種のための条例は全国初でしょう。強制力がないのが残念だが、行政の姿勢を明確にしたのは前進」と話す。
56年前、北の巨魚はすでに伝説だった。西園寺(さいおんじ)公一(きんかず)の随筆「西別川のイトウ」から引く。「はっと思って立ち上(あが)ると、置き竿はいまにも水中へ引っ張り込まれそうに頭を振り、腰を曲げ、リールが悲鳴をあげて、ナイロンの糸を吐き出しはじめる」。激闘47分。震える手で三尺八寸五分(1.17メートル)を抱いた。
開高や西園寺を魅了した「メーター超え」の夢を、どうにかして次代につなぎたい。数千の卵を抱えたメス、紅の婚姻色に染まったオスが雪解けの川を上るこれから、釣り人の我慢が試される。【天声人語】
四月馬鹿(エープリルフール)【産経妙】
むかし、むかしのお話。あるところにお金持ちの殿様がおったそうな。のんびりと暮らしていたところ、南蛮から強欲な貧乏神がやってきた。殿様、重い腰をあげて有り金かき集め、そこら中にばらまいたが、一向に帰ってくれない。
人気がガタ落ちになったうえに、漢字が苦手なのもばれてしもうた。寺子屋に通う子供たちにも「みぞゆうのバカ殿だ」とはやし立てられた。どす黒いまでの孤独感にさいなまれ、ついつい夜更けまで南蛮旅籠(はたご)屋で飲み続けたそうな。
「じゃあオレが殿様を追い出して世の中を変えてやろう」と名乗りをあげたのが、かつて藩の家老を務めながらもゆえあって脱藩した浪人者じゃった。腕っ節が強く、大勢の子分を従え、長屋を何軒も持つほど羽振りがいい。
殿様より度胸があり、世間の空気も「いっぺん浪人者にやらしてみたらいい」となった。されど、好事魔多し。一の子分が悪徳商人とつるんでいた疑いをかけられ、岡(おか)っ引きにしょっぴかれた。残された子分たちは「殿様の差し金に違いない」と騒ぎ立てた。
子分たちが騒げば騒ぐほど、浪人者の評判は、日に日に落ちていった。役職についてないのに、なぜ長屋を何軒も買えたのか怪しい、という瓦版も江戸中に出回った。といって殿様の人気も大して上がらない。そこで、やっと2人は気がついた。「オレたちゃ何をやっても世間から嫌われる。本当は似た者同士だぜ」。
それから2人は心を入れ替えた。世間の評判を気にせず、協力して人々のため一生懸命働いたとか。そうこうしているうちに、いつしか貧乏神もいなくなった。安心した2人は、立派な若者に後を任せて楽隠居したそうな。めでたし、めでたし…。本日は四月馬鹿(エープリルフール)です。念のため。【産経妙】
人気がガタ落ちになったうえに、漢字が苦手なのもばれてしもうた。寺子屋に通う子供たちにも「みぞゆうのバカ殿だ」とはやし立てられた。どす黒いまでの孤独感にさいなまれ、ついつい夜更けまで南蛮旅籠(はたご)屋で飲み続けたそうな。
「じゃあオレが殿様を追い出して世の中を変えてやろう」と名乗りをあげたのが、かつて藩の家老を務めながらもゆえあって脱藩した浪人者じゃった。腕っ節が強く、大勢の子分を従え、長屋を何軒も持つほど羽振りがいい。
殿様より度胸があり、世間の空気も「いっぺん浪人者にやらしてみたらいい」となった。されど、好事魔多し。一の子分が悪徳商人とつるんでいた疑いをかけられ、岡(おか)っ引きにしょっぴかれた。残された子分たちは「殿様の差し金に違いない」と騒ぎ立てた。
子分たちが騒げば騒ぐほど、浪人者の評判は、日に日に落ちていった。役職についてないのに、なぜ長屋を何軒も買えたのか怪しい、という瓦版も江戸中に出回った。といって殿様の人気も大して上がらない。そこで、やっと2人は気がついた。「オレたちゃ何をやっても世間から嫌われる。本当は似た者同士だぜ」。
それから2人は心を入れ替えた。世間の評判を気にせず、協力して人々のため一生懸命働いたとか。そうこうしているうちに、いつしか貧乏神もいなくなった。安心した2人は、立派な若者に後を任せて楽隠居したそうな。めでたし、めでたし…。本日は四月馬鹿(エープリルフール)です。念のため。【産経妙】
追加経済対策―規模の大きさを追うな
麻生首相が政府・与党に新たな経済対策をまとめるよう指示した。かつてない不況下で政府として何ができるのか、大いに知恵を絞ってもらいたい。
だがそれにしても、政府・与党内では「100年に1度の経済危機」を大義名分に、一見、経済効果がありそうな策なら「何でもあり」という空気に流れすぎていないか。
検討中のメニューには整備新幹線や高速道路網、空港、港湾の整備、自動車の買い替えや省エネ住宅への助成など、平時なら簡単には認められない巨額の予算項目がずらりと並ぶ。
輸出の激減が内需へも波及して、多くの生産設備や労働力が余っている。その余剰規模は20兆円超という。与党内からは「それを財政支出で穴埋めする」と言わんばかりに、10兆円超の財政支出を求める意見が強い。麻生首相は「赤字国債も辞さない」とそれを容認するような姿勢だ。
しかし、需要追加策の役割は急降下する景気を下支えし、需要喚起へ向けて刺激することにある。冷え込んだ需要を財政がすべて穴埋めすることはできない。それを肝に銘じてほしい。
昨秋以来、政府は財政支出規模で12兆円、事業規模で75兆円にのぼる景気対策をまとめた。09年度予算も成立し、当面必要な公共事業は十分に確保できている。すぐに公共事業の息切れを心配する状態にはない。
現実には、対策を検討している官庁の中からさえ「予算をつける先がなかなか見つからない」と嘆く声が出ている。いまは、失職した非正社員の就労・生活支援など、急場の対策に全力を注いだらどうか。規模の大きさを競うような方法は避けるべきだ。
むやみに財政支出を膨らませれば、それだけ次世代の税負担が増える。それが将来の不安を増幅し、いまの消費まで抑え込んでしまう逆効果も考えられる。そもそもバブル崩壊後の「失われた10年」に政府は総額130兆円の景気対策を打ったが経済を立て直すことができず、巨額の借金が残った。財政だけで成長率を高めることはできない。そういう教訓を得たはずだ。
与謝野財務相も「賢い使い方が必要」と強調している。将来世代にとっても本当に必要な政策を選ばねばならない。その点で大切なのは「不安」を取り除く政策ではないか。いざという時の安全網となる雇用や医療、介護、年金など社会保障の充実である。
いずれも長期的な視野に立って制度設計すべきものばかりだ。それを設計し直すには、麻生政権に残された半年の任期では足りなかろう。長期にわたる制度だけに、野党と腹を割って協議していくことも欠かせない。
だとすれば衆院を早期に解散して、こちらの制度づくりは民意に支えられた選挙後の政権にゆだねるべきだ。
4/1 朝日新聞 社説
だがそれにしても、政府・与党内では「100年に1度の経済危機」を大義名分に、一見、経済効果がありそうな策なら「何でもあり」という空気に流れすぎていないか。
検討中のメニューには整備新幹線や高速道路網、空港、港湾の整備、自動車の買い替えや省エネ住宅への助成など、平時なら簡単には認められない巨額の予算項目がずらりと並ぶ。
輸出の激減が内需へも波及して、多くの生産設備や労働力が余っている。その余剰規模は20兆円超という。与党内からは「それを財政支出で穴埋めする」と言わんばかりに、10兆円超の財政支出を求める意見が強い。麻生首相は「赤字国債も辞さない」とそれを容認するような姿勢だ。
しかし、需要追加策の役割は急降下する景気を下支えし、需要喚起へ向けて刺激することにある。冷え込んだ需要を財政がすべて穴埋めすることはできない。それを肝に銘じてほしい。
昨秋以来、政府は財政支出規模で12兆円、事業規模で75兆円にのぼる景気対策をまとめた。09年度予算も成立し、当面必要な公共事業は十分に確保できている。すぐに公共事業の息切れを心配する状態にはない。
現実には、対策を検討している官庁の中からさえ「予算をつける先がなかなか見つからない」と嘆く声が出ている。いまは、失職した非正社員の就労・生活支援など、急場の対策に全力を注いだらどうか。規模の大きさを競うような方法は避けるべきだ。
むやみに財政支出を膨らませれば、それだけ次世代の税負担が増える。それが将来の不安を増幅し、いまの消費まで抑え込んでしまう逆効果も考えられる。そもそもバブル崩壊後の「失われた10年」に政府は総額130兆円の景気対策を打ったが経済を立て直すことができず、巨額の借金が残った。財政だけで成長率を高めることはできない。そういう教訓を得たはずだ。
与謝野財務相も「賢い使い方が必要」と強調している。将来世代にとっても本当に必要な政策を選ばねばならない。その点で大切なのは「不安」を取り除く政策ではないか。いざという時の安全網となる雇用や医療、介護、年金など社会保障の充実である。
いずれも長期的な視野に立って制度設計すべきものばかりだ。それを設計し直すには、麻生政権に残された半年の任期では足りなかろう。長期にわたる制度だけに、野党と腹を割って協議していくことも欠かせない。
だとすれば衆院を早期に解散して、こちらの制度づくりは民意に支えられた選挙後の政権にゆだねるべきだ。
4/1 朝日新聞 社説
内閣人事局 首相は官僚の守護神か
後退と言われても仕方あるまい。公務員の幹部人事の一元化を支える内閣人事局設置などを盛り込んだ国家公務員制度改革関連法案を政府は閣議決定した。焦点の人事局長は麻生太郎首相の主張が通り、官僚トップの事務の官房副長官の兼務に道を開くことで、自民党内に強かった反対論を押し切った。
幹部人事の管理にあたる人事局トップを専任ポストとするか、国会議員と官僚のどちらをあてるかは、改革の性格を左右する。政治的中立へ配慮は必要だが、これでは本来の目的である縦割り行政の打破どころか、官僚の権限強化にすらなり得る。人事局への機能移転も含め、基本部分で調整は二転三転した。理念が見えぬ泥縄法案と言わざるを得ない。
昨年成立した国家公務員制度改革基本法は、中央官庁の幹部人事について官房長官が候補名簿を作ることで各省の人事権を弱め、内閣官房に置く人事局がこれを補佐するよう、定めた。このため局長ポストが注目されたが、首相は官僚をあてる兼任ポストを主張したという。結局、法案は現在3人(国会議員2人、官僚1人)いる官房副長官から首相が局長を指名し兼務させる形となった。国会議員の副長官起用も法律上は可能だが、実際は官僚の副長官の兼務を念頭に置いた決着とみられる。
もちろん、仮に国会議員を人事局長に起用しても、官僚の言うままに動く人物ならば、政治主導など実現しない。それでも官僚勢力は、人事権を持つ政治家ポストの新設に一致して抵抗し、首相はあたかもその守護神となった。仮に官僚の副長官が兼務すれば、各省の政策と人事を調整する強い権限を握る。法制化を監視する有識者会議から「官僚内閣制になりかねない」と批判が出たのも無理はない。最低限、局長には専任スタッフをあてるべきだろう。
人事局への機能移転も、見切り発車だ。人事院が反発していた各省の給与等級に応じて定数を決める権限は結局、反対を無視する形で同院から移管された。国会質疑で政府内の不一致が露呈する可能性もある。
また、さきに決定した工程表では総務省の行政管理局全体を移し内閣人事・行政管理局とする予定だったが、移管部分は限定され、名称も当初の内閣人事局に逆戻りした。肥大化した新組織を設ける必要は無いが、土壇場でここまで揺れ動いたのは、そもそも人事局の役割や位置づけの議論があまりにも生煮えだったためではないか。
与党内にも骨抜きを危ぶむ声が強く、法案の今国会成立はおぼつかない状況だ。民主党も明確な対案を示したうえで、最終的には衆院選で優劣を競い合うべき課題である。
4/1 毎日新聞 社説
幹部人事の管理にあたる人事局トップを専任ポストとするか、国会議員と官僚のどちらをあてるかは、改革の性格を左右する。政治的中立へ配慮は必要だが、これでは本来の目的である縦割り行政の打破どころか、官僚の権限強化にすらなり得る。人事局への機能移転も含め、基本部分で調整は二転三転した。理念が見えぬ泥縄法案と言わざるを得ない。
昨年成立した国家公務員制度改革基本法は、中央官庁の幹部人事について官房長官が候補名簿を作ることで各省の人事権を弱め、内閣官房に置く人事局がこれを補佐するよう、定めた。このため局長ポストが注目されたが、首相は官僚をあてる兼任ポストを主張したという。結局、法案は現在3人(国会議員2人、官僚1人)いる官房副長官から首相が局長を指名し兼務させる形となった。国会議員の副長官起用も法律上は可能だが、実際は官僚の副長官の兼務を念頭に置いた決着とみられる。
もちろん、仮に国会議員を人事局長に起用しても、官僚の言うままに動く人物ならば、政治主導など実現しない。それでも官僚勢力は、人事権を持つ政治家ポストの新設に一致して抵抗し、首相はあたかもその守護神となった。仮に官僚の副長官が兼務すれば、各省の政策と人事を調整する強い権限を握る。法制化を監視する有識者会議から「官僚内閣制になりかねない」と批判が出たのも無理はない。最低限、局長には専任スタッフをあてるべきだろう。
人事局への機能移転も、見切り発車だ。人事院が反発していた各省の給与等級に応じて定数を決める権限は結局、反対を無視する形で同院から移管された。国会質疑で政府内の不一致が露呈する可能性もある。
また、さきに決定した工程表では総務省の行政管理局全体を移し内閣人事・行政管理局とする予定だったが、移管部分は限定され、名称も当初の内閣人事局に逆戻りした。肥大化した新組織を設ける必要は無いが、土壇場でここまで揺れ動いたのは、そもそも人事局の役割や位置づけの議論があまりにも生煮えだったためではないか。
与党内にも骨抜きを危ぶむ声が強く、法案の今国会成立はおぼつかない状況だ。民主党も明確な対案を示したうえで、最終的には衆院選で優劣を競い合うべき課題である。
4/1 毎日新聞 社説
ソマリア沖護衛活動開始【余録】
アフリカ大陸はソマリアの東端アシール岬沖に浮かぶソコトラ島(現イエメン領)には、その昔キリスト教徒の魔術師らが住んでいた。いや「東方見聞録」にマルコ・ポーロがそう書いているのだ。島には多くの海賊が略奪品を売りにやって来たという。
島民は海賊から宝物を喜んで買ったが、海賊が島民に危害を加えようものなら魔術を使い制裁を加えた。魔術は海上の風向きを自由に変え、嵐さえ起こすことができたのだ。ただマルコ・ポーロは魔術の詳しい説明には言葉をにごしている。
ソコトラ島の海賊については14世紀のイスラム世界の旅行家イブン・バットゥータの「大旅行記」もふれている。それによると海賊たちは襲撃の際には激しい戦闘を辞さないが、略奪後は船員や船を傷つけず解放するのが慣例だったという。
そんな歴史をもつ海で今日、ソマリア国内の混乱を背景に活発な動きを見せる海賊だ。海域には日本関係船舶だけで年間2000隻以上が行き交う。その海賊対策に派遣された海上自衛隊の護衛艦2隻による民間船舶の護衛活動が始まった。
自衛隊初の海外治安活動だが、海賊対処法案成立を待たずに現行法の海上警備行動にもとづく活動を求められた現場だ。海賊との遭遇時の際どい判断を強いられる場面もありうる。他国の軍との国際協力にも不安を残すスタートとなった。
それでも対応できるのは日本関係船舶の約3分の1、さらに将来いつまで必要か分からない護衛活動だ。海賊封じ込めの魔術もほしくなるところである。ここは海賊を生み出すソマリアの無政府状態収拾に向けた国際協力に知恵をしぼり、風向きを変える道も探りたい。【余録】
島民は海賊から宝物を喜んで買ったが、海賊が島民に危害を加えようものなら魔術を使い制裁を加えた。魔術は海上の風向きを自由に変え、嵐さえ起こすことができたのだ。ただマルコ・ポーロは魔術の詳しい説明には言葉をにごしている。
ソコトラ島の海賊については14世紀のイスラム世界の旅行家イブン・バットゥータの「大旅行記」もふれている。それによると海賊たちは襲撃の際には激しい戦闘を辞さないが、略奪後は船員や船を傷つけず解放するのが慣例だったという。
そんな歴史をもつ海で今日、ソマリア国内の混乱を背景に活発な動きを見せる海賊だ。海域には日本関係船舶だけで年間2000隻以上が行き交う。その海賊対策に派遣された海上自衛隊の護衛艦2隻による民間船舶の護衛活動が始まった。
自衛隊初の海外治安活動だが、海賊対処法案成立を待たずに現行法の海上警備行動にもとづく活動を求められた現場だ。海賊との遭遇時の際どい判断を強いられる場面もありうる。他国の軍との国際協力にも不安を残すスタートとなった。
それでも対応できるのは日本関係船舶の約3分の1、さらに将来いつまで必要か分からない護衛活動だ。海賊封じ込めの魔術もほしくなるところである。ここは海賊を生み出すソマリアの無政府状態収拾に向けた国際協力に知恵をしぼり、風向きを変える道も探りたい。【余録】
愛煙家と嫌煙家【有明妙】
喫煙への誘惑とあこがれは“背伸び”と“不良性”。大人にしか許されていないもの、社会的に禁止されている事に手を出す反抗のポーズ。思春期にはそれがかっこよく思えてしまうのだ。
そんな人をひきつける“背徳のにおい”がするたばこだが、その健康被害が言われて久しい。しかし、なかなか禁煙できない人たちがいる。「たばこか酒か、どちらか断てとなったら酒にする」とうそぶく愛煙家もいる。それほどたばこをスパッとやめるのは難しいようだが、検視・解剖に立ち会ったことのある県警OBに怖い話を聞いた。
若いときは柔道でならした偉丈夫。自身ヘビースモーカーだったそうだが、今はきっぱり断っている。「たばこを吸っていた人の肺を見たことあるね。すごいよ。あれを見たら誰でもたばこをやめる。真っ黒いタールみたいなものがべったり。顔を背けたくなる」。
喫煙者の肺。禁煙啓発の写真などで見たことがある人もいるかもしれないが、検視のそれは“ナマの迫力”というものだろう。全国で初めて公共施設だけでなく民間施設をも含み屋内喫煙を規制する神奈川県の「公共的施設受動喫煙防止条例」が成立した。
当初の「全面禁煙」から「分煙容認」など内容はかなり後退、日本での喫煙規制の難しさを感じるが、条例制定に並々ならぬ意欲を見せていた松沢成文知事が「後退だが罰則もある」と言うように日本での“アリの一穴”となるかもしれない。
愛煙家と嫌煙家の価値観と人生観。それぞれ言い分があってどちらにくみするものではないが欧米では既に公共的施設での禁煙が主流となっている。自分も含めてみんなの健康を軸に喫煙のあり方を考える時代であることは間違いないようである。【有明妙】
そんな人をひきつける“背徳のにおい”がするたばこだが、その健康被害が言われて久しい。しかし、なかなか禁煙できない人たちがいる。「たばこか酒か、どちらか断てとなったら酒にする」とうそぶく愛煙家もいる。それほどたばこをスパッとやめるのは難しいようだが、検視・解剖に立ち会ったことのある県警OBに怖い話を聞いた。
若いときは柔道でならした偉丈夫。自身ヘビースモーカーだったそうだが、今はきっぱり断っている。「たばこを吸っていた人の肺を見たことあるね。すごいよ。あれを見たら誰でもたばこをやめる。真っ黒いタールみたいなものがべったり。顔を背けたくなる」。
喫煙者の肺。禁煙啓発の写真などで見たことがある人もいるかもしれないが、検視のそれは“ナマの迫力”というものだろう。全国で初めて公共施設だけでなく民間施設をも含み屋内喫煙を規制する神奈川県の「公共的施設受動喫煙防止条例」が成立した。
当初の「全面禁煙」から「分煙容認」など内容はかなり後退、日本での喫煙規制の難しさを感じるが、条例制定に並々ならぬ意欲を見せていた松沢成文知事が「後退だが罰則もある」と言うように日本での“アリの一穴”となるかもしれない。
愛煙家と嫌煙家の価値観と人生観。それぞれ言い分があってどちらにくみするものではないが欧米では既に公共的施設での禁煙が主流となっている。自分も含めてみんなの健康を軸に喫煙のあり方を考える時代であることは間違いないようである。【有明妙】
いい面を考えてみる【中日春秋】
不幸にも、一万円落とした。だが、あえて五万円落としたと思うことにし、逆に、浮いた(もちろん、実際は浮いていない!)四万円をどう使おうか考える。
「これが、落語の(登場人物の)基本的な考え方」と、立川志(し)の輔(すけ)さんがテレビで話していた。現実にはそこまでの前向き思考は難しいが、ここは一つそれにならい、小沢民主党代表の秘書が政治資金処理をめぐって起訴された一件の、いい面を考えてみる。
第一に政治とカネの問題にあらためて光を当ててくれた。抜け道だらけの政治資金規正法などスクラップし、いいかげん政治家に「李下(りか)の冠、瓜田(かでん)の履(くつ)」で、すっぱり企業献金と手を切らせるチャンスである。
実際、個人献金だけで活動している議員もいる。小沢さん本人が「企業も団体も全面禁止」を口にしたぐらいだから、民主党は相当な規制案を作るはず。自民党も無視できず、結果、実のある規制がなれば結構な話だ。
秘書の起訴後も、小沢さんは代表続投を宣言、党も認めた。が、世論調査では「辞任すべし」が大勢で、千葉県知事選では推薦候補が惨敗…。それでも現体制で進むのか、はたまた効果的に党首交代カードを切ってみせるのか。
政治資金の規制も含めて、民主党がこの窮地をどう乗り切るか見ものだ。あの事件は、政権を狙うこの党の実力を見極める絶好の機会も与えてくれたのである。【中日春秋】
「これが、落語の(登場人物の)基本的な考え方」と、立川志(し)の輔(すけ)さんがテレビで話していた。現実にはそこまでの前向き思考は難しいが、ここは一つそれにならい、小沢民主党代表の秘書が政治資金処理をめぐって起訴された一件の、いい面を考えてみる。
第一に政治とカネの問題にあらためて光を当ててくれた。抜け道だらけの政治資金規正法などスクラップし、いいかげん政治家に「李下(りか)の冠、瓜田(かでん)の履(くつ)」で、すっぱり企業献金と手を切らせるチャンスである。
実際、個人献金だけで活動している議員もいる。小沢さん本人が「企業も団体も全面禁止」を口にしたぐらいだから、民主党は相当な規制案を作るはず。自民党も無視できず、結果、実のある規制がなれば結構な話だ。
秘書の起訴後も、小沢さんは代表続投を宣言、党も認めた。が、世論調査では「辞任すべし」が大勢で、千葉県知事選では推薦候補が惨敗…。それでも現体制で進むのか、はたまた効果的に党首交代カードを切ってみせるのか。
政治資金の規制も含めて、民主党がこの窮地をどう乗り切るか見ものだ。あの事件は、政権を狙うこの党の実力を見極める絶好の機会も与えてくれたのである。【中日春秋】
主役ふたり「おまえがた」【編集手帳】
にわか雨に降られ、軒先を借りて雨宿りをする。もう小降りになるか、そろそろやむかと思っているうちに雨脚が強まり、往生した経験は誰にもあろう。〈本降りになって出ていく雨宿り〉の江戸川柳そのままに、土砂降りのなかを駆け出すこともないではない。
民主党の小沢一郎代表もいま、雨宿りをしている。違法献金事件で公設第1秘書が起訴されても代表職にとどまったのは、世論の降らす批判の雨が小降りになるのを待っているのだろう。
千葉県知事選挙の結果を見ると雨勢は増している。降り始めのころに辞任していれば…と悔いる日がくるかも知れない。
自民党は自民党で、事件がわが身に及ぶことに怯(おび)えて空模様をうかがう。時とともに支持率が上向くとみて麻生首相が解散・総選挙を先に延ばしているのならば、こちらもずぶぬれで駆け出す危険と隣り合わせである。
〈おまえがた本降りだよと邪魔(じゃま)がられ〉という句もある。「本降りだからあきらめて濡(ぬ)れて行きな」と、軒先を追われる人を詠んでいる。与野党の主役ふたり「おまえがた」の、いずれが先に世論から邪魔がられるのかは知らない。【編集手帳】
民主党の小沢一郎代表もいま、雨宿りをしている。違法献金事件で公設第1秘書が起訴されても代表職にとどまったのは、世論の降らす批判の雨が小降りになるのを待っているのだろう。
千葉県知事選挙の結果を見ると雨勢は増している。降り始めのころに辞任していれば…と悔いる日がくるかも知れない。
自民党は自民党で、事件がわが身に及ぶことに怯(おび)えて空模様をうかがう。時とともに支持率が上向くとみて麻生首相が解散・総選挙を先に延ばしているのならば、こちらもずぶぬれで駆け出す危険と隣り合わせである。
〈おまえがた本降りだよと邪魔(じゃま)がられ〉という句もある。「本降りだからあきらめて濡(ぬ)れて行きな」と、軒先を追われる人を詠んでいる。与野党の主役ふたり「おまえがた」の、いずれが先に世論から邪魔がられるのかは知らない。【編集手帳】
旅立ちにまつわる3月の言葉から【天声人語】
近所の庭にコブシの白い花が咲いていた。兄貴分のモクレンに比べて色も姿も素朴で、清楚(せいそ)なたたずまいだ。農作業のスタートを促す花として田打ち桜の異称がある。旅立ちにまつわる3月の言葉から。
不景気のあおりで内定が消えた弘前大の女子学生(22)が、卒業式の前日、青森県八戸市の広告会社に就職を決めた。「これまで、卒業後はどうするのと聞かれるのがつらかった。次の目標が定まり、二重にうれしい」。
アカデミー賞に輝いた映画「おくりびと」で演技指導をした札幌市の納棺協会。同社の堀江満さん(39)は「故人を送るためのお手伝いをする黒衣ですが、そうした送り方があるのを知ってもらえるのは幸いです」。
「今ごっつい視聴率だろうなとか、余計なことを考えた。そういう時には結果は出ないものだが、出ましたからね。一つ壁を越えた気がします」。WBC2連覇の決勝打を語るイチロー選手。いつもの禅問答とは別人。どちらも悪くない。
九州と東京を結ぶブルートレイン「富士」「はやぶさ」が廃止に。九州鉄道記念館の宇都宮照信さん(59)は「人生の大事な場面で上京する時に乗った人も多い。時代の流れだが寂しい」。
「悪い時期にこうなったが、日本を恨む気持ちはないです。景気が良くなったら戻りたい」。父親が派遣切りに遭った群馬県太田市の日系ブラジル人、イタロ・オリベイラ君(15)。中学の卒業式を終え、一家5人で母国へ帰る。
おめでとう、ありがとう、がんばれが重なる春。〈ただならぬ世に待たれ居て卒業す〉竹下しづの女(じょ)。【天声人語】
不景気のあおりで内定が消えた弘前大の女子学生(22)が、卒業式の前日、青森県八戸市の広告会社に就職を決めた。「これまで、卒業後はどうするのと聞かれるのがつらかった。次の目標が定まり、二重にうれしい」。
アカデミー賞に輝いた映画「おくりびと」で演技指導をした札幌市の納棺協会。同社の堀江満さん(39)は「故人を送るためのお手伝いをする黒衣ですが、そうした送り方があるのを知ってもらえるのは幸いです」。
「今ごっつい視聴率だろうなとか、余計なことを考えた。そういう時には結果は出ないものだが、出ましたからね。一つ壁を越えた気がします」。WBC2連覇の決勝打を語るイチロー選手。いつもの禅問答とは別人。どちらも悪くない。
九州と東京を結ぶブルートレイン「富士」「はやぶさ」が廃止に。九州鉄道記念館の宇都宮照信さん(59)は「人生の大事な場面で上京する時に乗った人も多い。時代の流れだが寂しい」。
「悪い時期にこうなったが、日本を恨む気持ちはないです。景気が良くなったら戻りたい」。父親が派遣切りに遭った群馬県太田市の日系ブラジル人、イタロ・オリベイラ君(15)。中学の卒業式を終え、一家5人で母国へ帰る。
おめでとう、ありがとう、がんばれが重なる春。〈ただならぬ世に待たれ居て卒業す〉竹下しづの女(じょ)。【天声人語】
タレント知事の時代?【余録】
俳優出身のレーガン米大統領は、選挙のテレビ討論のあと「あがったか?」と聞かれると答えた。「あがるわけない。ぼくは、ジョン・ウェインと同じステージに立ったこともあるんだ」。彼はウェインを偶像視していた。
だから大統領になって難問に直面した時も自問したという。「こんな時、デューク(ウェイン)ならどうするか?」。レーガン氏は「もしも私が俳優でなかったら、大統領としてうまくやれるかどうか分からない」とも語っていた(C・オブライエン著「大統領たちの通信簿」)。
平明な語り口や、庶民的な人柄でグレートコミュニケーター(偉大な話し手)と呼ばれたレーガン大統領だ。業績への評価は分かれても、「米国大統領」を見事に演じ切ったことにあまり異論はない。俳優レーガンの最高傑作というわけだ。
では青春ドラマの主演俳優として一世を風靡(ふうび)し、59歳の今も「青春の巨匠」を自称する森田健作氏は、どんな千葉県知事を演じてみせるのだろう。もっぱら「森田はやります」を連呼するイメージ選挙により、政策公約を掲げる野党推薦候補を圧倒しての県知事選勝利であった。
東国原英夫宮崎県知事と橋下徹大阪府知事というテレビ出演の常連だった2人の知事が、県・府民の強い支持を背景に発言力を示す昨今だ。千葉県民の中にも、メディアの注目を浴びるタレント知事の「熱血」「元気」に地域活性化の願いを託す向きが少なくなかったようである。
タレント知事の相次ぐ誕生には、政治や行政を国民の常識と言葉で語るコミュニケーターへの有権者の希求も潜んでいよう。むろん日本政治では最も演じられる者の少ない役柄である。【余録】
だから大統領になって難問に直面した時も自問したという。「こんな時、デューク(ウェイン)ならどうするか?」。レーガン氏は「もしも私が俳優でなかったら、大統領としてうまくやれるかどうか分からない」とも語っていた(C・オブライエン著「大統領たちの通信簿」)。
平明な語り口や、庶民的な人柄でグレートコミュニケーター(偉大な話し手)と呼ばれたレーガン大統領だ。業績への評価は分かれても、「米国大統領」を見事に演じ切ったことにあまり異論はない。俳優レーガンの最高傑作というわけだ。
では青春ドラマの主演俳優として一世を風靡(ふうび)し、59歳の今も「青春の巨匠」を自称する森田健作氏は、どんな千葉県知事を演じてみせるのだろう。もっぱら「森田はやります」を連呼するイメージ選挙により、政策公約を掲げる野党推薦候補を圧倒しての県知事選勝利であった。
東国原英夫宮崎県知事と橋下徹大阪府知事というテレビ出演の常連だった2人の知事が、県・府民の強い支持を背景に発言力を示す昨今だ。千葉県民の中にも、メディアの注目を浴びるタレント知事の「熱血」「元気」に地域活性化の願いを託す向きが少なくなかったようである。
タレント知事の相次ぐ誕生には、政治や行政を国民の常識と言葉で語るコミュニケーターへの有権者の希求も潜んでいよう。むろん日本政治では最も演じられる者の少ない役柄である。【余録】
早寝・早起き・朝ごはん【有明妙】
「私はまじめに元気にしています。昔と今の私、ずいぶん変わったと思います。性格も言葉遣いも洋服の趣味も変わりました。たばこもやめられました。こんなにも自分が変われるものかと驚くほどです」。
犯罪、非行に手を染め家庭裁判所から保護処分を受け、福岡にある矯正施設「筑紫少女苑」を仮退院した少女から届いた手紙である。親や教師に反抗し、非行の限りをつくした少女は「少女苑」に入所した翌日から毎朝6時半に起床。苦痛でしかたなかった。
でも、ここではそれに従うしかない。今までのように寝たいだけ寝て、起きたいときに起き、食べたいときに食べるといったことは許されない。朝起きて、洗たく、掃除、朝食、後片付け、朝礼…。毎日、同じことの繰り返し。しかし、その規則正しい生活が少女の性格も、言葉遣いも、洋服の趣味さえも変えたのだ。
誰が見てもまゆをひそめてしまうような服装。自由気ままの荒れた生活をしていたころは、それがまったくおかしいとは思わなかったからそうしていたのだが、規則正しい生活の中で、いつしか洋服の趣味も変わっていった鷏というのである。
今、推奨される「早寝・早起き・朝ごはん」。この手紙を読みながら「たかが早寝、早起き、朝ごはんではないのだ」と思った。けじめのない生活は知らず知らずのうちに体も心も壊していく。朝いつまで寝ててもいい、朝ごはんを食べようが食べまいが、自由気ままの方が誰でもいいに決まっている。
しかし、社会的動物といわれる人間が社会に共存できる人間になるためには、自由とか個性とか言う前に不自由なことを受け入れなくてはならないこともあるようだ。やはり「早寝・早起き・朝ごはん」なのである。【有明妙】
犯罪、非行に手を染め家庭裁判所から保護処分を受け、福岡にある矯正施設「筑紫少女苑」を仮退院した少女から届いた手紙である。親や教師に反抗し、非行の限りをつくした少女は「少女苑」に入所した翌日から毎朝6時半に起床。苦痛でしかたなかった。
でも、ここではそれに従うしかない。今までのように寝たいだけ寝て、起きたいときに起き、食べたいときに食べるといったことは許されない。朝起きて、洗たく、掃除、朝食、後片付け、朝礼…。毎日、同じことの繰り返し。しかし、その規則正しい生活が少女の性格も、言葉遣いも、洋服の趣味さえも変えたのだ。
誰が見てもまゆをひそめてしまうような服装。自由気ままの荒れた生活をしていたころは、それがまったくおかしいとは思わなかったからそうしていたのだが、規則正しい生活の中で、いつしか洋服の趣味も変わっていった鷏というのである。
今、推奨される「早寝・早起き・朝ごはん」。この手紙を読みながら「たかが早寝、早起き、朝ごはんではないのだ」と思った。けじめのない生活は知らず知らずのうちに体も心も壊していく。朝いつまで寝ててもいい、朝ごはんを食べようが食べまいが、自由気ままの方が誰でもいいに決まっている。
しかし、社会的動物といわれる人間が社会に共存できる人間になるためには、自由とか個性とか言う前に不自由なことを受け入れなくてはならないこともあるようだ。やはり「早寝・早起き・朝ごはん」なのである。【有明妙】
時刻表はフィクションの傑作【春秋】
旧ソ連時代につくられたアネクドート(社会風刺の小話)のひとつに、こういうのがあったそうだ。モスクワの書店で客が店員に聞く。「きみきみ、国鉄の時刻表を探しているんだが」「ああ、それならフィクションの棚にありますよ」
ダイヤなど乱れっぱなしの鉄道事情をチクリとやっていて笑えるが、それに比べたらわがニッポンの時刻表は徹底したリアリズムの産物だろう。狭い島国の上の緻(ち)密(みつ)な列車運行を、これまた愚直に映した毎月毎月の作品である。今は2種類出ていて、そのうち「JTB時刻表」が5月号で通巻1000号にたどり着く。
創刊は大正末年。戦争中には年5回の発行に追い込まれたこともあったという。戦後は豪華寝台特急の登場や新幹線開通に足並みを合わせてどんどん分厚くなった。片や赤字で姿を消した路線も少なくないから巻頭の地図は昔よりも白っぽい。このずしりと重い1100ページは、鉄道史の光も影もまとい続けている。
昨今の鉄道ブームで部数が伸びているかと思いきや、インターネットにも押されて約15万部と最盛期の10分の1ほどらしい。とはいえ何気なく繰ってみれば、ぎっしり詰まった数字たちが旅への思いをかき立ててくれる。欄外の駅弁案内も味わい深いのだ。時刻表はやっぱり、フィクションの傑作かもしれない。【春秋】
ダイヤなど乱れっぱなしの鉄道事情をチクリとやっていて笑えるが、それに比べたらわがニッポンの時刻表は徹底したリアリズムの産物だろう。狭い島国の上の緻(ち)密(みつ)な列車運行を、これまた愚直に映した毎月毎月の作品である。今は2種類出ていて、そのうち「JTB時刻表」が5月号で通巻1000号にたどり着く。
創刊は大正末年。戦争中には年5回の発行に追い込まれたこともあったという。戦後は豪華寝台特急の登場や新幹線開通に足並みを合わせてどんどん分厚くなった。片や赤字で姿を消した路線も少なくないから巻頭の地図は昔よりも白っぽい。このずしりと重い1100ページは、鉄道史の光も影もまとい続けている。
昨今の鉄道ブームで部数が伸びているかと思いきや、インターネットにも押されて約15万部と最盛期の10分の1ほどらしい。とはいえ何気なく繰ってみれば、ぎっしり詰まった数字たちが旅への思いをかき立ててくれる。欄外の駅弁案内も味わい深いのだ。時刻表はやっぱり、フィクションの傑作かもしれない。【春秋】
モノポリー【余録】
1929年の世界恐慌で失業した米国人が世紀をまたぐ遊びを生んだ、とされる。エンジニアだったチャールズ・ダロウはテーブルクロスにかつて休暇を楽しんだ海辺のリゾート地を描き夢見た。ボードゲーム「モノポリー」の誕生物語である。
いまや103カ国で約2億5000万セットも出回っているという。さいころを振って駒を進め独占(モノポリー)を目指す不動産取引ゲームだ。再び未曽有の不況下の昨年暮れ、その大阪版が登場した。升目には大阪城や通天閣をはじめエアコンのダイキン工業や江崎グリコ、独自の技術を誇る中小企業が並ぶ。駒は豊臣秀吉ゆかりの千なりびょうたん。
ゲームとはいえ事業規模に関係なく面白さで値段がつけられる。「大阪を元気にしたい」。企業イメージや商標権へのこだわりを超えて地元企業が共有した心意気が人気を呼び、海外からも引き合いがあるという。
現実の公示地価は3年ぶりに軒並み下がった。ただ前年より地価が上昇したのが、すべて地方の街だ。どこの駅前も同じ光景ではつまらない。住みたい、訪れたい街づくりの知恵と工夫が地価に反映したと思えば、やる気も出よう。
北海道伊達市は団塊世代の移住者を呼び込んだ。鳥取県境港市は「ゲゲゲの鬼太郎」に代表される地元出身の漫画家、水木しげるさんの作品を紹介する記念館を開くなど妖怪ワールドによる街おこしで、下落に歯止めをかけた。
東京一極集中のモノポリーでは何とも寂しい。自分の居場所こそ、ふるさとだろう。昨年の春たけなわのころ本紙「季節のたより」に載った句に心が和む。<あんぱんを出す喫茶店町うらら 近藤千雅>【余録】
いまや103カ国で約2億5000万セットも出回っているという。さいころを振って駒を進め独占(モノポリー)を目指す不動産取引ゲームだ。再び未曽有の不況下の昨年暮れ、その大阪版が登場した。升目には大阪城や通天閣をはじめエアコンのダイキン工業や江崎グリコ、独自の技術を誇る中小企業が並ぶ。駒は豊臣秀吉ゆかりの千なりびょうたん。
ゲームとはいえ事業規模に関係なく面白さで値段がつけられる。「大阪を元気にしたい」。企業イメージや商標権へのこだわりを超えて地元企業が共有した心意気が人気を呼び、海外からも引き合いがあるという。
現実の公示地価は3年ぶりに軒並み下がった。ただ前年より地価が上昇したのが、すべて地方の街だ。どこの駅前も同じ光景ではつまらない。住みたい、訪れたい街づくりの知恵と工夫が地価に反映したと思えば、やる気も出よう。
北海道伊達市は団塊世代の移住者を呼び込んだ。鳥取県境港市は「ゲゲゲの鬼太郎」に代表される地元出身の漫画家、水木しげるさんの作品を紹介する記念館を開くなど妖怪ワールドによる街おこしで、下落に歯止めをかけた。
東京一極集中のモノポリーでは何とも寂しい。自分の居場所こそ、ふるさとだろう。昨年の春たけなわのころ本紙「季節のたより」に載った句に心が和む。<あんぱんを出す喫茶店町うらら 近藤千雅>【余録】
ハイテク植物工場【編集手帳】
食べ物の旬は、季節を先取りする「走り」や、よく出回る「出盛り期」を指す。春を迎えた今ごろは、新タケノコに続いて初鰹(はつがつお)がまもなくだ。旬の味を楽しみにしている方は多いだろう。
対照的なのが「一年中が旬」である。天候に左右されず、季節にも関係ない。太陽光のほか、蛍光灯や発光ダイオード(LED)などを使って、湿度や温度、養分をコンピューターで制御する。計画生産の可能な“ハイテク植物工場”が増えている。
カゴメは、契約菜園を含めた全国30か所のガラスハウスで、年1万トンを超える量のトマトを生産し、生食用に出荷する。「エコ作」というブランドで販売されているのはJFEライフのレタスやサラダ菜だ。
南極の昭和基地では、ベンチャー企業製のプラントで越冬隊員が南極産の新鮮なレタスを味わった。政府はこうした工場を「農商工連携」の有望株と考え、普及に弾みをつけようと狙う。
日本の農業は生産性が低いといわれるが、ハイテク工場では20期作以上ができる緑野菜も夢ではない。薄れゆく旬は少々さみしくもあるが、旬を感じさせない農業がこれからの旬らしい。【編集手帳】
対照的なのが「一年中が旬」である。天候に左右されず、季節にも関係ない。太陽光のほか、蛍光灯や発光ダイオード(LED)などを使って、湿度や温度、養分をコンピューターで制御する。計画生産の可能な“ハイテク植物工場”が増えている。
カゴメは、契約菜園を含めた全国30か所のガラスハウスで、年1万トンを超える量のトマトを生産し、生食用に出荷する。「エコ作」というブランドで販売されているのはJFEライフのレタスやサラダ菜だ。
南極の昭和基地では、ベンチャー企業製のプラントで越冬隊員が南極産の新鮮なレタスを味わった。政府はこうした工場を「農商工連携」の有望株と考え、普及に弾みをつけようと狙う。
日本の農業は生産性が低いといわれるが、ハイテク工場では20期作以上ができる緑野菜も夢ではない。薄れゆく旬は少々さみしくもあるが、旬を感じさせない農業がこれからの旬らしい。【編集手帳】
身の納まり【天声人語】
随筆家の幸田文が「身の納まり」ということについて書いている。出入りの畳職人があるとき、腕は良くても老後に身の納まりがつかない者は良い職人とはいえない、と口にしたそうだ。
「若い者に、自分の安らかな余生を示して安心を与え、良い技術を受け継いでもらわなくてはいけない」と。つまり寒々しい老後を見せれば、若い者はこの仕事を続けていいものか不安になる。それでは失格、というわけだ。見事な人生哲学だが、難しいからこその自戒だったのかも知れない。
その随筆から半世紀がたち、身の納まりは一層つけづらくなってきたようだ。群馬県の高齢者向け住宅で先日起きた火災にも、その感が強い。行き場のない高齢者の受け皿に、無届けのずさんな施設が使われていた。
最期が無残な焼死では、安らかな余生からは程遠い。「終(つい)のすみか」の、質量ともどもの不足が生んだ悲劇である。これでは後に続く世代に不安ばかりが募る。畳職人にならって言うなら、こんな国は失格、ということになる。
「老いて暖まりたい者は、若いうちに暖炉を作っておけ」と西洋の諺(ことわざ)に言う。承知はしていても予定通りに運ばないのが人生だ。年金という公的暖炉も先々の炎は心もとない。家族や地域はゆらいで久しい。手元不如意、シングル、病……誰もが「事情」を抱えながら老境の戸をたたく。
望むのは贅沢(ぜいたく)ではなく「尊厳ある老後」である。翻訳すれば「身の納まり」という、つつましい言葉にほかならない。それに応えるきめ細かい助けの網が、この社会にほしい。【天声人語】
「若い者に、自分の安らかな余生を示して安心を与え、良い技術を受け継いでもらわなくてはいけない」と。つまり寒々しい老後を見せれば、若い者はこの仕事を続けていいものか不安になる。それでは失格、というわけだ。見事な人生哲学だが、難しいからこその自戒だったのかも知れない。
その随筆から半世紀がたち、身の納まりは一層つけづらくなってきたようだ。群馬県の高齢者向け住宅で先日起きた火災にも、その感が強い。行き場のない高齢者の受け皿に、無届けのずさんな施設が使われていた。
最期が無残な焼死では、安らかな余生からは程遠い。「終(つい)のすみか」の、質量ともどもの不足が生んだ悲劇である。これでは後に続く世代に不安ばかりが募る。畳職人にならって言うなら、こんな国は失格、ということになる。
「老いて暖まりたい者は、若いうちに暖炉を作っておけ」と西洋の諺(ことわざ)に言う。承知はしていても予定通りに運ばないのが人生だ。年金という公的暖炉も先々の炎は心もとない。家族や地域はゆらいで久しい。手元不如意、シングル、病……誰もが「事情」を抱えながら老境の戸をたたく。
望むのは贅沢(ぜいたく)ではなく「尊厳ある老後」である。翻訳すれば「身の納まり」という、つつましい言葉にほかならない。それに応えるきめ細かい助けの網が、この社会にほしい。【天声人語】
君主論【有明妙】
「君主は愛されるのと恐れられるのとどちらがよいか」。ルネサンス期にイタリア・フィレンツェで活躍した政治学者マキアヴェリは『君主論』で「恐れられる方がはるかに安全だ」と説いた。理由は、人間はよこしまだから愛情はすぐに消えるが、恐れは人をつなぎ留めると。
郵政選挙の時、民営化に反対した議員を自民党から除名し、刺客まで差し向けた小泉純一郎元首相は、さしずめマキアヴェリ流だ。あれだけ非情なことをやったのに「首相にしたい人」のアンケートでは、今でも上位に登場するから、恐れの効果は絶大だ。
民主党の小沢一郎代表もマキアヴェリ流に近い。3日の秘書の逮捕以降、「この種の問題で起訴はなかった」と検察批判を繰り返し、自らの正当性を訴えてきた。秘書が起訴されても続投を決めた。民主党の参院議員総会と代議士会で、一部の議員から異論は出たが、続投が了承された。
しかし、政治資金規正法違反はそんなに軽いものなのか。県選出の坂井隆憲元衆院議員は巨額の企業献金を収支報告書に記載しなかった結果、逮捕された。国会議員の年収は約2400万円。さらに政党交付金として国民の税金が300億円以上使われている。なぜそんなに金が必要なのか。
西松建設の違法献金をめぐる疑惑は、小沢氏だけでなく自民党の二階俊博経済産業相にも飛び火した。検察にはとことんやってほしいし、民主党も自民党も「政治とカネ」の問題に真剣に向き合ってほしい。
共同通信の世論調査では「小沢代表の説明に納得できない」人は80%近かった。マキアヴェリは「君主はつねに民衆を味方に付けなければならない」とも言っている。政権交代を望むなら、なおさら民心を忘れないでもらいたい。【有明妙】
郵政選挙の時、民営化に反対した議員を自民党から除名し、刺客まで差し向けた小泉純一郎元首相は、さしずめマキアヴェリ流だ。あれだけ非情なことをやったのに「首相にしたい人」のアンケートでは、今でも上位に登場するから、恐れの効果は絶大だ。
民主党の小沢一郎代表もマキアヴェリ流に近い。3日の秘書の逮捕以降、「この種の問題で起訴はなかった」と検察批判を繰り返し、自らの正当性を訴えてきた。秘書が起訴されても続投を決めた。民主党の参院議員総会と代議士会で、一部の議員から異論は出たが、続投が了承された。
しかし、政治資金規正法違反はそんなに軽いものなのか。県選出の坂井隆憲元衆院議員は巨額の企業献金を収支報告書に記載しなかった結果、逮捕された。国会議員の年収は約2400万円。さらに政党交付金として国民の税金が300億円以上使われている。なぜそんなに金が必要なのか。
西松建設の違法献金をめぐる疑惑は、小沢氏だけでなく自民党の二階俊博経済産業相にも飛び火した。検察にはとことんやってほしいし、民主党も自民党も「政治とカネ」の問題に真剣に向き合ってほしい。
共同通信の世論調査では「小沢代表の説明に納得できない」人は80%近かった。マキアヴェリは「君主はつねに民衆を味方に付けなければならない」とも言っている。政権交代を望むなら、なおさら民心を忘れないでもらいたい。【有明妙】
逃げる官僚【中日春秋】
「ヤクニン」という日本語は幕末に「ローニン」とともに国際語だったと、司馬遼太郎さんの小説『世に棲(す)む日日』にある。「役人」のことで特質は<極度に事なかれ>云々(うんぬん)とある。
今は「カンリョウ」と言い方を変えても、特質はさほど変わっていないらしい。最たる出来事の一つが、秘書課長という農林水産省のエリート官僚による「ヤミ専従」の実態隠ぺい工作。事なかれで日日を過ごすためには、手段を選ばずである。
問題が表面化したとき、一番やってはいけないのは、ウソをついて隠したり、ごまかしたりする行為。食の安全をめぐる事件などで、もう嫌というほど学んできたはず。怒りよりも情けなさが先立つ。
官房副長官として、七人もの首相に仕えた官僚OBの石原信雄さんは十一年前の著書『官かくあるべし』で、難しくて面倒な問題から「逃げる官僚」が目につくと指摘。原因を<役人としての骨が通っていないから>と一刀両断している。
<国と国民のためになるのだ>という使命感や正義感、倫理観がないことを意味しており「使命感・倫理観喪失症候群」とも名付けている。推測するに症状が重いほど、身内の利益を最優先する組織の論理に通じていくのだろう。
妙薬はないのか。官僚を志した若き日日を思い起こす時間があれば、恐らく刺激にはなる。このままでは自分自身に恥ずかしい、と。【中日春秋】
今は「カンリョウ」と言い方を変えても、特質はさほど変わっていないらしい。最たる出来事の一つが、秘書課長という農林水産省のエリート官僚による「ヤミ専従」の実態隠ぺい工作。事なかれで日日を過ごすためには、手段を選ばずである。
問題が表面化したとき、一番やってはいけないのは、ウソをついて隠したり、ごまかしたりする行為。食の安全をめぐる事件などで、もう嫌というほど学んできたはず。怒りよりも情けなさが先立つ。
官房副長官として、七人もの首相に仕えた官僚OBの石原信雄さんは十一年前の著書『官かくあるべし』で、難しくて面倒な問題から「逃げる官僚」が目につくと指摘。原因を<役人としての骨が通っていないから>と一刀両断している。
<国と国民のためになるのだ>という使命感や正義感、倫理観がないことを意味しており「使命感・倫理観喪失症候群」とも名付けている。推測するに症状が重いほど、身内の利益を最優先する組織の論理に通じていくのだろう。
妙薬はないのか。官僚を志した若き日日を思い起こす時間があれば、恐らく刺激にはなる。このままでは自分自身に恥ずかしい、と。【中日春秋】
地方分権工程表 首相には荷が重かった
やはり政権の力不足ということだろう。政府は地方分権改革のスケジュールである工程表を決定した。焦点だった国の出先機関の見直しについて、さきに地方分権改革推進委員会が勧告した3万5000人を削減するとの数値目標や、各省出先の統廃合構想はいずれも明記しなかった。
衆院選を控え麻生政権内では、分権改革を阻もうとする中央省庁やこれを後押しする族議員らの圧力が強まっている。麻生太郎首相の熱意も見えない中、出先機関の改革は現内閣に荷が重いと言わざるを得ない。国が自治体を縛るさまざまな基準の撤廃や、公共事業の地方負担金の見直しなど自治体の後押しも得られる分野で成果をあげ、改革の失速を回避すべきである。
政府の分権委が昨年12月にまとめた勧告では、丹羽宇一郎委員長が主導する形で国の出先職員21万人のうち、3万5000人の削減方針を明記した。さらに、国土交通省地方整備局、農水省地方農政局などを地域ブロックごとの「地方振興局」などに再編する構想も示した。ところが工程表では勧告の「方向性に沿った」検討との表現にとどめ、具体像は年内にまとめる改革大綱に先送りした。
確かに「3万5000人」の内訳にはなお精査が必要な面もある。しかし、客観指標がないと、見直しはいよいよ尻すぼみになる。分権委から強い不満が噴出したことも無理はない。国道、1級河川の地方移管でどの程度人員の削減や地方への移管を目指すかは最低限、示すべきだ。
一方で、各省の出先を地域ブロックごとに統合する構想は、再検討してはどうか。人員をよほどスリム化しないと分権の流れに反する巨大な国の拠点を地方に新設しかねない。自治体からも懸念が示されている。
分権委は今後、税・財政見直しを含めた勧告の提出も予定している。だが、出先機関の見直しと同様、衆院選を控えた政権にどこまで抜本改革が遂行できるか、こころもとない。こうした課題は、民意の信任を得た本格政権に委ねるべきではないか。
中央で分権改革への慎重論が強まる中だけに、地方が後押しする分野で着実に成果をあげることが必要だ。たとえば保育所の設置基準など中央省庁が自治体をさまざまな基準で縛る「義務づけ、枠づけ」の撤廃を地方は切望している。橋下徹大阪府知事が火をつけた国の直轄事業など公共事業に対する自治体の負担金の見直しも、国、地方の協議が近く本格化する。
政府・与党には、さきの「三位一体改革」による地方交付税削減などを引き合いに分権改革自体があたかも景気対策に逆行するかのような議論すら出ているが、論外だ。むしろ地方の自主性を高めることが、地域再生への生命線なのだ。
3/29 毎日新聞 社説
衆院選を控え麻生政権内では、分権改革を阻もうとする中央省庁やこれを後押しする族議員らの圧力が強まっている。麻生太郎首相の熱意も見えない中、出先機関の改革は現内閣に荷が重いと言わざるを得ない。国が自治体を縛るさまざまな基準の撤廃や、公共事業の地方負担金の見直しなど自治体の後押しも得られる分野で成果をあげ、改革の失速を回避すべきである。
政府の分権委が昨年12月にまとめた勧告では、丹羽宇一郎委員長が主導する形で国の出先職員21万人のうち、3万5000人の削減方針を明記した。さらに、国土交通省地方整備局、農水省地方農政局などを地域ブロックごとの「地方振興局」などに再編する構想も示した。ところが工程表では勧告の「方向性に沿った」検討との表現にとどめ、具体像は年内にまとめる改革大綱に先送りした。
確かに「3万5000人」の内訳にはなお精査が必要な面もある。しかし、客観指標がないと、見直しはいよいよ尻すぼみになる。分権委から強い不満が噴出したことも無理はない。国道、1級河川の地方移管でどの程度人員の削減や地方への移管を目指すかは最低限、示すべきだ。
一方で、各省の出先を地域ブロックごとに統合する構想は、再検討してはどうか。人員をよほどスリム化しないと分権の流れに反する巨大な国の拠点を地方に新設しかねない。自治体からも懸念が示されている。
分権委は今後、税・財政見直しを含めた勧告の提出も予定している。だが、出先機関の見直しと同様、衆院選を控えた政権にどこまで抜本改革が遂行できるか、こころもとない。こうした課題は、民意の信任を得た本格政権に委ねるべきではないか。
中央で分権改革への慎重論が強まる中だけに、地方が後押しする分野で着実に成果をあげることが必要だ。たとえば保育所の設置基準など中央省庁が自治体をさまざまな基準で縛る「義務づけ、枠づけ」の撤廃を地方は切望している。橋下徹大阪府知事が火をつけた国の直轄事業など公共事業に対する自治体の負担金の見直しも、国、地方の協議が近く本格化する。
政府・与党には、さきの「三位一体改革」による地方交付税削減などを引き合いに分権改革自体があたかも景気対策に逆行するかのような議論すら出ているが、論外だ。むしろ地方の自主性を高めることが、地域再生への生命線なのだ。
3/29 毎日新聞 社説
春耕の季節【天声人語】
「耕す」という言い方は「田返す」から変じたらしい。作物を植え付ける前に田畑の土を鋤(す)き返して軟らかくほぐす。春耕(しゅんこう)の季節、先日の朝日俳壇に〈耕して光る大地となりにけり〉の入選作があった。
借りて2年目のわが市民農園も、今がその時期だ。鍬(くわ)を振るって石灰をまき、何日かおいて堆肥(たいひ)を鋤き込む。雨が土を黒く潤し、雲が切れて日が差せば、5坪ほどの猫の額も艶(つや)めいて「光る大地」の風格を見せる。育てる野菜を何にするか、思い巡らすときでもある。
〈畑はいつもきれいな色と よい風の吹いてゐる四季の卓子(たくし)である〉と書いたのは詩人の佐藤惣之助だった。卓子とはテーブル。その詩「畑」は、〈新らしい耕作の力は 光と熱で出来た風車のやうに もろもろの種子から花と葉をとりいだし……〉と続く。
そういえば、〈ものの種にぎればいのちひしめける〉という日野草城の名句もある。小さな種に満ちている命を、素人ながらに自然との共同作業で取り出(いだ)す。それが野菜作りの妙趣だろう。人の手抜き、天気の乱調、どちらがあってもうまくいかない。
手塩にかけて取り出した命は、不格好でも捨てられない。近ごろは「わけあり」と称して、ふぞろいの野菜も市場に出回るようになった。キズや色落ちのかわりに値は安く、なかなかの人気らしい。
アマチュア菜園にとって春耕は1年の計の立てどきだ。手作り野菜が四季のテーブルを彩ると思えば、鍬持つ手にも力が入る。手抜きを自戒し、お天道様が乱心せぬように祈りながら、種まく日を待つとする。【天声人語】
借りて2年目のわが市民農園も、今がその時期だ。鍬(くわ)を振るって石灰をまき、何日かおいて堆肥(たいひ)を鋤き込む。雨が土を黒く潤し、雲が切れて日が差せば、5坪ほどの猫の額も艶(つや)めいて「光る大地」の風格を見せる。育てる野菜を何にするか、思い巡らすときでもある。
〈畑はいつもきれいな色と よい風の吹いてゐる四季の卓子(たくし)である〉と書いたのは詩人の佐藤惣之助だった。卓子とはテーブル。その詩「畑」は、〈新らしい耕作の力は 光と熱で出来た風車のやうに もろもろの種子から花と葉をとりいだし……〉と続く。
そういえば、〈ものの種にぎればいのちひしめける〉という日野草城の名句もある。小さな種に満ちている命を、素人ながらに自然との共同作業で取り出(いだ)す。それが野菜作りの妙趣だろう。人の手抜き、天気の乱調、どちらがあってもうまくいかない。
手塩にかけて取り出した命は、不格好でも捨てられない。近ごろは「わけあり」と称して、ふぞろいの野菜も市場に出回るようになった。キズや色落ちのかわりに値は安く、なかなかの人気らしい。
アマチュア菜園にとって春耕は1年の計の立てどきだ。手作り野菜が四季のテーブルを彩ると思えば、鍬持つ手にも力が入る。手抜きを自戒し、お天道様が乱心せぬように祈りながら、種まく日を待つとする。【天声人語】
油にまつわる慣用句【余録】
油にまつわる慣用句は多い。調子づいて物事を誇張することを〈油を乗せる〉という。人を叱(しか)る時の〈油を絞る〉には別の意味もあるらしい。日本国語大辞典によれば「他者にさんざん苦労させて、その利益を自分のものにする」ことにも用いる。
航空運賃に燃料の急騰分を上乗せする「燃油サーチャージ」が、4月から大幅に下がるそうだ。昨年末に比べると、JALとANAの欧米線で片道3万3000円も上乗せされていたのが、3500円になる。
夏休みにはゼロになるかな、結構じゃないか、と喜ぶだけではお人好(ひとよ)しが過ぎよう。あの原油価格の狂乱ぶりは何だったか。
昨年の夏には1バレル=150ドルに迫り、200ドルもあり得ると見られていたのに、今は50ドル前後である。得体(えたい)の知れない投機マネーが〈油を乗せ〉、世界中の消費者から〈油を絞った〉。サーチャージ分のお金は、誰の懐に入ったのだろう。
…と、声がつい大きくなるのも、不況の出口が見えないせいか。庶民は〈油の涙〉(=非常に悲しく、つらく、苦しい時の涙)を流しているのに、政治の動きは〈油を売っている〉としか見えない。【余録】
航空運賃に燃料の急騰分を上乗せする「燃油サーチャージ」が、4月から大幅に下がるそうだ。昨年末に比べると、JALとANAの欧米線で片道3万3000円も上乗せされていたのが、3500円になる。
夏休みにはゼロになるかな、結構じゃないか、と喜ぶだけではお人好(ひとよ)しが過ぎよう。あの原油価格の狂乱ぶりは何だったか。
昨年の夏には1バレル=150ドルに迫り、200ドルもあり得ると見られていたのに、今は50ドル前後である。得体(えたい)の知れない投機マネーが〈油を乗せ〉、世界中の消費者から〈油を絞った〉。サーチャージ分のお金は、誰の懐に入ったのだろう。
…と、声がつい大きくなるのも、不況の出口が見えないせいか。庶民は〈油の涙〉(=非常に悲しく、つらく、苦しい時の涙)を流しているのに、政治の動きは〈油を売っている〉としか見えない。【余録】
千の風になって【有明妙】
空前のロングヒット「千の風になって」。作家の新井満さん(63)が妻を亡くしたふるさと新潟の幼なじみ川上耕さんために作曲した歌である。
48歳という若さで妻桂子さんを失った耕さんと3人の子ども。遺族の悲しみに新井さんは慰めの言葉もなかったという。桂子さんは生前、農業や環境問題、原発反対など人の命にかかわる運動に積極的に参加していたが、思い半ばで逝った桂子さんを追悼する仲間たちの文集に「千の風になって」の詩があった。
新井さんは何カ月もかかってその原詩となる英語詩を見つけ出し、独自の訳詩を書いた。それに曲をつけ、自分で歌った私家版のCDを作り「桂子さんをしのぶ会」で披露。仲間たちもみんな涙を流しながら歌ったそうだ。その歌を後に多くの歌手がカバーして大ヒットとなった。
先日、上京した折、新井さんと話す機会があった。電通マンだった新井さんは作家、作詞家、作曲家、環境映像プロデューサー…。いくつもの顔があるが「千の風・基金」について熱っぽく語った。
この基金は新井さんが取得している「千の風」の商標使用料をそのまま充てている。新潟の酒造会社が醸造する「吟醸 千の風」と、京都の平安女学院が販売している「お香 千の風になって」が売れる度に使用料が入る。商標取得には驚くが、新井さんはそのすべてを基金に回し、桂子さんが相談員をしていた「いのちの電話」などに寄付している。
自身の「千の風」関連の本やCDの印税の一部も基金に回す。「たとえささやかでも世の人のために…。誰にでもあるでしょう、そういう気持ち」。相変わらず政界は“政治とカネ”で右往左往だが、金の使い方を心得ている人の生き方は、さすがである。【有明妙】
48歳という若さで妻桂子さんを失った耕さんと3人の子ども。遺族の悲しみに新井さんは慰めの言葉もなかったという。桂子さんは生前、農業や環境問題、原発反対など人の命にかかわる運動に積極的に参加していたが、思い半ばで逝った桂子さんを追悼する仲間たちの文集に「千の風になって」の詩があった。
新井さんは何カ月もかかってその原詩となる英語詩を見つけ出し、独自の訳詩を書いた。それに曲をつけ、自分で歌った私家版のCDを作り「桂子さんをしのぶ会」で披露。仲間たちもみんな涙を流しながら歌ったそうだ。その歌を後に多くの歌手がカバーして大ヒットとなった。
先日、上京した折、新井さんと話す機会があった。電通マンだった新井さんは作家、作詞家、作曲家、環境映像プロデューサー…。いくつもの顔があるが「千の風・基金」について熱っぽく語った。
この基金は新井さんが取得している「千の風」の商標使用料をそのまま充てている。新潟の酒造会社が醸造する「吟醸 千の風」と、京都の平安女学院が販売している「お香 千の風になって」が売れる度に使用料が入る。商標取得には驚くが、新井さんはそのすべてを基金に回し、桂子さんが相談員をしていた「いのちの電話」などに寄付している。
自身の「千の風」関連の本やCDの印税の一部も基金に回す。「たとえささやかでも世の人のために…。誰にでもあるでしょう、そういう気持ち」。相変わらず政界は“政治とカネ”で右往左往だが、金の使い方を心得ている人の生き方は、さすがである。【有明妙】
ソメイヨシノ【春秋】
東京の桜はゆったりと百花乱れる花の4月へ向かっている。農民は稲の種まきの時期を告げる桜の開花を田の神としてあがめた。それが花見の起源だという。「桜ほど酒喰(くら)ふ樹はなかりけり」(雪膓(せっちょう))と、花の盛りを愛(め)でるのもいい。
桜の品種は330種ほどあるが、約8割の木はソメイヨシノ。江戸末期に野生種のオオシマザクラとエドヒガンザクラを交配して生まれ、すべて一部を切った挿し木などで増えた。元の性質を引き継ぐ一種のクローンだ。命名は1900年。成長が速くみごとな花をつけるため、広く普及し桜の代名詞となった。
千年桜などという長命なものはエドヒガンやベニシダレである。ソメイヨシノは複製のため、同環境なら一斉に空を覆うほどの大ぶりの花をつける。身を振り絞るかのような渾身(こんしん)の頑張りで圧倒的な量感で迫る。それゆえ消耗が激しい。開花期も短く寿命が短い原因の一つといわれる。せいぜい5、60年だろう。
日本最古のソメイヨシノは弘前公園にある。1882年に植えた生き残りだ。「桜切るばか、梅切らぬばか」といわれたが、公園の担当者は「それは過去の話。桜も枝を切って手入れすれば延命できる」という。見上げれば満開の花ではなく、ミサイルが降ってくるような“狼藉(ろうぜき)”は、春の日に御免蒙(ごめんこうむ)りたいが……。【春秋】
桜の品種は330種ほどあるが、約8割の木はソメイヨシノ。江戸末期に野生種のオオシマザクラとエドヒガンザクラを交配して生まれ、すべて一部を切った挿し木などで増えた。元の性質を引き継ぐ一種のクローンだ。命名は1900年。成長が速くみごとな花をつけるため、広く普及し桜の代名詞となった。
千年桜などという長命なものはエドヒガンやベニシダレである。ソメイヨシノは複製のため、同環境なら一斉に空を覆うほどの大ぶりの花をつける。身を振り絞るかのような渾身(こんしん)の頑張りで圧倒的な量感で迫る。それゆえ消耗が激しい。開花期も短く寿命が短い原因の一つといわれる。せいぜい5、60年だろう。
日本最古のソメイヨシノは弘前公園にある。1882年に植えた生き残りだ。「桜切るばか、梅切らぬばか」といわれたが、公園の担当者は「それは過去の話。桜も枝を切って手入れすれば延命できる」という。見上げれば満開の花ではなく、ミサイルが降ってくるような“狼藉(ろうぜき)”は、春の日に御免蒙(ごめんこうむ)りたいが……。【春秋】
破壊措置命令【中日春秋】
<時は春、/日は朝(あした)、/朝は七時、>とは、英国の詩人ブラウニングのあまりにも有名な詩『春の朝』の出だし。生き生きとした雲雀(ひばり)や蝸牛(かたつむり)、空には神の存在も感じられ…。穏やかな情景を描く詩は<すべて世は事も無し>と結ばれる(上田敏訳)。
残念だが、現実の春は<世は事も無し>とはいかない。わけても厄介なのは、北朝鮮の「人工衛星打ち上げ」名目での弾道ミサイル発射問題。もはや制止は困難な状況のようだ。攻撃されるわけではないが何とも気味が悪い。
政府はきのう、打ち上げ失敗でミサイルの一部などが日本の領土領海に落下する場合に備えて、自衛隊に、初めてミサイル防衛(MD)による破壊措置命令を発した。イージス艦や陸上からの迎撃ミサイルで破壊する計画という。
こんな物騒な態勢を余儀なくされて、日本としては迷惑千万だが、気になるのは、その必要が生じた時、果たして迎撃は成功するのかということだ。なにしろ、政府高官さえ精度を疑うようなことを口にしている。
世阿弥ではないが、世の中には「秘すれば花」ということがある。打ち上げ失敗で落下物があれば、手の内をさらさざるを得ない。迎撃失敗の可能性があるのなら、MDも、使わないまま有効だと思われている方がよい。
となると、この暴挙、即(すなわ)ち彼(か)の国の打ち上げ成功を望むよりないことになる。実に業腹だが。【中日春秋】
残念だが、現実の春は<世は事も無し>とはいかない。わけても厄介なのは、北朝鮮の「人工衛星打ち上げ」名目での弾道ミサイル発射問題。もはや制止は困難な状況のようだ。攻撃されるわけではないが何とも気味が悪い。
政府はきのう、打ち上げ失敗でミサイルの一部などが日本の領土領海に落下する場合に備えて、自衛隊に、初めてミサイル防衛(MD)による破壊措置命令を発した。イージス艦や陸上からの迎撃ミサイルで破壊する計画という。
こんな物騒な態勢を余儀なくされて、日本としては迷惑千万だが、気になるのは、その必要が生じた時、果たして迎撃は成功するのかということだ。なにしろ、政府高官さえ精度を疑うようなことを口にしている。
世阿弥ではないが、世の中には「秘すれば花」ということがある。打ち上げ失敗で落下物があれば、手の内をさらさざるを得ない。迎撃失敗の可能性があるのなら、MDも、使わないまま有効だと思われている方がよい。
となると、この暴挙、即(すなわ)ち彼(か)の国の打ち上げ成功を望むよりないことになる。実に業腹だが。【中日春秋】
二階経産相―献金疑惑の説明を求める
二階俊博・経済産業相が、地元の和歌山県で代表を務める自民党支部に対し、偽装献金が行われていた。カネの出どころは、小沢民主党代表の秘書が起訴された違法献金事件と同じく、準大手ゼネコンの西松建設だ。このような疑惑が報じられている。
この支部の政治資金収支報告書には06年と07年、個人献金としてそれぞれ計300万円の記載があった。ところが、実際は西松建設が社員60人の名義を使い、1人あたり5万円ずつ個人献金したかのように装ったもので、資金も西松が出していた。
5万円以下の個人献金は、献金者の氏名を報告書に載せなくてもいいという規定を悪用した可能性もある。
それだけではない。西松建設OBが社長を務める会社が、大阪市内でマンションを買い、二階氏を支援する政治団体に事務所として年間300万円近くで貸していた。
これらが、西松建設の関係者が明かす疑惑の内容だ。事実であれば、他人名義での献金を禁じた政治資金規正法に触れるのではないか。もし、この献金が事務所の賃貸料の穴埋めだったとしたら、事実上の無償提供にはならないのか。こうした疑問は消えない。
ほかにも西松建設は、小沢氏の秘書の事件にかかわったとされる二つの政治団体を経由させ、二階派のパーティー券計838万円分を購入していた。
経済産業相は産業全体の振興をつかさどる役職だ。なおのこと、特定の企業との癒着は許されない。
しかも、未曽有の経済危機克服のかじ取りをすべき経産相が公正さを疑われるようでは、その職責を十分に全うできるだろうか。
それにもかかわらず、二階氏は西松からの偽装献金疑惑について「私の方にはそういう認識はない。政治資金規正法に基づいた対応をきちんとやっているというふうに認識している」と述べるのにとどまっている。
小沢氏のケースと違い、秘書が逮捕・起訴されたわけではないから説明する必要はない。そう高をくくっているとしたら大間違いだ。
二階氏は、政策を決定し、公共事業に大きな影響力を持つ政権側に身を置く。しかも現職の主要閣僚であり、その説明責任は極めて重い。
麻生首相は「説明責任は政治家個人にかかっている」とひとごとのように話している。それですむ話ではなかろう。二階氏に、資料を公開し誠実に答えるよう促すべきだ。
西松側から献金を受け取っていた自民党議員はほかにもいるが、いまのところ、検察が立件したのは小沢代表側だけだ。自民党側に違法行為はなかったのかと国民は注視している。
検察は疑惑の全容解明のための捜査をつくしてほしい。
3/28 朝日新聞 社説
この支部の政治資金収支報告書には06年と07年、個人献金としてそれぞれ計300万円の記載があった。ところが、実際は西松建設が社員60人の名義を使い、1人あたり5万円ずつ個人献金したかのように装ったもので、資金も西松が出していた。
5万円以下の個人献金は、献金者の氏名を報告書に載せなくてもいいという規定を悪用した可能性もある。
それだけではない。西松建設OBが社長を務める会社が、大阪市内でマンションを買い、二階氏を支援する政治団体に事務所として年間300万円近くで貸していた。
これらが、西松建設の関係者が明かす疑惑の内容だ。事実であれば、他人名義での献金を禁じた政治資金規正法に触れるのではないか。もし、この献金が事務所の賃貸料の穴埋めだったとしたら、事実上の無償提供にはならないのか。こうした疑問は消えない。
ほかにも西松建設は、小沢氏の秘書の事件にかかわったとされる二つの政治団体を経由させ、二階派のパーティー券計838万円分を購入していた。
経済産業相は産業全体の振興をつかさどる役職だ。なおのこと、特定の企業との癒着は許されない。
しかも、未曽有の経済危機克服のかじ取りをすべき経産相が公正さを疑われるようでは、その職責を十分に全うできるだろうか。
それにもかかわらず、二階氏は西松からの偽装献金疑惑について「私の方にはそういう認識はない。政治資金規正法に基づいた対応をきちんとやっているというふうに認識している」と述べるのにとどまっている。
小沢氏のケースと違い、秘書が逮捕・起訴されたわけではないから説明する必要はない。そう高をくくっているとしたら大間違いだ。
二階氏は、政策を決定し、公共事業に大きな影響力を持つ政権側に身を置く。しかも現職の主要閣僚であり、その説明責任は極めて重い。
麻生首相は「説明責任は政治家個人にかかっている」とひとごとのように話している。それですむ話ではなかろう。二階氏に、資料を公開し誠実に答えるよう促すべきだ。
西松側から献金を受け取っていた自民党議員はほかにもいるが、いまのところ、検察が立件したのは小沢代表側だけだ。自民党側に違法行為はなかったのかと国民は注視している。
検察は疑惑の全容解明のための捜査をつくしてほしい。
3/28 朝日新聞 社説
津軽弁はむずかしい【編集手帳】
「奥の細道」の旅で芭蕉は青森県に寄らず、岩手県でUターンした。「言葉が通じにくいので」とは弘前市出身のタレント伊奈かっぺいさんの説だそうで、永六輔さんが「おしゃべり文化」(講談社)で紹介している。
津軽弁はむずかしい。太宰治の作品「ダスゲマイネ」は「ンダスケ、マイネ」(=だから駄目なんだ)という津軽弁をドイツ語風の題名にしたといわれるが、こういう遊びができるのも難解さゆえだろう。
警察の取調室でも方言は使われる。供述調書にそのまま記せば、県外出身の転勤族で裁判員に選ばれた人は戸惑うかも知れず、さりとて、標準語に直せば供述の生々しさが損なわれる。青森県警も頭を悩ませたらしい。
方言はそのままに、標準語で適宜補足することに落ち着きそうだ、という記事を読んだ。「うんでもいでまるど」には「腕をもいでしまうぞ」と注釈がつくようである。
容疑者の脅し文句にさえ、風雪の音が響く。国を挙げての大騒動の割に意義のあいまいな裁判員制度だが、歳月と風土が育てた言葉の魅力に触れる機会となるならば、転勤族には制度のささやかな功徳だろう。【編集手帳】
津軽弁はむずかしい。太宰治の作品「ダスゲマイネ」は「ンダスケ、マイネ」(=だから駄目なんだ)という津軽弁をドイツ語風の題名にしたといわれるが、こういう遊びができるのも難解さゆえだろう。
警察の取調室でも方言は使われる。供述調書にそのまま記せば、県外出身の転勤族で裁判員に選ばれた人は戸惑うかも知れず、さりとて、標準語に直せば供述の生々しさが損なわれる。青森県警も頭を悩ませたらしい。
方言はそのままに、標準語で適宜補足することに落ち着きそうだ、という記事を読んだ。「うんでもいでまるど」には「腕をもいでしまうぞ」と注釈がつくようである。
容疑者の脅し文句にさえ、風雪の音が響く。国を挙げての大騒動の割に意義のあいまいな裁判員制度だが、歳月と風土が育てた言葉の魅力に触れる機会となるならば、転勤族には制度のささやかな功徳だろう。【編集手帳】
1000円高速道路【余録】
昔の庶民の旅といえばお伊勢参りである。だが室町時代には伊勢に入っても神宮にたどりつくのが大変だった。参詣者の関銭目当ての関所がいたるところに設けられていたのだ。その数、伊勢の国だけで120カ所にのぼる。
とくに桑名からの街道の4里足らずの間には実に60カ所、つまり平均260メートルに一つの割合で関所があったから善男善女はたまらない。室町幕府ばかりではなく、国司の北畠氏や地方豪族たちもそれぞれ勝手に関銭を徴収していたのである。
その後、北畠氏や足利将軍家を滅ぼし、関所をたちまち一掃してしまったのが織田信長だった。この時、喜んで詰めかけた参詣者は街道から田畑や山河にまであふれた。まさに前代未聞の光景であった(今野信雄著「江戸の旅」岩波新書)。
さて道路からサービスエリアやパーキングエリアまで利用車があふれるかどうか。政府が景気対策として打ち出した地方の高速道路の「土日祝日1000円均一」が今日から本格的に始まった。自動料金収受システム(ETC)を装備した乗用車には関銭の急減となる新料金である。
もともと料金が高い日本の高速道路だ。無料化を掲げる野党をにらみ、政府与党が「信長はこちらだ」と国民にアピールするかのように打ち出したこの値下げである。いきおい他の交通政策や環境政策とすり合わせもなく、場当たり的な人気取りとの批判が出てくるのも仕方ない。
値下げの財源も2年限りとのことで、こちらの信長は関所を元に戻すのか。先のことも気になるが時は春だ。とりあえず関銭の節約できるチャンスに遠出しようという方には、くれぐれも安全運転で、楽しいご旅行を。【余録】
とくに桑名からの街道の4里足らずの間には実に60カ所、つまり平均260メートルに一つの割合で関所があったから善男善女はたまらない。室町幕府ばかりではなく、国司の北畠氏や地方豪族たちもそれぞれ勝手に関銭を徴収していたのである。
その後、北畠氏や足利将軍家を滅ぼし、関所をたちまち一掃してしまったのが織田信長だった。この時、喜んで詰めかけた参詣者は街道から田畑や山河にまであふれた。まさに前代未聞の光景であった(今野信雄著「江戸の旅」岩波新書)。
さて道路からサービスエリアやパーキングエリアまで利用車があふれるかどうか。政府が景気対策として打ち出した地方の高速道路の「土日祝日1000円均一」が今日から本格的に始まった。自動料金収受システム(ETC)を装備した乗用車には関銭の急減となる新料金である。
もともと料金が高い日本の高速道路だ。無料化を掲げる野党をにらみ、政府与党が「信長はこちらだ」と国民にアピールするかのように打ち出したこの値下げである。いきおい他の交通政策や環境政策とすり合わせもなく、場当たり的な人気取りとの批判が出てくるのも仕方ない。
値下げの財源も2年限りとのことで、こちらの信長は関所を元に戻すのか。先のことも気になるが時は春だ。とりあえず関銭の節約できるチャンスに遠出しようという方には、くれぐれも安全運転で、楽しいご旅行を。【余録】
背骨を抜かれる公務員制度改革
田中秀征の一言啓上 2009年3月26日
背骨を抜かれる公務員制度改革
国家公務員制度改革の目玉である『内閣人事局』は、大骨、小骨を抜かれ、ついに背骨まで抜かれようとしている。
背骨とは、来年4月に設置される内閣人事局長の位置付けである。
■官僚側についた麻生首相
すなわちこの局長を、官僚組織のトップである官房副長官の上におくか、それとも同格か、あるいは下におくか。局長を政治家にするか、官僚を充てるか。その点をめぐって、霞が関は改革を骨抜きにするため強い抵抗を続けてきた。そして、どうやら麻生太郎首相は官僚側についたようなのだ。
本欄で私は何度なく、日本の官僚組織の弊害は、つまるところすべて“お手盛り人事”に起因することを指摘してきた。それを放置すれば、あらゆる公務員制度改革が見せかけに終わることも警告してきた。
内閣人事局は、その弊害をなくすため省庁の幹部人事を一元的に管理することを目標とする。これには民主党も協議に加わって推進してきた。
ところが麻生首相は、局長人事についてあっさりと霞ヶ関の意向に同調したという。
「局長は政治家でない方がいい。だって恣意的な人事になる恐れがあるじゃないか」(3月23日毎日新聞)
しかし、この発言には根本的な誤りがある。
■政権交代でスタッフ者の入れ替えは当然のこと
1つは、政権交代によって、政権が幹部官僚を入れ替えるのは当然のこと。アメリカのオバマ政権もブッシュ政権のスタッフを交代できなければ、円滑な公約の遂行ができないではないか。
民主党の鳩山由紀夫幹事長は、この点について明確に言い切っている。
「政権を取った直後は、局長以上の官僚にはいったん辞表を提出してもらう」
これは当然過ぎるほど当然のこと。おそらく多くの国の政治家は、当然のことを言うこの発言に奇妙な印象を持つはずだ。それほど日本の官僚人事は特異なのだ。
政権交代が実現すれば、公約を遂行するために、幹部人事を政治任用で決めるのは必要不可欠のこと。それに反対することはどう考えても筋が通らない。
もう1つは、政治家が人事をやれば「恣意的な人事になる」というのは、明らかに自己否定になる。
官僚人事よりさらに重要な人事である閣僚人事はどうなるのか。それも“恣意的”なのか。官僚に人事を任せた方が公正なのなら、閣僚人事もそうすればよい。官僚の方が政治家より正しい判断をするということになれば、そもそも政治家、政党、国会、内閣を存続させることが無意味になる。
首相が全権を握る閣僚人事にはしばしば失敗や間違いがある。それと同じように、内閣人事局長に政治家がなれば間違うこともある。恣意的な人事になることもあるだろう。しかし、その人事の責任は明白に政治や首相に帰属する。今のように人事の責任がどこに帰属するかあいまいな状態よりはるかに世論のチェックが受けやすくなる。
■この問題は既に世論の監視下にある
報道されているように、「内閣人事局長」を事務の官房副長官が兼務するのであれば、内閣人事局は全く無用の長物となる。焼け太りになるなら今の方がまだましである。
自民党の中川秀直元幹事長は、この問題について明確な主張を展開している。
「幹部職員は、首相と一定程度、政治の結果責任を共有する。人事と政策を同時に変えられるようにしないといけない」(同毎日新聞)
民主党内ばかりでなく、自民党内にも首相の意向に異論を唱える人が多い。“官意”に従うか“民意”に従うかの瀬戸際なのである。
霞が関がこの問題の決着を急ぐのは、民主党への政権交代を恐れるからだと言われている。
遅くとも9月までには総選挙が行われて新政権が発足する。民主党政権ができれば官僚組織の思うようにはいかなくなる。その前にこの重大関心事に終止符を打って、内閣人事局の背骨を抜いてしまおうということだ。
だが、この問題は既に世論の監視下にある。与党が官意に従えば、そのことが目前の総選挙における致命傷になる。
田中秀征(たなか・しゅうせい)
1940年長野県生まれ。東京大学文学部西洋史学科、北海道大学法学部政治学科を卒業。83年衆議院議員に初当選。93年6月に自民党を離党して新党さきがけを結成、代表代行。自民党時代は宏池会(宮沢派)に所属。細川政権の発足に伴い首相特別補佐。第1次橋本内閣で経済企画庁長官。現在、福山大学教授。「民権塾」主宰。最近刊の「判断力と決断力」(ダイヤモンド社)をはじめ、「日本リベラルと石橋湛山」(講談社)、「梅の花咲く 決断の人 高杉晋作」(講談社)、「舵を切れ 質実国家への展望」(朝日新聞社)などの著書がある。
背骨を抜かれる公務員制度改革
国家公務員制度改革の目玉である『内閣人事局』は、大骨、小骨を抜かれ、ついに背骨まで抜かれようとしている。
背骨とは、来年4月に設置される内閣人事局長の位置付けである。
■官僚側についた麻生首相
すなわちこの局長を、官僚組織のトップである官房副長官の上におくか、それとも同格か、あるいは下におくか。局長を政治家にするか、官僚を充てるか。その点をめぐって、霞が関は改革を骨抜きにするため強い抵抗を続けてきた。そして、どうやら麻生太郎首相は官僚側についたようなのだ。
本欄で私は何度なく、日本の官僚組織の弊害は、つまるところすべて“お手盛り人事”に起因することを指摘してきた。それを放置すれば、あらゆる公務員制度改革が見せかけに終わることも警告してきた。
内閣人事局は、その弊害をなくすため省庁の幹部人事を一元的に管理することを目標とする。これには民主党も協議に加わって推進してきた。
ところが麻生首相は、局長人事についてあっさりと霞ヶ関の意向に同調したという。
「局長は政治家でない方がいい。だって恣意的な人事になる恐れがあるじゃないか」(3月23日毎日新聞)
しかし、この発言には根本的な誤りがある。
■政権交代でスタッフ者の入れ替えは当然のこと
1つは、政権交代によって、政権が幹部官僚を入れ替えるのは当然のこと。アメリカのオバマ政権もブッシュ政権のスタッフを交代できなければ、円滑な公約の遂行ができないではないか。
民主党の鳩山由紀夫幹事長は、この点について明確に言い切っている。
「政権を取った直後は、局長以上の官僚にはいったん辞表を提出してもらう」
これは当然過ぎるほど当然のこと。おそらく多くの国の政治家は、当然のことを言うこの発言に奇妙な印象を持つはずだ。それほど日本の官僚人事は特異なのだ。
政権交代が実現すれば、公約を遂行するために、幹部人事を政治任用で決めるのは必要不可欠のこと。それに反対することはどう考えても筋が通らない。
もう1つは、政治家が人事をやれば「恣意的な人事になる」というのは、明らかに自己否定になる。
官僚人事よりさらに重要な人事である閣僚人事はどうなるのか。それも“恣意的”なのか。官僚に人事を任せた方が公正なのなら、閣僚人事もそうすればよい。官僚の方が政治家より正しい判断をするということになれば、そもそも政治家、政党、国会、内閣を存続させることが無意味になる。
首相が全権を握る閣僚人事にはしばしば失敗や間違いがある。それと同じように、内閣人事局長に政治家がなれば間違うこともある。恣意的な人事になることもあるだろう。しかし、その人事の責任は明白に政治や首相に帰属する。今のように人事の責任がどこに帰属するかあいまいな状態よりはるかに世論のチェックが受けやすくなる。
■この問題は既に世論の監視下にある
報道されているように、「内閣人事局長」を事務の官房副長官が兼務するのであれば、内閣人事局は全く無用の長物となる。焼け太りになるなら今の方がまだましである。
自民党の中川秀直元幹事長は、この問題について明確な主張を展開している。
「幹部職員は、首相と一定程度、政治の結果責任を共有する。人事と政策を同時に変えられるようにしないといけない」(同毎日新聞)
民主党内ばかりでなく、自民党内にも首相の意向に異論を唱える人が多い。“官意”に従うか“民意”に従うかの瀬戸際なのである。
霞が関がこの問題の決着を急ぐのは、民主党への政権交代を恐れるからだと言われている。
遅くとも9月までには総選挙が行われて新政権が発足する。民主党政権ができれば官僚組織の思うようにはいかなくなる。その前にこの重大関心事に終止符を打って、内閣人事局の背骨を抜いてしまおうということだ。
だが、この問題は既に世論の監視下にある。与党が官意に従えば、そのことが目前の総選挙における致命傷になる。
田中秀征(たなか・しゅうせい)
1940年長野県生まれ。東京大学文学部西洋史学科、北海道大学法学部政治学科を卒業。83年衆議院議員に初当選。93年6月に自民党を離党して新党さきがけを結成、代表代行。自民党時代は宏池会(宮沢派)に所属。細川政権の発足に伴い首相特別補佐。第1次橋本内閣で経済企画庁長官。現在、福山大学教授。「民権塾」主宰。最近刊の「判断力と決断力」(ダイヤモンド社)をはじめ、「日本リベラルと石橋湛山」(講談社)、「梅の花咲く 決断の人 高杉晋作」(講談社)、「舵を切れ 質実国家への展望」(朝日新聞社)などの著書がある。
政治は草野球並み【春秋】
打たれて失点する分には打って取り返してやるという反発心もわくが、失策で失った点は取り戻せない。プロ野球横浜の元監督、権藤博さんが本紙で持論の経験則を披露していた。エラーの失点は「こんなことで取られちゃった」と尾を引くだけなのだという。
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を見て、権藤さんは経験則に対する自信を深めたらしい。まことに、トップレベルの選手が緊張の極で一点を争えばそうなろう。しかし、エラーでしゅんとなったチームが今度は相手のエラーで息を吹き返すような試合だって、実際にはある。
そんなダレた試合に延々付き合ってきた気がする。半年前、プレーボールの声に麻生自民対小沢民主の術を尽くした点の取り合いを夢見たのが浅はかだったか。なにせキーワードが「敵失」なのだ。最近自民党が敵失で勢いづいたと思ったら、次は大臣規範に反して株を売った平田耕一財務副大臣の辞任劇である。
きょうは2009年度予算案が成立する節目だが、敵失待ちの流れは変わりそうもない。西松建設献金事件の展開次第では、双方にまた失策が出るだろう。得点すべて敵失がらみ。それを称して草野球並みという。草野球はグラウンドに笑いが響けば済む。が、プロの試合だったら。観客はあきれてそっぽを向く。【春秋】
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を見て、権藤さんは経験則に対する自信を深めたらしい。まことに、トップレベルの選手が緊張の極で一点を争えばそうなろう。しかし、エラーでしゅんとなったチームが今度は相手のエラーで息を吹き返すような試合だって、実際にはある。
そんなダレた試合に延々付き合ってきた気がする。半年前、プレーボールの声に麻生自民対小沢民主の術を尽くした点の取り合いを夢見たのが浅はかだったか。なにせキーワードが「敵失」なのだ。最近自民党が敵失で勢いづいたと思ったら、次は大臣規範に反して株を売った平田耕一財務副大臣の辞任劇である。
きょうは2009年度予算案が成立する節目だが、敵失待ちの流れは変わりそうもない。西松建設献金事件の展開次第では、双方にまた失策が出るだろう。得点すべて敵失がらみ。それを称して草野球並みという。草野球はグラウンドに笑いが響けば済む。が、プロの試合だったら。観客はあきれてそっぽを向く。【春秋】
ヤミ専従隠し 農水省はウソで信頼失った
農林水産省職員のヤミ専従問題で、井出道雄事務次官は松島浩道秘書課長ら2人の更迭を発表した。調査結果を改ざんし、一部報道機関の取材に対し虚偽の説明をしていたという理由だ。公務員としてはあってはならない不適切な行為であり、更迭は当然だ。
給与を受け取りながら無許可で組合活動をしている「ヤミ専従」問題は、社会保険庁で問題となった。内部告発を受けた農水省は昨年4月、全国の地方農政局などの組合幹部を対象に勤務実態について3回の調査を行った。その結果、最初の調査ではヤミ専従の疑いのある職員が142人いたが、秘書課が組合側に再調査を通告して実施した2回目には48人に減り、3回目にはゼロになった。組合側に事前通告した上での結果であり、明らかに不適切な調査だ。
さらに、秘書課長は取材に対し、ヤミ専従者の人数や調査の日付を改ざん、ヤミ専従の疑いが48人だったと虚偽の説明をした。
ヤミ専従は国家公務員法などに抵触する違法行為であり、事実関係の改ざんは国民を裏切るものである。石破茂農相は「私自身が関与して、実態を徹底的に明らかにする」と述べているが、国民の不信を取り除くためにもヤミ専従の全容解明と、それに基づく厳正な処分を行ってもらいたい。いつから、何人がヤミ専従をしていたのか。出先機関で、なぜ違法な専従活動が続いてきたのかなど、解明すべきことは多い。
ヤミ専従が最初に問題化した社会保険庁と同じように、職員は不正に受給した給与を全額返還すべきだ。
秘書課長ら現場の判断で、改ざんを行ったのかという点についても徹底解明を求めたい。
また、取材への対応について秘書課長は上司である井出事務次官と官房長に「途中経過は省いて説明する」と伝えていたという。これに対し井出次官は会見で「虚偽説明するとは私も官房長も聞いていなかった」と述べている。次官らにどんな報告をしたのか、虚偽説明について上司に報告し了解を得ていたのか否か。こうした点を調査し、事実を公表すべきだ。
社会保険庁でヤミ専従が発覚後の昨年5月、総務省が全省庁の実態調査を行った。この時、すでに調査を終え、ヤミ専従の事実を確認していた農水省は最初、15人に疑いがあるとしたが、その後「詳細調査でゼロだった」と回答していた。この点の説明も聞きたい。
「ヤミ専従があったのは社保庁と農水省だけか」。多くの国民はそう受け止めている。全省庁は再調査を行ってヤミ専従の実態を明らかにすべきだ。調査は官僚ではなく、第三者による委員会を設けて実施してもらいたい。違法行為が確認されれば、適正な措置を講じる。これが信頼回復に向けて農水省が取り組むべきことだ。
3/27 毎日新聞 社説
給与を受け取りながら無許可で組合活動をしている「ヤミ専従」問題は、社会保険庁で問題となった。内部告発を受けた農水省は昨年4月、全国の地方農政局などの組合幹部を対象に勤務実態について3回の調査を行った。その結果、最初の調査ではヤミ専従の疑いのある職員が142人いたが、秘書課が組合側に再調査を通告して実施した2回目には48人に減り、3回目にはゼロになった。組合側に事前通告した上での結果であり、明らかに不適切な調査だ。
さらに、秘書課長は取材に対し、ヤミ専従者の人数や調査の日付を改ざん、ヤミ専従の疑いが48人だったと虚偽の説明をした。
ヤミ専従は国家公務員法などに抵触する違法行為であり、事実関係の改ざんは国民を裏切るものである。石破茂農相は「私自身が関与して、実態を徹底的に明らかにする」と述べているが、国民の不信を取り除くためにもヤミ専従の全容解明と、それに基づく厳正な処分を行ってもらいたい。いつから、何人がヤミ専従をしていたのか。出先機関で、なぜ違法な専従活動が続いてきたのかなど、解明すべきことは多い。
ヤミ専従が最初に問題化した社会保険庁と同じように、職員は不正に受給した給与を全額返還すべきだ。
秘書課長ら現場の判断で、改ざんを行ったのかという点についても徹底解明を求めたい。
また、取材への対応について秘書課長は上司である井出事務次官と官房長に「途中経過は省いて説明する」と伝えていたという。これに対し井出次官は会見で「虚偽説明するとは私も官房長も聞いていなかった」と述べている。次官らにどんな報告をしたのか、虚偽説明について上司に報告し了解を得ていたのか否か。こうした点を調査し、事実を公表すべきだ。
社会保険庁でヤミ専従が発覚後の昨年5月、総務省が全省庁の実態調査を行った。この時、すでに調査を終え、ヤミ専従の事実を確認していた農水省は最初、15人に疑いがあるとしたが、その後「詳細調査でゼロだった」と回答していた。この点の説明も聞きたい。
「ヤミ専従があったのは社保庁と農水省だけか」。多くの国民はそう受け止めている。全省庁は再調査を行ってヤミ専従の実態を明らかにすべきだ。調査は官僚ではなく、第三者による委員会を設けて実施してもらいたい。違法行為が確認されれば、適正な措置を講じる。これが信頼回復に向けて農水省が取り組むべきことだ。
3/27 毎日新聞 社説
明と暗【産経妙】
日本の夜は明るすぎる、という声をよく聞く。すでに70年以上前に谷崎潤一郎が、『陰翳礼讃』のなかで、パリから帰ってきた知人に聞いた話として紹介している。欧州の都市に比べると、東京や大阪の夜は格段に明るい。
おそらく、世界中で電灯を贅沢(ぜいたく)に使っている国は、アメリカと日本であろう、と。かつては、暗くてじめじめしたイメージの強かった公共トイレでさえ最近では、明るく清潔になった、と評判がいい。あまり快適すぎて、携帯ゲームや昼寝で長居をする不心得者まで現れるほどだ。
日本人の生活空間から、暗がりがどんどん消えようとしている。一方で新聞を開けば、あいかわらず「闇」の字のつく言葉が目立つ。動機のわからない凶悪犯罪が起きれば、犯人の「心の闇」に関心が集まる。先週、闇サイトで知り合い帰宅途中の女性から金を奪って殺害した男たちに、死刑や無期懲役の判決が出た。
今、農林水産省を揺るがしているのが、「ヤミ専従」問題だ。通常の仕事をしているように見せかけて、実は組合活動に専従している悪質な行為を指す。人事院に届いた告発のメールによって調査が始まり、職員142人の疑惑が浮かび上がった。
その調査結果を隠蔽(いんぺい)していた秘書課長が、きのう更迭された。もちろん、一件落着というわけにはいかない。本省幹部が、職員組合を腫れ物に触るように扱う理由は何だったのか。農水省の闇の深さは、底が知れない。
谷崎は、『陰翳礼讃』で、日本住宅の薄暗さや真っ暗闇のなかの一点の灯明に、西洋文化にはない美を見いだした。それなのに家を建てるとき、建築家に「海からの光が入る明るい部屋」との注文を出した。詩人の飯島耕一さんのエッセーで知ったエピソードだ。【産経妙】
おそらく、世界中で電灯を贅沢(ぜいたく)に使っている国は、アメリカと日本であろう、と。かつては、暗くてじめじめしたイメージの強かった公共トイレでさえ最近では、明るく清潔になった、と評判がいい。あまり快適すぎて、携帯ゲームや昼寝で長居をする不心得者まで現れるほどだ。
日本人の生活空間から、暗がりがどんどん消えようとしている。一方で新聞を開けば、あいかわらず「闇」の字のつく言葉が目立つ。動機のわからない凶悪犯罪が起きれば、犯人の「心の闇」に関心が集まる。先週、闇サイトで知り合い帰宅途中の女性から金を奪って殺害した男たちに、死刑や無期懲役の判決が出た。
今、農林水産省を揺るがしているのが、「ヤミ専従」問題だ。通常の仕事をしているように見せかけて、実は組合活動に専従している悪質な行為を指す。人事院に届いた告発のメールによって調査が始まり、職員142人の疑惑が浮かび上がった。
その調査結果を隠蔽(いんぺい)していた秘書課長が、きのう更迭された。もちろん、一件落着というわけにはいかない。本省幹部が、職員組合を腫れ物に触るように扱う理由は何だったのか。農水省の闇の深さは、底が知れない。
谷崎は、『陰翳礼讃』で、日本住宅の薄暗さや真っ暗闇のなかの一点の灯明に、西洋文化にはない美を見いだした。それなのに家を建てるとき、建築家に「海からの光が入る明るい部屋」との注文を出した。詩人の飯島耕一さんのエッセーで知ったエピソードだ。【産経妙】
副大臣辞任―政権のタガが緩んでいる
在任期間中は、株式等の有価証券、不動産、ゴルフ会員権等の取引を自粛する――閣僚と副大臣、政務官は、就任する時に「大臣規範」を守ることを誓う。その一節である。
平田耕一財務副大臣が、これをまったく無視した多額の株取引をしていたことが報道で発覚し、辞任した。
弟が社長を務める上場企業の株式112万株を、平田氏が事実上のオーナーである会社に約6億円で売却していた。証券市場を通さない市場外取引で、売却価格は市場の2倍だった。
平田氏は「価格は適正で、決してやましいとは思わない」と国会で釈明した。しかし、株取引をしただけでも大臣規範に反する。さらに、市場外取引の価格は相対で決まるとはいうものの、2倍もの高値は他の株主や投資家との公平性を害しかねない。
市場の公平性を支える立場である財務省の副大臣として、政治的、道義的責任は重い。
そもそも大臣規範とは何なのか。
中央省庁が再編された01年、副大臣や政務官として多くの政治家が新たに政府の公職に就くことになった。しかし、自民党の議員には、不透明な資金をめぐってさまざまな事件に問われたり、疑惑を招いたりした過去がある。
そのたびに申し合わせた規範をまとめて閣議決定し、自ら身を律することで国民に信頼してもらいたい。それが大臣規範の狙いだった。
規範の中身はごくごく当たり前のことばかりだ。株式などの取引自粛のほか、関係業者からの供応接待の禁止、営利企業の役職兼務の禁止など。要は、政府の要職にある者として、公正性や中立性を疑われるような行為はやめよう、ということである。
麻生内閣の発足からわずか半年だが、この誓いへの裏切りとも見える出来事は平田氏の件だけではない。
最近、塩谷立・文部科学相が都心のホテルで政治資金パーティーを開いた。財界人の講演に約250人、懇親会に約350人が参加したという。
規範には「国民の疑惑を招きかねないような大規模な政治資金パーティーの開催は自粛する」とある。このパーティーがそれに当たるかどうかはおくとしても、そこでの笹川尭・自民党総務会長のあいさつにはあぜんとした。
「閣僚になると会をやっちゃいけないんだが、誰かが掟(おきて)を破ってもらわないと後から続く人が困る。『塩谷先生がいいならオレも』という人が出てくれば、ぜひ物心ともにご支援を」
大臣規範に罰則はない。とはいえ、与党幹部が「掟」破りを奨励するかのような発言を公然とする神経を疑う。
麻生政権のタガが緩んでいる。ライバル民主党の党首の公設秘書が起訴された「敵失」で、よもや気が緩んでいるわけではあるまいが。
3/27 朝日新聞 社説
平田耕一財務副大臣が、これをまったく無視した多額の株取引をしていたことが報道で発覚し、辞任した。
弟が社長を務める上場企業の株式112万株を、平田氏が事実上のオーナーである会社に約6億円で売却していた。証券市場を通さない市場外取引で、売却価格は市場の2倍だった。
平田氏は「価格は適正で、決してやましいとは思わない」と国会で釈明した。しかし、株取引をしただけでも大臣規範に反する。さらに、市場外取引の価格は相対で決まるとはいうものの、2倍もの高値は他の株主や投資家との公平性を害しかねない。
市場の公平性を支える立場である財務省の副大臣として、政治的、道義的責任は重い。
そもそも大臣規範とは何なのか。
中央省庁が再編された01年、副大臣や政務官として多くの政治家が新たに政府の公職に就くことになった。しかし、自民党の議員には、不透明な資金をめぐってさまざまな事件に問われたり、疑惑を招いたりした過去がある。
そのたびに申し合わせた規範をまとめて閣議決定し、自ら身を律することで国民に信頼してもらいたい。それが大臣規範の狙いだった。
規範の中身はごくごく当たり前のことばかりだ。株式などの取引自粛のほか、関係業者からの供応接待の禁止、営利企業の役職兼務の禁止など。要は、政府の要職にある者として、公正性や中立性を疑われるような行為はやめよう、ということである。
麻生内閣の発足からわずか半年だが、この誓いへの裏切りとも見える出来事は平田氏の件だけではない。
最近、塩谷立・文部科学相が都心のホテルで政治資金パーティーを開いた。財界人の講演に約250人、懇親会に約350人が参加したという。
規範には「国民の疑惑を招きかねないような大規模な政治資金パーティーの開催は自粛する」とある。このパーティーがそれに当たるかどうかはおくとしても、そこでの笹川尭・自民党総務会長のあいさつにはあぜんとした。
「閣僚になると会をやっちゃいけないんだが、誰かが掟(おきて)を破ってもらわないと後から続く人が困る。『塩谷先生がいいならオレも』という人が出てくれば、ぜひ物心ともにご支援を」
大臣規範に罰則はない。とはいえ、与党幹部が「掟」破りを奨励するかのような発言を公然とする神経を疑う。
麻生政権のタガが緩んでいる。ライバル民主党の党首の公設秘書が起訴された「敵失」で、よもや気が緩んでいるわけではあるまいが。
3/27 朝日新聞 社説
負けられぬ一局【編集手帳】
プロ棋士にとって、意地でも負けられない一局とは何だろう。タイトル戦でも、昇段のかかる一番でもないと、将棋の永世棋聖、米長邦雄さんは言う。
語録にある。〈勝ち負けが自分には影響がなく、だが、対戦相手にはこの上なく重い意味をもつ一局、そういう勝負こそ全身全霊で勝たねばならない〉と。
どうせ勝ったところで…と手を抜けば、勝負師たるおのれを否定することになる。「意識の外に自分を消し去り、相手を消し去り、盤上だけが残ったときに神が降りてくる。イチロー選手の上に降りてきたように、ね」。引用の正確を期すべく確認すると、米長さんは電話口で付言してくださった。
「負けられぬ一局」を相撲に例えれば、自分はすでに負け越しが決まって、勝ち越せるかどうか瀬戸際の相手を迎えた取組がそうだろう。残念ながら一方的な無気力相撲もときにはある。
週刊誌の「八百長」報道をめぐる名誉棄損訴訟はきのう、東京地裁で力士側勝訴の判決が言い渡されたが、無気力相撲にはこれからも疑惑の目が向けられよう。春場所も終盤、土俵上に神の降りてくる相撲が見たいものである。【編集手帳】
語録にある。〈勝ち負けが自分には影響がなく、だが、対戦相手にはこの上なく重い意味をもつ一局、そういう勝負こそ全身全霊で勝たねばならない〉と。
どうせ勝ったところで…と手を抜けば、勝負師たるおのれを否定することになる。「意識の外に自分を消し去り、相手を消し去り、盤上だけが残ったときに神が降りてくる。イチロー選手の上に降りてきたように、ね」。引用の正確を期すべく確認すると、米長さんは電話口で付言してくださった。
「負けられぬ一局」を相撲に例えれば、自分はすでに負け越しが決まって、勝ち越せるかどうか瀬戸際の相手を迎えた取組がそうだろう。残念ながら一方的な無気力相撲もときにはある。
週刊誌の「八百長」報道をめぐる名誉棄損訴訟はきのう、東京地裁で力士側勝訴の判決が言い渡されたが、無気力相撲にはこれからも疑惑の目が向けられよう。春場所も終盤、土俵上に神の降りてくる相撲が見たいものである。【編集手帳】